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リアクション
第二章
「ええと、こんにちは。ティア・リヒカイト、っていいます」
集まった参加者を見渡して、ティアはぺこりと頭を下げました。
「今日はお越しいただいてありがとうございます。がんばらせていただきますのでよろしくお願いします」
緊張した面持ちで挨拶を済ませたティアは、さっそく講義に移ります。
簡単に作れる組み紐のお守りと、紋様を使ったお守りの作り方を、実際に作りながら進めていきます。
「込める願いによってこの紋様のかたちは違ってきます。恋のお守りはこれ……戦いのお守りはこういうかたちです」
ティアが図でいくつが示した形を、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が一生懸命メモに書き写しています。
「……と、これくらいかな。紋様を入れる時はしっかり願いを込めてあげてくださいね」
「あ、質問!」
説明を終えて言葉を切ったティアに、匿名 某(とくな・なにがし)が手を挙げて見せました。
「は、はい!」
「これ以外の紋様っていうのはあるのか? 恋愛や戦い以外の……もっと個人的な願いとか」
某の問いにティアは頷きます。
「もちろんこれ以外にもいっぱいあります。だけど全部は紹介しきれないので……、願いに応じてお伝えしようかと」
「なるほど、了解」
「それじゃあ実際に作ってみましょう。難しいところは人それぞれ違うと思います、ので何かあれば聞いてください」
ティアがそう言うと待ちかねたとばかりに各々が目の前にある素材に手を伸ばしました。
某の隣に座した結崎 綾耶(ゆうざき・あや)も、少し悩んでから『無病息災』のための紋様を編み始めました。
「こういうお守りは初めて作りますけど……上手く出来ますかね」
「大丈夫だろ。まぁ、要は気持ちだろうし、困ったらティアもいるしな」
「そう、ですね」
目の前の席で必死に紋様を編む博季の姿を見て、綾耶はそっと微笑みました。
思いを込めた分だけ、きっと効果があるのでしょう。
「こうやって紋様を描くのではなく編むというのは新鮮ですわね……。昔みしるしに魔除けや装飾として紋様を描くという文化があったそうですが……これはまた新しいですわ」
休むことなく手を動かしながら、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)はそう独りごちました。
そんな優梨子が作ろうとしているお守りのかたちは、随分変わった形をしているようです。
まるで吊り下げられた首級のようなフォルムに、傍で手を動かしていた日比谷 皐月(ひびや・さつき)は訝しげに首を傾げました。
「皐月さん」
と、横から声をかけられて皐月は手を止めました。ティアです。
「お久し振りです」
「ああ、ティア。久し振りだね」
「はい。お変わりないようでよかったです」
安堵したように微笑んだティアは、皐月の手元に視線を落としました。
「すこし難しかったでしょうか……」
片手でお守りを作っている皐月には、編み込むお守りは多少難儀なようです。
「じゃあ、少しだけヒントを」
と、ティアが悪戯っぽく笑って、ペンと紙を取りました。
「それぞれの形を組み合わせることで力を発揮するんです。編まなくてもそれさえきっちり抑えてくれれば効果が出ます」
そう言って楕円や星のような形などをいくつか紙に書きます。
「そしてこれをこうやって……描き入れたり縫い込んだりしてあげると……」
「あーなるほどな。これなら慣れれば俺でもできそうだ」
こっそり教えていると某がふらりと現れました。
「よう、日比谷。お前もお守り作りに来たのか?」
「匿名」
「そう言えばチャームとか作ってんだっけ。他の作り方覚えるいいチャンスだよな」
「ああ、だな。ティアのお守りはなかなか面白い作り方だよ」
「かもなー。俺は詳しくねーけど悪くないな。けどやっぱガラじゃねぇからやるよ」
「え、」
「素人作だから効果は薄いかもだけど、何かあった時に身代わりくらいにはなるかもしんねーしな」
某がお守りを皐月の傍に置いて席を立ちます。
皐月がそれを呼びとめようとした瞬間――
「な、何で!?」
ふと雅羅の声が聞こえました。
大きな声に何事かと振り向くと、雅羅が慌てたように辺りを見回しています。
どうやら雅羅の分だけお守りの材料が足りないようです。
人数分用意したはずなのにどういうことでしょう。
駆け寄ったティアも、雅羅の傍のみんなも近くを探します。
「下にない?」
「さっきまでありましたわよね」
「あっ、あった!」
ごそごそ、ぱたぱた。
少しの間探していると愛美が下方を指して声をあげました。
その言葉に雅羅がぱっと身を寄せます。
「何処!? ――きゃっ!?」
「ひゃあっ!」
ばたーん!!
二人分の悲鳴と騒々しい音がして、床に転がる二人の少女。
材料を拾おうとして手を伸ばした雅羅がバランスを崩し、愛美の上に折り重なってしまいました。
「ご、ごめんなさい」
「あ、う、うん……怪我はない?」
気まずい空気の中、内心微笑みながらお守りを握っている少女が一人。朝野 未沙(あさの・みさ)でした。
彼女の願いは雅羅と愛美が「仲良く」すること。
この事故も未沙のお守りの効果、なのでしょうか。
「……ふぅん、効果は確かみたいね」
もっとやっちゃお、と内心ほくそ笑んだ未沙は、持ち前の器用さで次のお守り作りに取り掛かります。
何とかお守りの材料をそろえた雅羅も、ティアが見守る横でさっそく作り始めます。
「がんばろーね! ティアのお守りならきっと愛美にも雅羅にも幸せがくるよ」
美羽がにこにこと励ますと、二人は気合十分とばかりに頷いて紋様を編み始めるのでした。
「……あー何かすげぇことになってんなー」
騒ぎを見ていた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、手を止めて案ずるように雅羅を見遣りました。
そして自分の手元にある材料とを見比べて、よしっと気合を入れ直します。
「俺もあいつの為に何か作ってやるか……可愛い後輩だもんな!」
そうこうしている間に何とか騒ぐ声は収まり、またあちらこちらで世間話に変わっていくのでした。
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