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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別

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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別
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第五篇:騎沙良 詩穂×アイシャ・シュヴァーラ

現代日本のカトリックのお嬢様女子校。吹奏楽部が使用している部室には放課後、それもかなり遅い時間ということもあって、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)の二人だけになっていた。
「すっかり遅くなっちゃったね。アイシャちゃん」
 チェロを弾いていた詩穂はロングスカートに皺をつけないように注意して立ち上がって、壁にかけられた時計を見上げると、そのまま隣に座ってコントラバスを弾くアイシャの瞳を見つめながら語りかける。
 今の二人は、現代日本のカトリックのお嬢様女子校の生徒だ。それゆえ、服装も落ち着いた色合いのモスグリーンに染め上げられたブレザーと同色のロングスカートに白の三つ折りソックスという、やはりお嬢様女子高らしい制服だった。
 アイシャは、パラミタで詩穂が何度も命を救った最愛の人だが、『本』の中の世界では吹奏楽部の仲間だ。
 二人はいつも放課後遅くまで一緒に練習していた。なぜなら、もうすぐコンクールがあるから。
「今日は珍しく、みんなもう帰っちゃったね。……アイシャちゃんと詩穂だけになっちゃった」
 期せずして二人きりになったこの状況に、詩穂はさっきからドキドキしていた。
(重要なのは、相手の気持ちを考えてあげれるかだよね……)
 早鐘のように加速する鼓動を感じながら、詩穂は更に自問自答を重ねていく。
(恋愛って1人でするものじゃなく、相手の気持ちがあって2人でするのだから。そして、恋愛したいって思う時期は人それぞれ異なるよね)
 詩穂がちらりと横を見れば、すぐそばにあるアイシャの端整な横顔。その控えめに上気する胸の動き、更には微かな息遣いすらも聞こえてきそうなほど近付いた状態で、静かな空間に二人きり。
(コンクールが近いから忙しいと思っていたけど、やっぱり気持ちを伝えたい。一緒に同じ想いを共有して、恋の旋律を奏でて優勝したいんだ)
 詩穂はついに胸中で決断を下す。
 詩穂はアイシャを好きという気持ちだけで此処までこれた。照れくさいけど今は素直にアイシャに『ありがとう』と思っている。
 詩穂が単純なのかもしれない。
 しかし、アイシャが練習中に横に居るだけ、何気ない一言、コンクールで優勝しようって互いに交わした約束、そうした小さなことの一つ一つ、それら全てにドキドキしたのは紛れもない事実なのだ。
「アイシャちゃん。詩穂はずっとアイシャちゃんが好きだったよ。それで、これからもずっと好き、だから――」
 アイシャの瞳を真っ直ぐに見つめ、詩穂が思いを口にした途端、そっと立ち上がったアイシャは自分の唇を詩穂の唇に合わせ、彼女の口を塞ぐ。 
 全てを言い切る必要はなかった。すでに、互いの想いは通じ合っているのだから――。
 その事実を理解し、詩穂は放課後の部室で幸せに包まれた。
 この気持ちが詩穂の学園生活での大切な宝物。この宝物が、ずっと輝き続けんことを。