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取り憑かれしモノを救え―調査の章―

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取り憑かれしモノを救え―調査の章―
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●檻

 それは突然訪れた。
 相田なぶら(あいだ・なぶら)は自分の今の実力で放てる魔法の残数をカウントしていた。まだ、丁度半分といったところだった。
 しかしミルファに向かって振るう【ライトブリンガー】の光が発現しなくなっていた。
「え……?」
 驚きになぶらは攻撃の手が止まってしまった。
 それを見落とすミルファではなかった。
 一気呵成とばかりに、振るう剣速を早めなぶらを追い詰める。
 なんとか合わせて捌くがそれも、長くは続かない。
 なぶらの振るう剣がはじかれ、地面に落ちる。そうしてミルファは遊ぶようにして、なぶらを剣の平で打ち付けた。
 そのまま肩で体当たりをもらってしまったなぶらは弾き飛ばされた。
 あまりの威力に意識が持っていかれそうになる。しかし地面に落ちた剣をつかみなおし、それを杖代わりにして立ち上がった。
「楽しいね。まだ戦意を捨てない敵がいるなんて!」
 ミルファは楽しそうにクツクツと笑う。
 衣服は最低限の衣服としての機能しか保持しておらず、ぼろぼろではあったが、その下に見える素肌には傷一つなかった。
 大して、ミルファを足止めすると言って相対している者たちは持久戦に持ち込まれ、疲弊していた。
 風森巽(かぜもり・たつみ)は木に打ち付けられそのまま気を失っている。
 気を失った反動で仮面ツァンダーソークー1の変身は解けてしまっていた。
 前衛として、ミルファと相対していた、セルマ・アリス(せるま・ありす)も意識が持っていかれる最後まで食らいついていたが、吹き飛ばされ中国古典『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)――シャオの介抱を受けている。
 呪いの上書きに失敗した東朱鷺(あずま・とき)は木陰に隠れ、致命傷を避けてはいるが、他の仲間が致命傷を負わないためにサポートをするのに必死だった。
「その目、いいね。まだ諦めてないって感じがいい。それでこそ壊し甲斐があるよ」
「まだ……まだ終わっていない……」
 肩で息をしながらも、【光条兵器】黒の剣を構える樹月刀真(きづき・とうま)。その目にはいまだにミルファを殺せるという確信に満ちた意思が宿っている。
 そして、刀真の背中に隠れながらも、[ラスターハンドガン]を構え虎視眈々と必勝の時を待っている漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)
 諦めていないのは、何も彼らだけではない。
 ミルファが動かないのは、何も彼らが牽制しているだけではない。
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)のどっしりとした巨体から生まれる鍛えぬかれたパワーが、動きを阻むようにミルファを押さえ込んでいる。
「どうやら純粋な……筋力だけな、ら……俺の方が上、だな」
 押し合う力にエヴァルトは息を上げながらも、悪態を吐いた。一度は気を失ってしまったが、暫くして意識が戻り戦線に復帰していた。意識を失っていたからといって体の負ったダメージが癒えるわけでもないが、それでもエヴァルトはミルファの動きを封じていた。
 それでもなおミルファは余裕の表情を崩さない。

「全く、もうちょっとうまく立ち回れんかの?」

 そんな中辺り一体に場違いな、ただ一人を除いて、今まで聞いたことのない声が響いた。
 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)はその聞き覚えのある声に薄っすらと覚醒する。

「そこなでかいの、一緒に凍りたくなければ退け」

 声はエヴァルトに言う。
「その声は……」
 博季は顔を上げ、声の主を探す。声には聞き覚えがあった。
 ぴし、ぴしと何かが急速に凍りつく音が辺り一体に木霊する。
 ミルファを中心として、氷の壁が盛り上がる。
「む……?」
 それに気づいたエヴァルトは力を緩め、ミルファから距離を取った。

「今しばらく、そこに居れ。小娘」

 ミルファを囲う氷の檻。厳重に幾重にも檻は層をなし、ミルファを閉じ込める。
 そうして姿を現すのは、ツァンダ山の奥深くに居を構える氷精のティア・フリスだった。
「騒がしくてオチオチ昼寝もできんぞ……」
 どこか偉そうな態度で欠伸をかみ殺すティアだ。その様子に緊張感はまるでない。
 助かったと安堵の吐息を漏らすもの、すぐさまその氷を破ってミルファが出てくるのではないかと警戒をするもの、ティア自体を異物と認識しているものと様々だった。
 そそて、異変に気づいたものは、撤退した人間も含めて戻ってきていた。
「ティア、さん……いっつ……」
 体中を襲う痛みに博季は自然と表情が歪んでいた。
「よう博季。夏以来だな。また面倒ごとに首突っ込んでたのか」
 親しげに、博季に話しかけるティアに若干の警戒を緩めたようだった。
 しかし、ドオンと地響きがする。氷の檻を打ち破ろうとミルファが動き回っていた。
「厄介な結界だ。これをどうにかしないと、わたしもあの小娘を氷漬けにできんぞ……。まあ、全力で止めれば二時間は持つが」
 あたりの空気は急速に冷え始め、氷の檻に冷気が纏わりつく。
「ここはわたしに任せて、お前さんらは少し休め」
 ティアはニッと不適に笑んで見せると、何事か集中し始めた。
 言葉に従う皆は、冷気に当たらない場所まで距離を取り各々腰を落ち着けたのだった。

 それは束の間の休息である――

                     ――<取り憑かれしモノを救え―救済の章―へ続く>――

担当マスターより

▼担当マスター

来宮悠里

▼マスターコメント

 ご参加または、お読みいただき、まことにありがとうございます。
 来宮悠里プレゼンツ第5弾「取り憑かれしモノを救え―調査の章―」お楽しみいただけたでしょうか?
 後編シナリオ「取り憑かれしモノを救え―救済の章―」ガイドの公開は1月中旬ほどになると思います。

 またもや、遅れてしまい大変申し訳ございませんでした。大変お待たせいたしました。
 その分、ボリュームは保障します。多いです。書いてるわたしが泣きそうになるくらい多いです……。総参加MC30名、LC22名とは思えない量です……。
 ページ構成は時系列順になっております。奇数ページが戦闘、偶数ページが調査になっているはずです。
 そのため、結界が発動してから、前編終了まで大体4時間程度経過したとお考えいただければと思います。

 皆様のアクションを拝読させていただき、開示すべき情報を洗い出したところ、大体最高の水準で後編へ情報を持ち越すことに成功しています。
 情報伝達についても、GAや情報を取りまとめてくれたキャラクターがいらしたので、前編の状態で情報共有はほぼ完璧に済んでいるとお考えください。
 そしてちょっと笑ってしまったのが、蒼玉石の単語がとても多かったことですね。このゲームのタイトルが蒼空のフロンティアだからでしょうか? それとも、蒼だけ特別な意味合いを持たせているのが、実はガイドの時点でばれていたのでしょうか……!

 今回調査については、アクションをものすごく噛み砕いて判定してあります。
 そのせいで意図したアクションとは違う活躍になっている可能性があります。ご了承願います。

 対LC戦では、後編まで引っ張るかなー? と思っていましたが、前編で決着をつけるケースが多かった為、決着まで書かれているアクションは決着までついています。決着までのアクションが無い方は次回へ持ち越しになります。

 ミルファについては、現状このような膠着状態で幕引きをしております。
 アクションがあれば出してもいいかなー程度のティアさんでしたが、えーと、なんといいますか、出さないと全滅エンドで後編に繋げなかったというか……ですね……。
 ピンチになったら撤退。これは重要です。まあ、撤退しますと後編はまた捕捉の段階からやり直しなんですけどね。最低ですねこのマスター。
 前編ではイベントボス的立場のミルファですが、後編では条件さえ整えば倒すことができるようになっています。殺害すべきでしたら、殺害エンドも有りです。
 今回ミルファが本気で敵意を剥き出し、戦った相手には少なからず共通点があります。それ以外の戦いは愉悦に満ちた余裕を持った戦いをしています。
 前者は憎悪と敵意、後者は愉悦と狂気を楽しんでいただければと思います。

 さて、今回のシナリオでミルファを追う、パートナーが魅入られてしまったに類する選択肢を選んだ一部の方には招待を出してあります。
 後編も是非ご参加ください。

 モノがなぜカタカナ表記だったのかは、前編を一通り読んでいただければ分かるかと思われます。
 シリアス一辺倒の為、読み疲れる可能性がございます。次回ガイド公開まで期間がありますので、熟読の時間にお当てくださいませ。
 また、アクションの文字数を割いての私信とてもうれしいです。ありがとうございます! 割と本気で私信が執筆の励みになってるとか。

 それでは、後編のシナリオでまたお会いいたしましょう。