天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ

リアクション公開中!

【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ
【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ 【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ 【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ 【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ

リアクション


13.ヒラニプラ第三小学校 再び


 スクール・アーミー2

 自慢のポニーテールをなびかせレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は現れた。
 背中に背負うのは緑に唐草模様の風呂敷。収まり切らず中の荷物が四方八方に飛び出している。
 この時間はいたずらっ子たちの活動場所は校内に移っており、何者に阻まれることもなく校門を潜り、ずんずんと奥を目指す。
 校庭の一角に辿りつけば、掛け声一つ。
「よっこいせぇ」
 広げた大風呂敷の中身は臼に杵、巨大なまな板、蒸篭、もち米、小豆にきなこに海苔、醤油、砂糖。
「そんじゃ、だいいっかぁ〜いヒラニプラ第三小学校餅つき大会!!」
 笑顔で宣言した。
「「「「――はい!?」」」」
「みんなで餅つき大会やりまっしょい!!」
「「「「ちょっと、待てぇぇぇぇぇ!?」」」」
 周囲の反応は当然だ。
 確かに、今回の大掃除は他校生の参加も認めている。清掃後に振舞う汁粉をつくる人手も募集した。
 だが、断じて小学校での餅つき大会要員を募集した覚えはない。
「ちょちょちょ、いいの!?」
「――そんなこと私に言われても……」
「だからって、なななを呼んだら……」
「あーうん。それはない。ないない」
 ひそひそと相談する校庭清掃担当のメンバーをよそにレティシアは餅つきの準備をいそいそを始めている。
 興味を持った数人の子供達がたたたたとそのそばにかけよる。見たことのない道具に興味津々だ。
「おねーちゃん、うちゅうけいじ? それともかめんつぁんだぁ?」
「お餅つくるの? 食べれるの?」
「あちきはレティシアだよぉ。 お餅は大掃除が終わったらねぇ、みんなでこねて、食べましょうねぇ」
 わーと子供達から歓声があがる。
 その横から、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が集まってきた子供達を掃除戻るように促した。
「――と、いうわけなのよ。……迷惑はかけないから、よろしくお願いするわ」
「いいじゃないですかぁ。さぁ、楽しい大掃除にしましょうねぇ」

  * * * 

「ていやー!! はいっ!! ほいっ!!」
 勇ましい声を上げながらお手玉よろしく、大鍋を三つ、四つと軽々と運ぶのは琳 鳳明(りん・ほうめい)だ。
「みんなの美味しいご飯を作る場所と道具だからね。感謝を込めて磨かないと!」
「……敬意と感謝を込めて綺麗にするという心構えは立派なものですけど……」
 もっと軍人らしい理由はなかったのかとコンロの汚れを丁寧に落としながらセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が溜息をつく。
「だって、セラさん。ご飯は基本だよ? 人間ご飯を食べれば大体幸せっ」
「……それが、軍人らしからぬ……鳳明くんらしいからいいのですけど」
 妹のようなパートナーは色々な意味で軍人に向いていない。
 それは、元が殺すよりも何か生み出す百姓という出自のせいでもなければ、能力が低いわけでもない。
 単に気性の問題だ。その力を戦場で発揮するには鳳明は優し過ぎる。
 こういう風にいついかなる時でも迷うことなく全力が出せることを願って止まない。
 きょとんとした顔と目が合ってセラフィーナは思考を打ち切った。
「セラさん?」
「まぁ、今日は大掃除ですから。それでいいとしておきましょう。ワタシとキミの作業が終わったら、最後に床を磨きましょう」
「うん。――じゃあ、みんなもう少し待っててね!」
「……みんな?」
「そう。みんな!」
 元気よく答える鳳明の背中から、ピョコピョコと子供たち――とレティシアが顔を出した。
「い、いつの間に――ここには刃物や危険な道具もあるというのに!」
「まぁまぁ。みんな、危ない物には触らず、ちゃんと真面目にお掃除できるよね?」
 できるーと上がる元気な声にセラフィーナはわかりましたと、溜息をついた。
「――やるからには真面目にやってもらいますからね。サボったらお説教コースです」


 皆でやれば早く済む。広い場所の単純作業は数の力であっさり解決された。
 ピカピカになった調理室の最初の仕事はもち米を蒸すことだ。
「じゃーみんな。お餅の元になるもち米が炊ける前に使ったものを片付けよう」
「ついでに、手も洗いましょうねぇ。汚れた手じゃお餅は触れませんよぉ」
 掃除で汚れた道具の片付けついでにと生徒たちを鳳明が引率していく。最後にレティシアも続く。
「……まさか、小学校でも餅つきをするとは思いませんでした」
「レティは言い出したら聞かないから。でも、丁度よかったわ。子供達を本部に連れて行くのも大変だもの」
 見送るセラフィーナとミスティの隣で蒸篭が小さく音を立てた。

  * * *  

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はシャンバラ教導団・歩兵科の生徒である。
 メタッリクブルーのトライアングルビキニを装着し、魅惑のボディで敵を撃つ。
 そう。彼女に壊せぬ者はない。
 いい加減・大雑把。そして、気分屋と三拍子の“壊し屋セレン”。
 パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)を連れ、今日も行く――

「……てないわよ!! ていうか、二番どころか三番煎じってどういうことよっ!?」
 箒片手のセレンフリティは虚空に向かって叫んだ。
 珍しいことに彼女の抜群のスタイルを強調する扇情的な水着にコートではなく、ちゃんとした教導団の制服を着ている。
「どうしたの? セレン。急に大きな声を出して」 
 ハーと大仰に溜息をつく背中に声がかかった。
 ゴミ袋を持ったセレアナが数人の女生徒と不思議そうに首を傾げている。こちらも今日は制服姿だ。
 お互いに「さすがに小学校でアレはないわ」ということらしい。
 その影に隠れるようにツインテールとショートカットの少女が張り付いている。
 黙っていれば冷たく見えることが多いセレアナだが、それを補う柔らかい物腰のせいか。子供には人気だ。
 二人の少女には特に懐かれているようだ。
 小学生相手にレーザーガンを撃ち放とうとする、どこぞの“デムパ少尉”とはえらい違いだ。
「……なんでもない」
「そう? ならいいけど。……少し休憩する?」
 掃除が始まってから我慢続きのパートナーを気遣う。返事の代わりに怒声が上がった。
「もーやだっ!! なんで、まだ掃除が終わんないわけ!? もーやだ! 
 朝から、ずっとマジめにやってるのに。どーゆーことよ!?」
 そう――午前中から始めたはずのグラウンドの掃除は昼を過ぎてもまだ終わっていなかった。
 やることなすこと大雑把なセレンフリティだが、別に掃除ができないわけではない。
 細かい丁寧な作業はともかく。
 大きなゴミは分別しながら、ゴミ袋へ。小さなゴミや落ち葉の類は箒使って掃き集める――くらいはわけはない。
「なななとあの悪餓鬼が掃除したはしから!! もーこれじゃ厄落としどころか厄拾いじゃん!!」
 終わらないのは、掃除の邪魔をする輩がいるからである。もう投げ出したい気分で一杯だ。
 放り出して、どこかで、気ままに過ごしたい。
「まぁ、落ち着きなさい。今度は集めるごとに、ゴミ袋に移して口をしっかり閉じることにしましょ」
 そう言うと、セレアナはしゃがみ込む。隣で手持ち無沙汰にしていた少女たちに目線を合わせた。
「なぁに? ミアに御用?」
「お使いなら、ロッテも行くよ!!」」
「あのね。ゴミ袋を貰ってきてくれないかしら? その間にお姉ちゃんたちでゴミを集めておくから」
 微笑かければ、少女はこくんと頷き駆け出した。

「……セレアナ、小学校の先生になったら? 意外に向いてるんじゃないの?」
「そうね。……いつもセレンの相手をしているから、自然と子供の扱いが上手くなったのかもしれないわ」
 素直に思ったことを口にすれば、からかう様な言葉が返ってきた。
「それってどういう意味よ」
 セレンフリティの頬がぷくりと膨らむ。その頬をつついてやれば、何よと睨まれた。
 こういうところが子供のようなのだということ、きっと本人は自覚していないのだろう。
「……ふふ。少し、元気になったみたいで安心したわ。邪魔が入る前に片付けましょう」
「だね」
 と、子供達の逃げ惑う声と宇宙刑事の怒声、それを止める声が聞こえてきた。今度は校舎らしい。
 グラウンドではないことに安堵の息を漏らして、セレンフリティは空を仰いだ。
「あー。いつもなら、なななのポジションってあたしのはずなのに」

  * * *  
 
 いたずらっ子となななが土足で走り抜けた廊下をレキが拭き直し終えた後
 土雑巾と手形がべったりついた窓をチムチムと巽が内と外から磨き直した後
 何度も蹴飛ばされたゴミをようやくセレンフィリティとセレアナが纏めた後
 ――事件は起こった。

 それぞれに纏めたゴミを仕分けして、運んでいるところに翔太が突進してきた。
 狙うはなななたち女性陣のスカートだ。
 全員の手がゴミで塞がっている、この時を狙っての襲撃だ。
「ちょ!?」
「あ?」
「セレアナに何してんのよ!!」
「こらっ!?」
 ふわりとスカートが舞い上がると同時に、それぞれの手からゴミが放り出された。
 ゴミ――紙の束、瓦礫、埃、落ち葉――手を離れたそれは重力に従って、落下する。
 落ちる先には翔太をはじめ、子供達がいる。
 まず、動いたのはセレンフリティとレキだ。
「仕方ないわね! 最大出力!!」
「ボクに任せてよ。止まれー!!」
 放たれた《サイコキネシス》が一時的にゴミの動きを止めれた隙にリカインが子供達を安全な場所に誘導する。
「さ。早く――こっちよ」
「怖くないアルよ。さ。チムチムにしっかり掴まるアル」
 チムチムも低学年の子供たちを小脇に抱えて、巨体に似合わぬ俊敏さで安全圏まで離脱した。
 移動した先ではサンドラが意識を集中して《禁猟区》を発動させる。
「私から離れないでくださいね」
 それを確認した二人が能力を解く。
 次の瞬間走り出すのは巽だ。
「ツァンダーキッーク!!」
 大地を蹴って飛び上がった体が巨大なゴミの塊を砕く。
「セレアナ!!」
「任せて。セレン」
 次に続くのはセレアナだ。落ちてくるゴミの中心に踊りだし、モップ一閃。
 小さくなったゴミが雪のように舞い落ちたところにユーシスの《凍てつく炎》が放たれる。
「どうせ、処分するなら――今でも構わないはず」
 ゴミはジュと音を立てて消滅した。
 でも、間に合わない。一番大きなゴミの塊が翔太を目掛けて落ちる。
 それをどうしかしたのは――なななとシャウラだ。
「危ない!!」
 なななは我が身も構わず、ガバっと翔太を抱きしめた。
 更にそれを庇うように飛び出したシャウラが《カタクリズム》を発動させて、ゴミを砕く。
 バラバラと落ちる破片は――なななたちの体に触れることはなかった。
 なななの足首で【星屑のアンクレット】が淡い光を発していた。

  * * * 


 そんなこんなで、紆余曲折の末に大掃除は終わった。
 掃除が終わればお楽しみの餅つき大会だ。

「みんな、手は洗ったかしら?」
「「「「はーい!!」」」」
 レティシアの問いかけに元気な返事が返る。餅つきならぬ、餅こね大会が始まる。
「いっぱいあるから、たくさん食べてくださいねぇ。あちきのおススメは安倍川餅だよぉ」
 タッパーにいれたきなこやあんこ、砂糖醤油に海苔を広げて、レティシアが言う。
 つき立ての餅は柔らかく、頬張れば頬が落ちるような美味しさだった。

「働いたあとのお餅はいいよね。ボクはあんこにしよう」
「チムチムはきなこアル」
「んー私もあんこ。セラさん、何にする?」
「安倍川餅にしてみましょうか」

 賑やかに和やかに時間が過ぎていく。
 と、なななが唐突に立ち上がった。
「あ。忘れてました。もうすぐ、本部で閉会の挨拶が始まっちゃいます!!」
「「「「あ」」」」」
 全員が顔を見合わせた。

  * * * 

 重量オーバーのエアカーが教導団本部を目指してひた走る。
 鮨詰めの車内。なななは風呂敷包みを抱えた格好で目を閉じている。
 ひょこんと跳ねたあほ毛が揺れて、なななはにんまりと微笑む。
「ちょっと、狭い車内で何やってんの? あんた」
「電波送ってました! 来年の占いを頼まれたんだよ」
「……なななくん、占いできたの?」
「電波の受信と通信はできるよ?」

 そのころ――小学校に残ったレキの携帯が何かを受信した。
 画面には
   宇宙刑事大活躍 
 という文字が躍っていた。