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もみのり

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もみのり

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 さて……。
 想像通り、そんな彼女らを狙っている連中が集まり始めていた。
 空京を離れ、一路ジャンバラ大荒野へと向けて進むもみワゴン。
 少し離れた場所から、飢えた瞳をぎらつかせてその様子を見つめているのは、モヒカンの一群だった。全員が思い思いの武器を装備している。
 種もみ剣士から種もみを奪うための襲撃の準備はすでに整っているのだが、彼らは丘の上で待機してチャンスを伺っていた。
「くっくっく……。すぐにでもヒャッハーしてやりてぇところだが、俺さまたちだってバカじゃねえ」
 モヒカン軍団のリーダーである七色に色分けしたレインボーモヒカンは、クククと笑みを浮かべた。
「あのみすみって種もみ剣士だけなら楽勝だが、それ以外がいけねぇ。この大荒野にまでその名が聞こえてきている強者どもまであのワゴンに乗ってるじゃねえか。あんな連中相手にしてちゃ、命がいくらあっても足りねえぜ」
「でもリーダー。俺たちぁ、腹が減ってたまんねぇんですぜ。通販のおせちは今年もスカスカだった。クレーム付けようにもすでに店じまいしてるし。このままじゃあ、あまりにしょんぼりな年末年始ですぜ」
 子分のモヒカンが言うと、その後ろのモヒカンたちも悲痛な声を上げた。
「俺たちはすでに、仲間を四人も失ってるんだ。このまま引き下がるわけにはいかねえぜ!」
「……そういえば、餅を喉に詰めて死んだ奴がいたっけ。毎年の恒例とはいえ、あの柔らかすぎる餅は何とかならねぇのか」
 レインボーは思い出したように、くわっと怒りの形相になった。
「それというのも、その元となる種もみの質が悪いからだ! おのれ、種もみ剣士どもめ、俺さまたちの喉を詰まらせ殺すために敢えて柔らかい餅ができる種もみを配ってやがるな! 実力では勝てないからと、なかなかにエグい手を使ってくるじゃねえか。もう許せねぇ!」
「だが、正面から行ったんじゃ、あの強力な有名人たちには敵わねえですぜ。どうしやす?」
「……」
 リーダーのレインボーモヒカンは、不敵な表情で思案して、深々と一つ頷いた。
「安心しろ。俺さまに妙案がある。種もみ剣士を皆殺しにして、種もみを一網打尽で奪い尽くしてやるぜ」
「さすがはリーダーですぜ。これで俺たちまともなおせちと、喉が詰まって死なない餅を食えるんでやすね!」
「ああ。お前ら、武器を隠し持って満面の笑みを浮かべろ。間違ってもヒャッハーなんて声を上げるんじゃねえぞ!」
 部下たちにしっかりと命令すると、レインボーは徒歩でゆっくりと丘を降りはじめる。
極力友好的な雰囲気を全身から醸し出し、腰も低い媚びた歩き方だった。
「いいか、俺さまたちは通りすがりのヒッチハイカーだ。あのバスに乗せてもらって乗客のフリをして内部から攻撃してやるぜ」
 レインボーは、腕を高らかに上げ親指を立てた。
「すいませ〜ん。俺さ……いや、ぼくたちヒャッハーじゃなかった、ヒッチハイク愛好会の者なんですけど、ヴァイシャリーまで乗せていってくださ〜い」

「お断りよっ!」
 ワゴンを止めるなり、みすみは種籾戟を手に外に飛び出した。全く油断せずにすぐさまビシリと構えを取る。
「来たわねモヒカン! 種もみは渡さないわ!」
「いやいや、ちょっと待ってくだせえや。ぼくたちは単なる通りすがりのヒッチハイカーですぜ」
 猫なで声のモヒカンに、みすみはキリリと眉を吊り上げる。
「あなた斧持ってるじゃない。隠しても無駄よ」
「ぼくたち、将来の夢は木こりになることなんでさぁ。修行のために森に木を切りに行くところなんだ、なあ、みんな……?」
「あ、ああ。俺、爪切り忘れただけだし。これ別に武器じゃないし」
 鉄の爪を装備しているモヒカンが、さっと後ろに手を隠す。
「……」
「……」
 みすみは、モヒカンたちを疑わしげな目で見つめていたが、懐から種もみの入った小さな袋を取り出すと、モヒカンの方へポンと放った。
 猫まっしぐらとばかりに、モヒカンたちはその種もみに殺到する。
「ヒャッハー! 種もみだぜ!」
「やっぱりすぐに正体を現したわね! 覚悟しなさいっ!」
 みすみは種籾戟を振り回し、モヒカンたちに飛び掛っていく。
「ええいっ、バレちゃしょうがねぇ! やっちまえ!」
 レインボーはすぐさま応戦してきた。子分のモヒカンたちもいっせいに襲い掛かってくる。
「……っ!」
 みすみはあっというまに劣勢に立たされ、ボコボコと敵の攻撃を受け始めた。威勢がよかった割には、やはり戦闘能力はいまいちだ。
「さて、そろそろ助けに入りますか」
 連れていたペットをなだめながら様子を見ていたルビー・フェルニアス(るびー・ふぇるにあす)は、小さくため息をついた。
 彼女は空京から同行しワゴンの外で警備をしていたのだが、モヒカンが現れるなり真っ先にみすみが飛び出していったため、介入するタイミングを逸していたのだ。
 みすみだけでモヒカン軍団を退治できていればそのまま黙っているつもりだったのだが、案の定荷が重いようだった。
「待って! 私はまだやれるから!」
 ボロボロになりながら、みすみが言う。
「こんな程度で他人を頼っていたんじゃ、私、全然成長できないんだからっ!」
「いいえ、あなたはこんなところでこんなザコを相手に体力を使うべきではありません。後で朱鷺が訓練をつけてあげますから、少し休んでいなさい」
 陰陽師の東 朱鷺(あずま・とき)がゆっくりと前に進み出た。モヒカンの群れに向かって、
「ワゴンは満員です。歩いて行きなさい、ヒッチハイカー。地獄へね」
 軽〜く歴戦の魔術あたりを食らわせてやると、モヒカンたちは一気に怯んだ。そのまま、更なる攻撃でモヒカンたちをなぎ倒していく。
「私は動くの面倒くさいので見ているだけにします」
 ルビーは、手下のアンデッドモンスターをモヒカンたちにけしかけておいてから、取り囲まれているみすみを引っ張り戻した。
「無事で何よりです、みすみ君。我はルビー、道中警護しますので、よろしくね」
「……あううううっっ、ありがとうございます。でも……」
 みすみは悔しそうに唇をかんだ。
「気に病む必要はありません。過程はどうあれ、生き延びたキミの勝ちです。まあ、焦らずに修行を続けましょう」
 ルビーとともにモヒカンの大半を叩き潰した朱鷺は、残りのモヒカンが蜘蛛の子を散らすように逃げていくのを見守ってから振り返った。
「ただ、言わせてもらうなら、真っ先にワゴンから飛び出していくなんて愚の骨頂ですよ。あのままワゴンを止めずにモヒカンどもを轢いてしまって、残党は朱鷺たちに任せておいてもよかったのです」
「それじゃ、私が戦ったことにならないから……」
「あらゆる手段を使って勝ちをもぎ取ることも学びなさい。……まあ、いいいでしょう。しばらくお供しますので、よろしく」
「あう……、よろしくお願いいたします……」
 しょんぼりとワゴンに乗り込むみすみ。
 朱鷺もLV100まで到達した頂点に立つ人物の一人だ。自分と同じレベルなのにその強さの差は歴然。
 どこが違うのだろう……。朱鷺を見つめながら、みすみは考える……。