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葦原明倫館流☆年末年始の過ごし方

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葦原明倫館流☆年末年始の過ごし方
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第3章  確かめる堅き絆


「うふふ……懲りない方ですわね」

 房姫は、記憶のなかに、幾度か似たような光景を観た気がしていた。
 はじまりは、数刻前のこと。

「また校長が面白いイベントを考えてくれた。
 これは引っ掻きまわすしかないな!」

 行事が発表された瞬間、七刀 切(しちとう・きり)の表情が変わった。
 なにか新しい玩具でも与えられた、子どものように。

「いつものようにI☆TA☆ZU☆RAだ!」

 すでに放課後を迎え、おおかたの生徒は部活動に汗を流している時間帯。
 切の叫びを聴いていたのは、幸いにも1人の生徒だけだった。

「キミ、一緒に協力して鐘撞きで活躍しません?」
「ん?
 自分、朱鷺か」

 東 朱鷺(あずま・とき)の声が、空の教室に響き渡る。
 それは、悪巧みととられる可能性大の切に、とても好意的なものだった。

「そうです、先日はどうも」
「どうも〜んで、さっきの話なんやけど……」
「協力して鐘撞きに、って話ですね。
 切さんに、朱鷺を活躍させて欲しいのです」
「活躍?」
「えぇ、上手くいけば賞品のお年玉は切さんにさしあげます。
 仮に上手くいかなくも、報酬は出させていただきます。
 悪い話ではないでしょう?」
「うむ……で、どのように?」
「作戦はこうです。
 切さんは会場となる裏山で、ほかの参加者の妨害をしてください。
 そうですね、飛行解除や隠れ身解除のスキルがあればなおよいですね。
 もちろん罠などで妨害でも構いません。
 実力行使で反撃をもらったなら、ケンセイ修行の成果を存分に発揮してください。
「お〜け〜!」
「そして、この人形のスイッチを押してもらえますか?」
「これは……」
「ただの『コピー人形』です。
 この人形を【●式神の術】で式神化し、朱鷺を妨害するふりをさせます。
 そして朱鷺は、やられたふりをして、朱鷺のコピー人形を置いていきます」
「な〜る、身代わりか!」
「そのあと、こっそり【迷彩塗装】のスキルを使います。
 あとは、まぎれて登って鐘を鳴らすだけです」

 【根回し】を用いた朱鷺の説明に、しかと頷く切。
 ぱんっと、互いの手を合わせた。

「そんじゃ、面白おかしく引っ掻きまわすとしましょうかねぇ」
「お願いしますね。
 もちろん、この約束は他言無用ですし、私も知らないふりをします」

 いまこのときから、わくわくが止まらない。
 切はいそいそしながら、教室を出ていった。

「いい塩梅ですね」

 独り残された朱鷺は、窓の外を見やる。
 晴れ渡った、冬の空を。

「葦原明倫館へ転校してきて約1ヶ月、初の学校行事です。
 種目で活躍して好印象を得たところで、ハイナ校長に挨拶をするとしましょう」

 というわけで、大晦日当日を迎えたわけだが。

「年末年始、特に予定もなかったんだけどさっすが校長。
 いつもどおり、悪戯させてもらうよん!」

 飛行する参加者をネットで捕縛し、放置したり。
 落とし穴はもちろん、爆竹が鳴りまくる紐に歩行者をひっかけたり。
 【風術】や【トラッパー】を駆使して、楽しんでいたのだが。

「っちょ、あんたらなんやねん!?」

 コピー人形を使う前に、ばれてしまった。

「まったく、あなたという方は……切さん。
 今回はどなたとご一緒に?」
「ぇ、わい独りでやったんやで〜?
 HAHAHA、ワイは皆が楽しめるようにしようとね?
 ホントダヨー」
(朱鷺のことは絶対に言わないよ〜)

 房姫の追求にも屈せず、とてつもなく棒読みの台詞を返す。
 決めた友人のためならば、切の口は堅いのだ。

「ありがとうございました、切さん」
「朱鷺のためだ、いいってことよ!」

 一方、トップの座には届かなかったが、目的は達成した朱鷺。
 切がどうしてもと口止めしたため、真実は誰にも語らないまま。
 だがその優しさに報いろうと、罰を受ける切とともに年越し蕎麦をすするのである。

「寒い……けど、綺麗ですわね」
「えぇ、満天の星とは……」

 そんな時分、明倫館の屋上に2つの人影があった。
 昼の天気をそのまま引き継ぎ、澄んだ星空を見上げる。

「私ね、ジュンコが誘ってくれたこと、とても嬉しかったの。
 だって私も、ジュンコと一緒にいたかったから」
「今年はいろいろあって、マリアと愛し合う時間がとれませんでしたわ。
 だから年末年始は落ち着ける場所で、マリアと2人きりで過ごしたいと思いましたの」

 ほんのり頬を紅潮させて、マリア・フローレンス(まりあ・ふろーれんす)は笑んだ。
 ジュンコ・シラー(じゅんこ・しらー)も応えて、その表情を緩める。
 持つ杯にはどちらも、日本酒が注がれていた。

「今年も1年間、いろいろなことがありましたよね:
「えぇ、苦しいことや辛いことも、たくさん。
 ですが、マリアのおかげで 、乗り越えることができましたから」
「私も、ジュンコと同じ気持ちだよ」
「ふふふ……ぁ、除夜の鐘……」
「もうそろそろですね、今年も……」
「マリア……」

 刻一刻と。
 誰にとっても同じように、そのときは近づいてくる。
 けれどもその意味は、人によってまったく違うモノ。
 2人にとっては、とっても特別な、瞬間。

「マリア、初めてのキスをしてもいい?
 私、あなたと唇を触れ合わせたいと思っていましたの」
「うん!
 私もジュンコと唇を触れ合わせたいと思っていたの」

 ほろ酔い気分の2人は、互いで互いを引き寄せた。
 柔らかなぬくもりで、気持ちを確かめ合う。

「今年も、よろしくお願いしますね」
「いっぱいいっぱい、愛しあいましょう」
「そんなこと言うと、離しませんよ?」
「臨むところですわ。
 ずっと、ずっとずっと、一緒にいましょうね」

 新たな1年の、始まりの日は。
 ジュンコとマリアにとっても、新たな一歩を踏み出した日となった。