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第五章:イコン作業班

(奥へ向かったルカルカは大丈夫だろうか? 無理をしていなければいいが……)
 厚い装甲のイコン――鷹皇を操縦し、重装甲による頑丈さを活かした作業に従事していた鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は工場の建物を見ながらふと思いを馳せる。
「状況了解。通信終了。真一郎、ルカルカさんから通信が入ったわ。無事に要救助者の人たちと合流して、今は出口に向かってるそうよ」
 真一郎の心境を察したのか、松本 可奈(まつもと・かな)がルカルカからの通信を報告する。
「そうか。なら、俺たちも頑張らないとな」
 操縦桿を握る真一郎の手にも力が入る。
(ルカルカ、無事に戻ってきてくれよ)
 イコンを操縦して焼け崩れそうな建材を剥がして撤去しながら、真一郎は胸中で呟いた。
「ウチのルカルカが心配かけてるみてえだな?」
 すると、今度はすぐ近くに待機しているパワードスーツ部隊の輸送車から通信が入る。通信を送ってきたのはルカルカの仲間の一人――カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だ。
「あなたが居残っているとは。意外ですね、あなたがパワードスーツ部隊に同行しないなんて」
 するとカルキノスは豪快な笑い声を無線越しに聞かせながら真一郎に言う。
「俺に合うパワードとか特注になっちまうからな」
 二人が会話していると、同じく輸送車を運転してきたレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)が無線で話に入ってくる。
「失礼。お二人も仲間待ちですか?」
 その問いかけに対し、カルキノスはまたも豪快に笑って答える。
「おうよ。もっとも、俺はそうだが、真一郎はイコンでの作業担当だから居残りってのとは違うかもな」
 カルキノスからの返答を受けたレギーナは、今度はまた違う話題を切り出した。
「やはり、パワードスーツ関連の施設を狙って来ましたか……彼らはそれだけパワードスーツを重要視している? それとも、ただ単にアルベリッヒの長曽禰少佐に対する、敵対行動の一環?どちらにしても、厄介ですね……」
 そんな話をしていると、今度はレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)が会話に入って来る。
「鏖殺寺院が関わってるなら中に入って戦いにいかないとだけど、教導団は軍だし、あまり他校生に中に入って欲しくないと思うんだよ。だからボク達は外からお手伝いしよって思ったんだ。突入するにも火力が強ければ二次災害になりかねないし、救助も難航するだろうしね」
 ラーン・バディのコクピットで操縦桿のトリガーを引き、弾頭を消火剤に換装したミサイル――消火弾をミサイルポッドから工場に向けて発射しながらレキは言う。
「中の人達、もう少し頑張って」
 消火弾を撃ち込んだ後、レキはスピーカーで工場に向けて声をかけ、要救助者を励ます。先程から彼女は消火弾の発射とこの励ましをワンセットにしてこまめに繰り返していた。
「敵が救助者に紛れて姿をくらます可能性もあるからのぉ。流石に顔は判らぬし、全てを確認している暇もないから、記録を調査するのは消火活動が終わってからじゃな。情報提供は拒否せぬよ」
 ミアも無線越しにレキの言葉に続く。
「その通りだ。敵は災害だけではない」
 また新たに無線で会話に入って来たのは、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)だ。
「イコンは消防車と同等またはそれ以上の耐火性があると考えられる上に飛行が可能だ。使わない手はないだろ? だが、それだけじゃない。俺がイコンで出るもう一つの理由は『テロ行為の阻止』だ」
 消防車用の大型放水ホースをクォンタムの手で掴み、長大なそのホースを抱えて放水しながら、クローラは語る。
「僕としても、犯罪者には然るべき法的な措置を願うよ」
 クローラに同調するように、セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)も言う。
「俺も同感だ。その為に、消火弾だけでなく、通常弾頭もハードポイントに積んできた」
 先程から情報収集に適した性能を持つグレイゴーストの特性を活かして集めた情報を処理し、それを基にして冷静かつ冷徹に指示を出し続けている佐野 和輝(さの・かずき)も無線での会話に参加する。ちなみに、彼は意図的にとある人物のイコンにも繋がる周波数帯域を外して発言していた。
「実弾を発射する時になったら言ってね〜♪ 火器管制と情報管制はアニスに任せろ〜♪ あ、でも通信だけはかんべんね……だって知らない人と話すの怖いし。あっ、でも三船たちは別だよ。何度もあってるし、和輝が良い人だって言ってるし♪」
 無線からはアニス・パラス(あにす・ぱらす)の声も聞こえてくる。和輝が操縦と目視での情報収集を担当しているのに対し、アニスは集めた情報の統括を担当していた。なお、彼女が通信を和輝に任せているのは、彼女が人見知りであるゆえだ。
「一人の犠牲者も無く救助活動を完遂したいものです。このような災害で、人の命が失われるのを見たくありません。それが事故であれ、意図的な犯罪であれ――」
 今度は正木 エステル(まさき・えすてる)が会話に入ってくる。無線越しに聞こえてくる彼女の声に電波状況によるものとはまた別のノイズが混ざっているのは、彼女の{ICN0003131#エステル専用S−01}が物凄い勢いで放水しているホースを持っているからであり、いわばノイズの正体はそのホースが立てる水音だ。
 エステルは爆発で壁面等が吹き飛んだ場所を探し、可能な限り建物内部へ水をかけるよう努めていた。火元のほうを冷却しないと、いつまで経っても消えないことを、彼女は知っているのだ。
 先程からの消火活動でじょじょに火勢が弱まりつつあるのを見て取った彼女は、直接の冷却は他の方にお任せ、放水により外壁を冷却しにかかっていた。火だけでなく周辺の温度を下げることで、火災再発の防止を企図してのことだ。
「しかしながら、パラ実イコンのようなインパクトのある外観なイコンが普通に空飛んでいるという事も絵面的に衝撃的だがよ、それが消火活動してるというのもまた、教導団的に衝撃的だろうよ」
 どこか苦笑するような声でヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)も会話に入る。明らかにパラ実のものにしか見えない彼のイコン――ソードウイング/Fはここに集まったイコンの中でも、ひときわ強烈な印象を放っていた。
「だから変形してからの方がまだインパクトは抑えめだって言ったのよ」
 すかさず言ったのはヴェルデのパートナーであるエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)だ。
(みんなわかってんだろうな……今回の火災の原因俺じゃねぇぞ。いくら工作員で教導団に潜伏中、だから所属が教導団とはいえそんな面倒克つメリット無いことやってどうするよ? アリバイだってあるし……)
 流石に無線で皆に言うわけにもいかず、胸中だけで愚痴りながら、操縦桿を操って消火弾を発射し、消火に勤しむヴェルデであった。
「しかし、さっきの奴は凄かったな。思わず俺も笑っちまったぜ」
 しばらく会話が途切れた後、カルキノスが豪快な思い出し笑いで各人の無線機を震わせる。
「メルキアデスとか言ったか。あいつの見栄切り、一度生で見てみてぇもんだな」
 内部の様子や無線での通信内容は、ここに集まったイコンによる情報処理での後方支援のおかげである程度は伝わってきていた。それゆえに先程作業区画でメルキアデスが行った奇行、もとい勇敢な行動は見事にその一部始終が生中継されていたのだ。
「まったく…あのメルキアデス君はそのまま突っ込もうとするとかアホですか」
 思い出し笑いをしたカルキノスを皮切りに、イコンで作業をしている面々が次々と笑い出したのをRevolutionのコクピットで無線越しに聞きながら、マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)は呆れ顔で溜め息を吐いた。
「ほんとしかたないんだから。まあ、彼には出世してもらわないといけませんし、我々の部隊の隊長を押し付け……もといこなしてもらうためにも。では、救出のメインは彼に任せるとして、他の人を含むサポートが今回の私の任務ですわ」
 携帯電話やきっと教導団から支給された無線の情報管轄を行うことが、今回の彼女の役目だ。あくまで生身で突撃する人たちの支援が第一であり、そこの部門だけの情報をまず掌握するようにしないと――それが彼女の考えだった。
「皆さんのなし得る最善の行動を期待してます。安全第一! ――予めブリーフィングでそう言った筈ですが。まあ、でも結果的に本人を含め誰も負傷せずに救助者を安全圏に連れ出せたのですから、良いではありませんか。案外彼には英雄の素質があるのかもしれませんね」
 カルキノスの豪快な笑いとは違い、苦笑とも微笑ともつかない控えめな笑い声で無線機を震わせたのは、トマス隊の一員にして、参謀役を担った魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)だ。彼は後方支援として輸送車に残り、今はイコン作業の面々とともにいる。
 そんな会話を交わしている面々から少し離れた場所にホバリング状態で待機しているイコンが一機。そのイコン――スクリーチャー・オウルコクピット内で天貴 彩羽(あまむち・あやは)はスピーカーを通して工場へと語りかけた。
「東側の煙が多いわね。避難は西側通路を使うのをおすすめするわ」
 上空からの情報提供を終えると、彩羽はスピーカーのスイッチと無線のスイッチを切った。そして、サブパイロットとしてコクピットに座るスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)以外には聞こえない状況で、彩羽は一人呟く。
「教導団様の施設だし、放校処分の身だと何されるか分からないわね」
 テロ防止をできてないと侮蔑的なニュアンスが『教導団様』という単語に混ざっているのは明らかだ。だが、彼女のその物言いを咎めるものなど、この場にいはしない。
 もっとも、彼女にしてみればそれを承知の上で呟いたのだが。
「一応、放校は解除してもらいたいけど、今後の為にもブラッディ・ディバインを見つけたら繋ぎを取ってもおきたいわね。けどまぁ、罠注意ってところかしら」
 呟きながら彩羽はコクピットの端末を操作し、何かをサーチすると、シートに座り直す。
「さて、教導団様への支援はこれぐらいでいいわね」
 彩羽はほくそ笑むと、操縦桿を倒してホバリング状態のイコンを発進させた。
 彼女のイコンがどこかへと飛んでいくのを見ながら、エステルの背後でキルラス・ケイ(きるらす・けい)が言った。彼は今、エステルのイコンに同乗しているのだ。
「なぁなぁエステル、なんか見つけちゃったんだけど。べ、別にドヤ顔なんてしてない、ヨ」
 言葉とは裏腹にドヤ顔をしながら、キルラスはコクピットのモニターに表示されていたマップの一点を指さした。