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■悪餓鬼たちへの制裁 〜ネムレル鉱採掘2〜
 ――さて一方。採掘班の残りのメンバーたちは坑道の別ルートにあるネムレル鉱の採掘に向かっていた。
「……こっちだな」
 『トレジャーセンス』と『歴戦の獲得術』、そして自前の勘と要領で鉱石のある場所を探すグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)。今回はパートナーであるアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)の二人が気合を入れて依頼に挑んでいる。アウレウスは『殺気看破』で周囲を警戒しながら移動しており、ロア共々グラキエスを守護するよう立ち振る舞っていた。
 その後ろをセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人が歩いている。アウレウスと同じくゴブリン対処の役割を持っているためか、周囲の警戒を怠ってはいない。
「それにしても……戦闘も禁止とは、キースもアウレウスも少し過保護すぎやしないか?」
 探索中、そんなことをグラキエスが呟く。……キースとは、ロアの愛称のようだ。ともあれ、グラキエスのパートナーたちは日々魔力に蝕まれるグラキエスの身体を心配しての戦闘禁止令発布らしい。
「主は最近眠れてないし、無理は禁物。戦闘は俺たちにお任せくださいませ。――セレンフィリティたちも、よろしく頼むぞ」
「わかってるわよ。時間もないことだし、とっとと片付けちゃいましょう」
 アウレウスに声をかけられたセレンフィリティはいつもの調子で返答していった。
 ……そして、移動することしばらく。坑道の最奥にやってきた一行の目の前には、総勢十二匹ものゴブリンの集まりがあった。
「ギギッ? 兄者、人間ノ匂イガスルノゼ」
「オオ、本当ダナ弟。女ノ匂イモスルナ」
 兄弟と思わしきヒゲ面のゴブリンがこの集団のボスなのだろう。その兄弟を中心にフォーメーションを一丁前に組んでおり、集団の奥の壁が採掘ポイントのようだ。……ゴブリンをなんとかしないことには、ポイントまで辿り着けそうにない。
「ここはあたしたちで牽制するわ! ネムレル鉱の採掘を最優先でお願い!」
 セレンフィリティがそう声をかけるのを号令とし、戦いが開始される。まずやるべきはネムレル鉱までの道を切り開くこと。セレンフィリティは冷線銃で、襲いかかろうとする近くの尖兵ゴブリン数匹の足を氷結させて動きを止める。その隙を狙い、アウレウスが『適者生存』を込めた『龍の咆哮』を放ち、ゴブリンたちの気をアウレウスのほうへ逸らしていく。
「ナ、ナンナンダ今ノ咆哮ハ……」
 龍の爆音声で思わず足を止めてしまうゴブリンたち。すぐにグラキエスとロアは一気にゴブリンの群れをポイントへ駆け寄り、採掘を開始する。
 ロアが『防衛計画』や戦闘用イコプラでゴブリンがこちらを襲ってこないよう警戒しつつ、二重螺旋ドリルを使ってネムレル鉱を採掘する。この際、鉱石周辺の岩ごと採掘し、脆いネムレル鉱を岩で保護した状態での採掘を心がける。
 そして、採掘した物は先ほどセレンフィリティから受け取った気泡緩衝材……世間一般ではプチプチと呼ばれるアレで包んで、グラキエスがバレットペンダントトップに入れて、幾重もの衝撃防衛手段を取っていく算段である。
「採掘が終わるまで、なんとか足止めするわよ!」
「ええ!」
 採掘を円満に終わらせようとセレンフィリティとセレアナが互いの頷きあうと、『龍の咆哮』で驚いていたゴブリンたちの気を向けさせるべく、セレンフィリティは『サイコキネシス』でその辺に落ちていた石類や、氷結中のゴブリンを浮かび上がらせて他のゴブリンにぶつけたり、『女王の加護』や『庇護者』で周囲の守りを固めたセレアナが『シーリングランス』『ライトニングランス』でゴブリンをいたぶったりと、できうる限りの攻撃で採掘担当から気を逸らしていったのだが……。
「――よし、こっちは必要な分掘り終えた。 アウレウスたちもそろそろ……っ!?」
 グラキエスたちが作業を終え、ゴブリン担当のほうへ視線を向けると……そこには、隙を突かれたのか多数のゴブリンに押し倒され、服(というか、トライアングルビキニとロングコートのみだが)を脱がされそうになってパニックになっているセレンフィリティの姿があった。
「な、なによこのエロゴブリンッ!」
「グヘヘ、イイ女ダ! 脱ガシテ辱メテヤロウゼ!」
「ぺろぺろ! ぺろぺろシタイ!」
 ……この状態を見たセレアナが、声にならない声を上げて、ブチ切れた。
 「死ねっ!」とか言いながらゴブリンをセレンフィリティから引っぺがしては、遠慮なく槍をゴブリンの腹に突き立てたり、至近距離で『光術』を使ってゴブリンの目を焼いたりと残虐非道な攻撃を繰り返しているものの、物量に押されている様子。アウレウスも増援で増えてしまったゴブリンを相手にしていて、助けにいけそうにない。
「今助けるっ!」
 セレンフィリティを助けるため、グラキエスは服を脱がそうとするゴブリンへ『奈落の鉄鎖』で縛り上げ、動きを封じさせる。
「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 ゴブリンの動きが止まったことで余裕のできたセレンフィリティは、自身の上に乗っかっているゴブリンたちへ『サイコキネシス』を使って一斉に跳ね除けさせ、冷線銃で氷結させて動きを封じ――精一杯の怒号と共に、ゴブリンが固まっている場所めがけて、機晶爆弾を投げつけた!
「これは――まずいことになりそうだ。主、すぐ脱出しませんと!」
「わ、わかった!」
「エンド、そのまま走ったら身体に障ります! 私たちでおぶりますから、さぁ!」
 事のやばさに気づいたアウレウスとロアは、すぐさまグラキエスを背中におぶって出口に向かい走り出す。セレンフィリティとセレアナの二人もそれに追随する形で、坑道出口を目指して駆けていき、そして――。

ドーーーーンッ!!

 激しい爆音。グラキエスたちへ迫り、追い抜いていく爆風。威力が高かったためか、坑道内が小さく揺れるほどであったが……幸い、坑道を塞ぐような事態にはならなかったようだ。ただ、爆心の近くにいたゴブリンたちの生死は完全に不明である。

 ……無事に行動出入り口に到着したグラキエス一行。やや遅れて、歌菜と羽純の二人も戻ってきたようだ。
「大丈夫だった? なんかすごい音と揺れが起こったから、心配したよ……」
「こっちはなんとか無事だ。セレンフィリティが爆弾をゴブリンたちに投げつけたみたいで――」
 そう言いながら、グラキエスはセレンフィリティのほうに視線を向けると……またしてもハプニングが。――セレンフィリティのトライアングルビキニの上半身部分が、ない。
「せ、セレン……服……!」
「えっ……きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
 坑道出入り口に響き渡る、黄色い悲鳴。すぐにセレアナが「セレン、すぐコートの前を閉じるのよ!」と慌てながら叫ぶも、しばらくの間は騒々しい状態だったという。
 その後、セレンフィリティが落ち着くのを見計らってから急いでイルミンスールへ戻るはめになってしまったのであった――。