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リアクション
「そろそろ頃合いですかね……」
大広間の窓際に立っていた笹野 朔夜(ささの・さくや)はキリエを呼び寄せた。
「何か用ちょよか?」
「ええ、ここから庭園を覗いてみてください」
不思議そうに首を傾げるキリエは、朔夜の指示通り窓から庭園に視線を向けた。
「あっ!」
すると、キリエの目に飛び込んできたのは白いガゼボの周りを彩る鮮やかな花達だった。
キリエは衝動の赴くままに、窓枠に足をかけると、廃墟を飛び出して庭園へと向かっていった。
「キ、キリエさん!?」
朔夜が後を追いかけ、多くの生徒達も何事かと飛び出して行った。
走りついたキリエの目の前に広がっていたのは、ガゼボの周囲だけ花の植えられた庭園だった。
「ごめんねぇ。さすがに今日一日じゃ全部は終わらなかったんだよぅ。……で、でも、安心していいよぉ。キリエさんが戻ってくる頃には綺麗なお花でいっぱいにしておくからねぇ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は必死に落胆するキリエを励まそうとした。
すると、翠門 静玖(みかな・しずひさ)は少年のように目を輝かせながら北都の言葉に付け加える。
「廃墟の方も安心してくれ! 俺が責任を持ってピカピカにしてやる!」
「お兄様、やりすぎて他のことを疎かにしないように注意してくださいね」
「わ、わかってるよ、メイ」
放っておいたら三日三晩で作業しそうな静玖を、朱桜 雨泉(すおう・めい)はきつく注意していた。
生徒達に背を向けていたキリエは振り返り、深々とお辞儀をした。
「皆さん、あいのために……ありがとうちょよ。あいは、生きたい、ちょよ。……生きてみんなと、もっと、もっと――」
話しているうちにボロボロと涙が溢れてきて、キリエは最後まで話せなかった。
庭園に植えられた花は、黄色のクロッカスにサイネリアなど、キリエに元気になって欲しいという生徒達の強い思いが込められていた。
キリエは生きたいという思いをレイゼルにぶつけた。
実験にされた原因が自分にあることを謝ると、レイゼルは怒る素振りなど微塵も見せず、キリエをそっと慰めた。
そして、一人だけ身体を直すのではなく、レイゼルにも治療を受けて欲しいと頼む。
しかし、レイゼルはゆっくりと首を横に振り、決して承諾してはくれなかった。
「気にしなくていい。どうせ、私の体はもうもたない」
「!?」
キリエは顔をぐちゃぐちゃにして、さらに激しく泣き出した。
「……そんな哀しい顔しないでくれ」
レイゼルは冷たい鉄の手で、落ち着くまで何度もキリエの頭を撫で続けた。
「最後に、顔は、見せてくれない……ちょよか」
「……それは、できない」
レイゼルは辛そうに答える。
キリエはじっとレイゼルの頭部を見つめた。
篭っていても確かにその声はレイゼルの物である。
だが、鎧の隙間からは大好きな人の温もりを感じとることはできなかった。
「お別れだ」
レイゼルはキリエからゆっくりと離れる。
「星を数えながら待っているよ」
「やっぱりだめちょよ。行かないで欲しいちょよ!!」
キリエが離すまいとレイゼルにしがみ付く。そんなキリエにレイゼルは触れようとはせず、ゆっくりと頭部を回して騨の方を見た。
「早見騨と言ったか……」
「え、はい」
「わがままを言ってすまないが、頼む。妹を見捨てないで――」
レイゼルの言葉が途切れると同時に鎧がバラバラになって崩れ去る。
鎧に埋もれながらも、キリエは頭部を見つけだし、強く抱きしめながら愛しい主人の名を繰り返し叫び続けていた。
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