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悪意の仮面・完結編

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悪意の仮面・完結編

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「……なんというか、すみません」
 大きな大きなため息をついた九十九 昴。その隣で、困ったような笑顔で、堂島 結(どうじま・ゆい)が頬を掻いた。
「い、いえー……仮面のせい、らしいので」
「一応、もう一度だけ、説得してみてはいかがでございましょう?」
「そ、そうだねえ。もしかしたら、話を聞いてくれるかも」
 九十九 天地(つくも・あまつち)と、プレシア・クライン(ぷれしあ・くらいん)が、目の前の廃工場に向き合って呟く。
 なんとなく気力を使い果たした気分になりながらも、昴が工場の入り口に、すうと息を吸って声をかけた。
「朋美、止めなさい! どれだけ迷惑かけていると思っているの!?」
「真の偉業とは、人に理解されないものなの! 誰にも私を留められはしないわ!」
「刃夜さん! 正気に戻ってください!」
「もはや言葉で語り合うときは過ぎタ……」
「今のが今日初めての会話じゃない!」
 昴と結の説得も、工場の中にいる朋美と刃夜には通じていないようだ。
「ほとんどの出入り口は封鎖されて、進入路はこの入り口だけ……なかなか考えられていますね」
 進み出てくるのは鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)。すでに魔鎧・鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)を着て、準備万端の様子だ。
「あなたは……」
「ネクロ・ホーミガと呼んでください……考えがあります。任せてください」
「おーい、早く終わらせておっぱいがどうこうという所に行かんか?」
「まあまあ、早く終わらせちゃうよ」
 なんとなくヒマそうな医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)をなだめるように白羽。
「聞いてくれ! この廃工場の中にあるロボットを、貧乳強盗団が狙っているという情報が入った!」
「……何だって!?」
 口調も変えて、中に声をかける貴仁。ざわ、と工場の中がざわめいた。
「そのロボを守りに来たんだ! 中に入れてくれ!」
「ようし、それじゃあ入り口の警備を命じるわ! この『豪転丸』が完成した暁には、そんな連中、追い散らしてやるわよ!」
 なぜか声だけは筒抜けの工場の中から、朋美が答える。ふむ、と貴仁は鼻を鳴らした。
「今のが、作戦?」
「こうなったら、プランBだ」
 おそるおそる聞いたプレシアに、貴仁が答えた。
「……というと?」
「強行突破に決まってるっしょ!」
 白羽が答える。
「こうなったら、採用!」
「刃夜さん、待ってて!」
 ……というわけで、工場の中に突っ込んでいく一同であった。


「追い詰めましたよ、朋美」
「あれっ!?」
 廃工場内部。広い空間で、なにやらごちゃごちゃした巨大なものを整備して、オイルまみれの仮面を着けた朋美が頓狂な声を上げた。
「なんでいきなり入ってくるのよ! 入り口に落とし穴が仕掛けてあったでしょ!」
「木村が身をもって場所を教えてくれたから、わらわたちは引っかかっておらんぞ」
 と、房内。種モミ剣士として厚い親交をかわした救世主が、描かれていない間にある種の大活躍をしてくれたらしい。
「むうっ、こうなったら……仕方ないわ、刃夜、やっておしまい!」
「アラホラサッサー」
 高周波ブレードを手にした刃夜が進み出る。立ちはだかるのは、プレシアだ。
「……ほんとに洗脳されてる!」
「邪魔しちゃ駄目ダヨー」
 いまいち気合いの入っていない攻撃を光条兵器のステッキで受け、いなす。どうやら倒すと言うよりは、時間稼ぎをするのが目的のようだ。
「刃夜だけではないわよ! さあ行くわよ、ヴォルケイノ!」
 朋美が飛び込んだロボット……なぜか足がない……がスカート型の下半身からバーニアを噴き上げて浮き上がる。モノアイがぎらりと光った。
「待て!」
「何やつ!」
 ばぁん! と開け放たれる工場入り口。現れたのは、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)。その額が輝く。
「私は蒼空学園のハーティオン! 正々堂々、勝負!」
「面白いじゃない! 相手になってやるわ!」
 工場の中を飛び回る朋美の乗るヴォルケイノの背中が、ぼぼぼぼっ! と音を立ててミサイルを撃ち放つ。
「危ない!」
 と、ハーティオンの背中に隠れるラブ・リトル(らぶ・りとる)が甲高い声を上げる。
「朋美さんの手の内は読めております。ご安心を」
 天地が立ちはだかり、ふところから札を抜いた。それは雷に変じ、飛び来るミサイルを迎撃する。
「私がこれを押さえている間に、巨大ロボを! 頼むぞ!」
 両腕を広げ、空中のヴォルケイノへ飛びつくハーティオン。暴れ回るヴォルケイノを、押さえ込んでいる。


「モフモフにしてあげるヨ」
 一方、刃夜が空いた手から放ったのは、毛玉のようなわたげうさぎだ。
「きゃあっ!?」
 弾き落とすわけにも行かず、ひょいと受け取るプレシア。何人をも魅了する柔らかな触感に耐えることができず、光条兵器を取り落としてその感触を味わってしまう。
「隙アリっ!」
 刀を手に突っ込んでくる貴仁。だが、その眼前に刃夜が手を掲げる。その腕にはもこもこのわたげうさぎ……のようなもの……が取り付けられている。
「これを壊すつもりカナ?」
「……くっ、卑怯な!」
 ぴしりと、貴仁の動きがとまる。手を出すのは容易だ。だがそうすればわたげを傷つけることになってしまう。まさに千日戦争。
「……もうやめて、刃夜さん!」
 と、意を決して飛び出したのは結だ。プレシアが取り落としたステッキを手に、ふところに飛び込んだ。
「……しまっタ、二つしか用意してなかっタ……」
「……ちょっと痛いかもしれないけど、我慢して!」
 突きつけたステッキから、かっと浄化の光がほとばしる。至近距離で受けて耐えられるはずもない。結の放った魔法が、刃夜の仮面を吹き飛ばした。


「これでロボを守るものはいません、今の内に!」
「ようやく、私の出番というわけね」
 やれやれと息を吐きながら、進み出る高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)。朋美がいじっていたあたりにノートパソコンを接続し、見事な手腕でセキュリティを突破した。
「博士、長くは保たないぞ!」
 ヴォルケイノを押さえこむハーティオンが叫ぶ。
「分かってるわよ。プログラムの方を焼き切ってしまえば、こんなものは起動しなくなるわ」
「ああっ、あたしが徹夜で書いたプログラムが!」
「徹夜で書けるものなのかなあ」
 叫ぶ朋美のすぐ隣で声。いつの間にか、ヴォルケイノのコックピットの中にラブが入り込んでいる。
「……あれぇ!?」
「二人ともとっくみあいに夢中だったから、隙を見て入ってみました。それじゃあ、失礼して……」
 ひるるると飛んでくるラブが仮面を外そうとする。仮面を守ろうとすればロボの操縦を止めなければならない。かといって、そうすればハーティオンに押し負けてしまう。そうすれば、結局は無力化される。
 そして朋美は、ロボを操縦し続ける方を選ぶ女だった。
「外したわよ!」
「よし、あとは……博士!」
 目に見えて抵抗をやめるヴォルケイノ。はっと巨大ロボの方を見れば、鈿女が仕上げにかかっているようだ。
「……ちょっと、何よこの無駄の多いプログラムは! こういうのは、多少乱暴でもこうやって……効率的に……」
 人間の思考速度をほんの少しはみ出た勢いで鈿女の指がプログラムを書き換えていく。
「ふう、これでよし」
「……って、止めるんじゃなかったんですか?」
「あっ、……あまりにも我慢できなくて」
 ごごごごご。鈿女が昴に突っ込まれている間に、起動プログラムを完成させた巨大ロボが変形し、工場の天井を破って浮き上がっていく。
 頭がドリル/手がドリル/足もドリル。空飛ぶドリルの塊。それこそが朋美が完成させた巨大ロボ、『豪転丸』である。
「ちょ、ちょっと! あれどうやって止めるのよ!」
 くらくらしている朋美を揺さぶるラブ。はっとした朋美はようやく周囲の状況を確かめたのか、ふっと笑った。
「ああなっては、もはや誰も止められないわ。停止プログラムはこれから作るところだったから」
「……すまない、僕がついていながら」
 と、刃夜が痛みそうな頭を抱えている。
「今は誰かを攻めている場合ではない。こうなったら、行くぞ、ドラゴランダー!」
『ギャオオオオン!!』
 豪転丸に対抗するように、ツァンダの街を駆け抜ける龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)
「行くぞ! 龍心合体! ドラゴ・ハーティオン! 見参!」
 ……と、魔鎧を装着した!
「おおお! なんとすばらしい!」
「あなたはちょっと、反省しなさい」
 感動の声を上げる朋美に、じと、と鈿女が目を向けた。
 果たして、空中要塞と化した豪転丸をドラゴ・ハーティオンは止められるのか。そして、昴が朋美に下す地獄の折檻とは!
 次週へ続く!


 ……続きません。
 ドラゴランダーを装着したハーティオンの活躍により、豪転丸は郊外で無力化され、朋美は24時間空気イスの刑を下されたという。
 倒錯的なものを感じた房内はその様子を観察し、大いに満足したそうな。