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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●作戦

「来た、か」
 重い腰を上げるようにして、セルマ・アリス(せるま・ありす)は立ち上がった。
 氷の檻が壊れた時点で時間の問題だと思っていたけれども、予想していたより少しばかり遅かったと思った。
(今動けるのは少ないけれど、休息の時間は取れた。時期にみんな戦いに加われるだろう)
 各々休んでいる皆を見渡し、セルマは、
「行こう」
 そう、パートナーたちに言う。
 うんと中国古典『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)――シャオ――も、中国古典『論語』(ちゅうごくこてん・ろんご)――重仁――も頷いて、急ぎミルファの元へと向かう。


 そこでセルマたちはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)と鉢合わせた。
「……今動けるのは君たちとオレだけ、かな」
「そうみたい」
「オレに考えがあるのだけれども、すこしだけひきつけてくれませんか?」
 そう言って、リュースはセルマに考えていることを耳打ちした。
 それに、セルマは一縷の望みをかけて、頷く。
「分かった。行こう、シャオ、重仁」
 武器を手に持ち、こちらの様子を伺っているミルファに向かって駆けた。
 動かないミルファに向けて、[ゴールデンアクス]による一撃をまずは挨拶代わりに見舞う。
 それを簡単にミルファは剣で受け止め、払う。
「くっ……」
 やはり、簡単に攻撃は通させてはくれない。
「――」
 セルマの距離ですら聞き取れない小さな声で、ミルファは何事か呟くと、瞬時にして炎が生まれる。
 軌道を予測して、回避行動を取る。
 狙いなんてつけていないのか、それは簡単に避けきることができ、木に当たるとゴウッと一瞬にして木が燃えた。
「セルマ、避けて」
 短くシャオの声が聞こえると、どこからとも無く野生の魔獣が現れた。
 それがミルファに殺到する。
「ははっ、二度も同じ手は食わないよっと」
 どこか楽しそうに、殺到する魔獣を最低限だけ斬り殺すと、
「でも、魔獣は嫌いだ……」
 ギチリと歯軋りをして魔獣の出所を探るように、キョロキョロと辺りを見回すが、シャオの姿を捉えることはできない。
 そんな様子をあざ笑うかのように、背の高い木の上から、加速をつけた重仁の蹴りがミルファの背中に突き刺さる。
 どうと、みっともなく地面に伏せるミルファだが、すぐさま顔上げ距離を取る。
 泥の混ざった唾を吐き、
「やってくれるねぇ……」
 ゆらり、と初動を感じさせない動きで、重仁に切りかかろうとして、

 ――風が歌う

 歌が、聞こえた。
 どこからともなく、静かに、朗々と。
 そして、ミルファの動きが止まる。
 苦しそうに、頭を抱えて。
「な、にをして、る!」

 ――あなたが歩く道の様、あなたを今も想ってる

 一節一節に思いを乗せ、リュースは歌う。
 在りし日の幸せを思い出せるように
「クソッ、ふざけるな! ボクは捨てたんだ!!」
 呻き苦しむ、ミルファの姿をした剣の怨念にセルマたちは追撃を加えない。
 これがリュースの考える作戦であるのと、戦う必要が無いのなら、戦わなくてもいいのではないのかという、想いからだ。
 セルマはその声にコーラスとして【ヒュプノスの声】を乗せる。
 睡眠を誘発させるその声音に、ミルファの苦しみも少しだけ薄れているように思えた。

 ――どこにいようとも、いくつの時を重ねようとも、私はあなたを想っている

 リュースの歌は続く――