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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

リアクション

「あの、レイナさん? 本当に行くんですか? 行くんですね? ええ分かります、レイナさんがとても怒っていることは私も理解できます。
 でもレイナさんだって見たじゃないですか、あの白い靄、そして影。あれはきっとおば――きゃーーー!!」
 またある場所では、赤羽 美央(あかばね・みお)が『お化け』と言おうとしてその言葉自体に恐怖を覚え、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)にしがみつく。たまたま空京を訪れた所に、同じく用事のため街を訪れていたレイナと合流、話も弾んでさて帰ろうとした所に件の事件に遭遇したのであった。
「女王様……私は行かなくちゃいけないんです。
 懐かしく大切なものを利用して、人を操る……それが人によっては思い出したくもない記憶を思い出させる引き金になり得ること……理解してもらいませんと」
 しがみついた腕から、ヒヤリ、と感じる冷たさに、美央がレイナを見上げる。
「……大丈夫です。私は私、ですよ。
 ……ですが、やはりこの現象の黒幕さんにはお会いしなくてはいけません。勝手な振る舞いを、お許しください」
 微笑を浮かべつつ、レイナがきっぱりと口にする。実の所、レイナが特殊な事情を抱えていることは本人と、『雪だるま王国』のごく一部のものは薄々感づいている。今回二人が白い靄の影響を逃れたのもその事情が大きく関与しているのだが、であるが故にレイナは彼女にとってはひどく珍しく、激情に包まれていた。
「……分かりました。レイナさんがそこまで仰るのであれば、私も同行します。
 私も魔槍少女、もしもこの現象がお……以外のものであれば、解決する責務があるはずです」
 姿勢を正し、美央も意思を口にする。この現象がお化け等の超常現象によるものならレイナ、それ以外なら美央。ある意味、バランスが取れているかもしれない。
「やっほー、女王サマにレイナちゃん、もしかして二人も例の事件?」
 そこに、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が空中からとん、と足をつけ、二人に微笑む。街を騒がせている事件のことを知ったセラは、ひとまず魔穂香と六兵衛に協力を約束すると、街の高い所から状況を見守っていた。そこに白い靄が各地に発生する現象に遭遇、しかし残念なことに出所を発見できずしょぼくれていた所へ、二人を見つけた、という次第であった。
「セラさん、ルイさんはどうしました?」
 美央が、セラのパートナーであるルイ・フリード(るい・ふりーど)の姿がないのに気付く。セラがここにいて、ルイが居ない理由は決して多くない。隣のレイナは気付いたようで、セラもそれと同じ事を口にする。
「ルイはね〜、多分一週間は帰って来ないね」

「ふっ! ふっ!」
 ……その頃、ルイは地図にも載らないような名も無き小島にいた。どうして「ちょっと出てくる」がこうなったのかは、当の本人にも分からない。
「さて……我が家の方向はどちらでしょうか。後数日以内にはたどり着いてほしいものです」
 そう口にしつつ、ルイはそれほど気にしていなかった。迷うのはいつものことだし、いつかは家に帰れる。
 それに、パートナーとの絆がそう思わせるのか、きっとあの子たちは今も元気でやっているだろう、そう思えるから。
「ふっ! ふっ! ふっ!」
 そんなわけで、折角だからとトレーニングを行うルイであった。

「まぁそんなわけで、セラは街に不安な空気を撒いている事件の解決に協力しよう、って決めたわけ。
 不安は伝染するから。笑顔が少ない、みんなが不安に満ちた街はイヤなんだ。やっぱりさ、活気のある明るい空気に満ちた街がいいじゃない?
 ショッピングとか、食べ歩きとか、ゲーセンとか、いろんな楽しいことを、居て楽しい、って思える街でめいっぱい楽しみたいわけさ。……これはまぁ、セラの個人的な願望だけど」
 てへ、と舌を出すセラ、しかし言葉が冗談で言っているものでないことは、セラを知る二人には十分理解できていた。
「では、行きましょうか」
 美央の言葉にレイナとセラが頷き、一行は夜の街に消える。

「鵜野讃良様……天武天皇の皇后で、後に持統天皇に即位される、豊美ちゃん様と同様女性天皇の方ですね。
 戸籍の作成に新羅との外交、天武天皇時代は皇后として、文武天皇への譲位後も上皇として共に政務を執り、大宝律令の制定・施行にも関わった……中々凄いお方のようです。
 まぁ、その一方で壬申の乱の首謀者との説や、息子の対抗馬である大津皇子を謀殺した説があったりと、権謀術数にも長けた方だった模様で」
「そう、その大津皇子が今回の首謀者、って考えられないかな? どうしてこんな事件を起こしたのかは分からないけど、動機とか目的とかは十分ありそうだし」
「私としては、讃良様が最も疑わしいと思いますけどね」
「さららちゃんが? うーん、昼間会ってきたけど、とっても純粋な子だったよ。「さららちゃんときさらちゃん、似てるー♪」ってしてきたんだ♪」
「……まぁ、まだ今回の事件の黒幕、と決まったわけではありませんけど」
 昼間の一時を思い出してちょっと悦に浸る騎沙良 詩穂(きさら・しほ)を、やや冷めた目で見つつ風森 望(かぜもり・のぞみ)が今回の事件の黒幕について持論を展開する。讃良ちゃん……持統天皇は豊美ちゃん……推古天皇同様女帝である。豊美ちゃん曰く、「私よりも有能で、そして積極的な方でした」との評であるが、これは豊美ちゃんの周りには馬宿……聖徳太子や蘇我馬子といった存在がいたこと、持統天皇の周りにはそういった存在が居なかった(居たかもしれないが、特に挙げられていない)ことが影響している可能性がある。政の世界は戦場よりもなお戦場である。いつ首を取られるか知れない中、豊美ちゃんのように周りに恵まれなかった持統天皇は、必然そうならざるを得なかったのかもしれない。
「持統天皇のイメージとさららちゃんのイメージは、随分と違うように思うな。英霊が元になった人物と大きく異なることがあるのを考慮しても、一致するとは考えられないなぁ」
 実際に讃良ちゃんに会って来た詩穂が、難しい顔をする。
「あなたたち、お忘れですの? 英霊は『一人ではない』のですわよ。
 望の言う、ジトーなんとかの英霊が一人と決まったわけではありませんでしょう」
 ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)の指摘に、詩穂と望がハッ、と気付かされる。普段は何かとヴァカキリーと揶揄されるノートだが、ことパラミタの種族に関しては地球人である二人より感覚的に理解している部分が多い。
 そう、ここで言う持統天皇の英霊は、二人以上いても何ら不思議ではないのだ――。

 空に浮かぶ月を見上げて、とある建物の屋上に一人の少女が佇む。
「ふーん……この国の月も、なかなかに綺麗じゃない。まあ、悪くないわね。
 ……でも、魔法少女なんていう胡散臭いものが浸透してしまってるのは気に入らないわ。そうね……この国には強力な力を持つ者たちが大勢いると聞いたわ。彼らを意のままにして魔法少女と戦わせ、魔法少女なんて弱っちい存在だと知らしめれば、魔法少女も人望を失うはず。
 ……さあ、私の声が聞こえたそこのあなた。私の下に集い、私の言うことを聞きなさい!

 月光を背に受け、少女が両手を広げる。
 すると、本人の近くでは何も起きなかったが、街のあちこちで白い靄のようなものが生み出され始める――。

「魔法少女……それは乙女の憧れ! ロマンチックですよねぇ……憧れます。
 ですけど、悪魔に悪魔と間違われるようなこの容姿では……」
 夜の街を歩いていた次百 姫星(つぐもも・きらら)の周りにも、白い靄のようなものが生じる。それに気付かず少し歩いた所で、姫星はふと懐かしさを感じさせるような声と、前方に白い影を目の当たりにする。
「はっ、あなたは――あれ、なんだか頭が……」
 そこからしばらくの間、彼女の意識は途絶えることになる――。

 他にも、靄に包まれた者は懐かしいような、聞き入ってしまうような声を聞き、やがて自我を失い相手の意のままに動く人形と化す。
「ふふふ……いいわ、今宵も多くの下僕が集まった。
 あなたたちは魔法少女に対して負の感情を植えつけられ、あるいは呼び起こされている。そうでしょう?」
「はい……きらびやかなあの魔法少女共が妬ましいです。この街に住まう魔法少女共を倒し、魔法少女の時代なんて終わらせてしまいましょう」
 操られつつもどこか生き生きとした表情で、姫星が少女に応える。
「いいわあなた、その姿勢、気に入ったわ。あなたには特別な名を名乗ることを認めてあげる。
 そうね……『百魔姫将キララ☆キメラ』。どう?」
 少女に名を贈られた姫星が、深々と頭を下げる。
「あなた様の理想を叶えるべく、努めたいと思います。……出来れば、あなた様のお名前を教えていだだけませんでしょうか」
 頭を垂れた格好で、遠野 歌菜(とおの・かな)が少女に問いかける。
「名前? ……そうね、いいわ。特別に教えてあげる。
 我は高天原 姫子(たかまのはら ひめこ)。かつて帝として、国を総べていたこともあった」
 姫子、と名乗った少女は、言葉遣いこそ大層な雰囲気であったものの、背丈は比べるなら豊美ちゃんよりも小さく、10歳に届くか届かないか、といった所であった――。

(……うん、そう。多分その人……姫子さん? ちゃん? が黒幕、かな)
 操られた契約者たちが一斉に夜の街に散った後、物陰に隠れた歌菜はテレパシーで月崎 羽純(つきざき・はすみ)に手に入れた情報を流す。歌菜は潜入捜査のつもりで、操られたフリをして黒幕、姫子に近付いたのであった。
(そうか……元が同じ二人の英霊……このまま穏便に済むとは思えないな。
 まぁ、それは今はいい。とにかく歌菜、無茶だけはするな)
 羽純の心配するような『声』に、歌菜は嬉しい気持ちになりながら応える。
(大丈夫! 私は魔法少女アイドル マジカル☆カナですしっ。もし操られても羽純くんが止めてくれますよねっ♪)
(ったく……どうなっても知らないからな)
 照れ隠しに呟いて通信を切る羽純、歌菜はふぅ、と一息ついて、壁にもたれかかる。極度の疲労はテレパシーをしていた以外にも、絶えず響く声に抵抗を続けていたからである。
(あはは……姿は子供だけど、力は本物、かも。ちょっときついかなぁ……)
 空を見上げる歌菜、まだ夜は長い――。