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機械仕掛けの歌姫

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機械仕掛けの歌姫

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 第九章 Move! Go! Go! Go! Go!


 鏖殺寺院支部、倉庫周辺。
 ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)は迷彩塗装で航空迷彩をして視認率を下げ、飛行ユニットを使って上空から地上を偵察していた。

「人の大切な物を奪った上で、それを元に相手を脅迫するなんて気に入らないわね」

 ソフィアは外の見張りが居ないことを確認するやいな機晶キャノンで倉庫の外周を砲撃した。
 機晶石から放射されるエネルギーが束となり、地面に炸裂。爆音と共に地面が焼け焦げる。

「私達機晶姫をモノ扱いしてる事も気に入らないんだけど。そんな人達には思い知らせてあげないといけないわね……!」

 その砲撃に釣られ、あわてて飛び出したオーク目掛けて、両肩に装着した六連ミサイルポッドを全弾発射した。
 合計十二連のミサイルが倉庫の入り口からわらわらと出てきたオーク達に命中。けたたましい爆音と共にオーク達は消し炭となった。

 しかし、これだけでは終わらない。
 オークは怯えることなく、続々と入り口から飛び出してくる。

「人の弱みに付け込み自分達の手駒として使うとは何と卑劣な。その様な輩は許す訳にはいきませんな」

 装備に迷彩塗装を施してその瞬間を虎視眈々と待ち構えていたアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)は、大きな棺桶を両手で構える。
 荒野の棺桶――ハイ・ブラゼル第四世界産の棺桶だ。
 それに内臓された機関銃を掃射し、出現するオークを次々と蜂の巣にしていく。

 おびただしい硝煙の香りが倉庫周辺に匂い立つ。
 荒野の棺桶から排出される大量の空薬莢が地面に落ち、鈴の音に似た音を鳴らせる。

 そして制圧された倉庫周辺に素早く近寄った面々は、倉庫の前で突入班と陽動班に分かれた。
 それは屋上から侵入を開始した班とは違い、最も敵のオークが多い一階からの突入を試みる者達だ。

 その中の一人、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に発見されぬよう細心の注意を払わせつつ自らの斥候を偵察に出す。 
 それと共に上杉 菊(うえすぎ・きく)は己の紙ドラゴンにグロリアーナの機晶技術で小型カメラを取り付けてもらい、内部の偵察に向かわせた。

 しばらくして、菊の元へ紙ドラゴンと斥候の二つの偵察結果が届いた。
 菊はその情報に目を通し、敵の配置や内部の大まかな状況の把握をしてから周りにいる陽動班の者達に報告した。

「オークは中央に密集しているようですね、恐らくその真ん中にスティルがいます。
 既に中で戦っている人達もいますが、どうやら多勢に無勢。内部の戦況はあまり変化してないようです」

 菊のその言葉を聞いたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が口を開いた。

「……報告では指揮官のドルイドが声帯を持っているらしいな。なら、僕達陽動班がするべきことは」
「比較的単細胞なオーク兵をおびき出し、戦ううちに逆上させて、根城としている倉庫から大半の部隊を引きずり出す。
 それで、相手のスティルとかいう輩の周りを裸にするってとこかしら」

 二人の言葉に周りの陽動班の面々は一様に頷く。

 その陽動班の目的を湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は無線を通して上空をヘキサポッドウォーカーに同乗し飛行する高嶋 梓(たかしま・あずさ)に連絡した。
 梓はその連絡を受け、陽動班の反対方向――すなわち倉庫の裏口で待機する突入班に連絡した。

『……突入班の方々、準備は完了した模様です』

 梓による折り返しのその連絡に、陽動班の面々は素早く所定の位置についた。
 そして、菊は倉庫の真正面の入り口に陣取り、少し入ったところに機晶爆弾を仕掛けた。

「カウント始めます。五、四、三、二、一……」

 ゼロ、と言った菊の言葉と共に倉庫の真正面の入り口が吹き飛ぶ。
 その爆音に釣られ、奥に溜まっていたオークが広がった真正面の入り口に集まってきた。

「サイドワインダー!」

 その先頭のオーク目掛けて菊は鬼払いの弓を引き絞り、二本の矢を放つ。同時に放たれた必中の二本の矢が先頭のオークの頭部と胴体を射抜き倒れた。
 後続のオークはそれを見て逆上。菊に襲い掛かろうと集団で突進する、が。

「全く、愚鈍ですね。あなたたちは」

 静かな呟きと共にエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が、パスファインダーで一気にその集団の只中に突っ込んだ。
 エシクが手に持つのは二刀一対の七支刀型光条兵器『デヴィースト・ガブル』。
 エシクが光の刃が振るい放たれるその技はラヴェイジャーの極技、アナイアレーション。
 洗練されたその剣技を一度振るうだけで、周囲のオークはことごとく倒れ伏した。

「ガアアアアアアア!!」

 オークは人ならざる咆哮を上げ、さらに逆上。先ほどまでの数とは倍近くまで膨らんだオークの集団が休む暇なくエシクに突撃する。
 が、エシクはそれに構わず光条兵器を仕舞うと小回りの利くスターブレイカー・レイシャワーに武器を取り替えた。
 双子座の十二星華、アルディミアクの双星拳「スター・ブレイカー」のプロトタイプであるそれは、流星群の名が示す通り偉力よりも速射性を重視した構造だ。
 先頭のオークに素早いジャブのを放ち、じわりじわりとエシクは後退していく。

 やがて、倉庫の内部から外へと出た頃、エシクは後方に大きく跳躍した。

「……さて、どれだけ釣れるかな?」

 エシクと入れ替わるようにそう呟いた亮一がオークの集団に向けて放電実験を放った。
 広範囲に放たれた電撃は集団ごとオークを麻痺させ、身動きを取れなくする。

「梓、今だッ!」
「分かりました、亮一さん!」

 そのオーク共に向けてすかさず上空から梓が我は射す光の閃刃で攻撃。
 動けなくなったオークの身体を戦女神の光の刃が事細かく切り刻んだ。

 それでも、まだ倒し損ねているオークがいる。
 その残党をトマスは龍金棒を振るい、ミカエラは高周波ブレードで切り裂く。
 鮮やかなコンビネーションでオークを討伐しながら、トマスは心のうちで思う。

(どこからが人間で、どこまでは人間でないのか、線引きは難しい。
 『個性の有無』が、個人的にはラインを決める要素にはなってるようだ)

 トマスは龍金棒の長さを最大にして、武器に爆炎を纏わせた。

(フラン。
 戦えない代わりに、歌う機晶姫。
 自分のその歌を、パートナーの喜びにした機晶姫―――じゃあ、僕の中では、人間と同じ扱いだ。
 今もそうやって、自分の為に鏖殺寺院に捕えられ洗脳された恋人――パートナーを思って、泣く事が出来る。 
 それは、『心』だ。部品として存在する事もできないし、人の体を解剖しても取りだす事のできない、心)

 龍金棒から放たれる燃え盛る炎は、トマスの怒りと同じぐらい熱い。

(僕は心を弄び踏みにじる、鏖殺寺院を許す事は出来ない――!)

 力一杯振るわれた龍金棒の一撃は、周りのオークにぶち当たり、轟々と音を立て燃やし尽くした。

 頭数を削っていくために、広範囲に及ぶ攻撃を心がける面々。
 そして、また自分達に向かって走ってくるオークの集団を見据えながら、亮一は腹の底から叫んだ。

「人の大切な物を奪って無理矢理言う事を聞かせようって根性が気に食わん。そんな奴等は叩き潰す!」