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【黒髭海賊団】名も無き島の探索を

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【黒髭海賊団】名も無き島の探索を

リアクション

 美緒たちが探索などをしている間、海賊や私掠船が増えると邪魔になる一部の闇商人のうちの1人から雇われたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、彼女たちの海賊船の近くの水中へと身を隠していた。
 パートナーであるアーマード レッド(あーまーど・れっど)はジャングルの中に、瘴気の地龍に乗り込んだネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は砂浜を掘り進んで、ジャングルと船の間の行き来するような場所の真下で待機をしている。

「一先ずは、何処かの個室に集まってもらいましょう。何処の所属で、小型飛空艇で飛んでいった人たちが何処へ向かうのか心当たりがあるか、訊きませんと」
 所属不明の海賊船に乗っていた船員たちを連れてきた美緒が、ラナへとこの後のことを相談し、浜辺へと差し掛かったときだった。
 浜辺の砂が揺れ、瘴気の地龍が姿を現し、それを中心に、三つ首の大狼の如き姿をした瘴気の魔狼、小さな蜂のような姿をした瘴気の毒蟲、鋭い牙を持つ大型の瘴気の猟犬、枯れ木のような姿をした瘴気の樹木人が飛び出す。
「標的ヲ 確認……殲滅シマス」
 ジャングルからは、レッドが左腕に装着した回転式機関砲から銃弾を放ち、海中から上半身を覗かせたエッツェルが全体に向けて魔力の塊をぶつけてきた。
 ラナが空かさず美緒に纏いて防御力を高め、正悟も彼女を庇う。
 行動を共にしていた小夜子オルフィナ、捕らえた海賊団員たちも各々防いで、致命傷を受けるのを避ける。
「な、何ごとだっ!?」
 美緒を護るため、内側から出てきた“黒髭”が声を上げた。
 辺りを見回せば、エッツェルたちに囲まれていることが確認できる。
「雇われた以上はしっかりお仕事をしませんとねぇ。私たちの狙いは、あなたの首なのですよ」
 そう告げたエッツェルは美緒を指差す。そして、それを合図のようにして、レッドが両足の脛部に3つずつ装備したロケット射出機構からミサイルを放った。
 地龍に乗ったままのミストも要塞崩しと呼ばれる巨大な大斧を振り回し、美緒の首を狙う。
「がぉーぐぁぉー」
 皆の視線が攻撃を仕掛けてくるエッツェルたちと、対象にされた美緒に集まっている中、叫びが聞こえた。
 声を上げた主は、近付いてきたブリューナクより降り、海に背を向けたままのエッツェルの背後に回ってきていたテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)だ。
 野生児そのものといった動きを見せる彼女は、己に対して背を見せるエッツェルに対して、振り上げた拳を勢い良く振り下ろす。
「ダゴン、来てください!」
 朱鷺がそう声を上げ沖合いでマーメイドたちと泳いでいるはずの、パートナーのダゴンを召喚する。
「任せなさい。さぁ、邪魔する者たちはみんな眠ってしまえ。私の美声を聞きながら、私の活躍を見ながら、おやすみなさーい」
 召喚されて浜辺へと現れたダゴンは、マーメイドたちと共に歌い、ミストやレッドを眠りへと誘う。
 その歌に合わせて、朱鷺は先ほど訓練にも使っていた音符の形をした紙吹雪を操り、ミストを乗せた地龍へと飛ばし、その身を切り裂いて動きを鈍らせた。
「こいつら倒せば、金稼ぎになるのかよ?」
 訊ねながら、ブリューナクから降りてきたのは九鬼 嘉隆(くき・よしたか)だ。
 念力を用いて、浜辺に転がる小石を浮かせた彼女は、ミストの振るう巨大な大斧にぶつけて、軌道を逸らさせた。
「この人数……流石に、分が悪いですねぇ」
 テラーの一撃を喰らいながらも立ち上がったエッツェルは、予定通り、ミストの乗る地龍によって島内からの救援を絶たせることは出来たものの、海からの救援は予想外だと、ぼやく。
 パートナーたち2人に目配りすると、テラーの隙を突いて、海中へと退却した。
「待ちなよ!!」
 気付いたダゴンが後を追おうとするけれど、ミストの放った瘴気の猟犬が飛びついてきて、邪魔をされ、追うことが出来ない。
 その間にもミスト本人は、魔狼や毒蟲、樹木人を放って、地龍に地面へと大穴を開けさせると、そこから退いていった。
 残るレッドも右肩からミサイルを、黒髭の船に向けて撃ち込むと、注意がそちらに向いているうちに、その場を後にする。
 急ぎ、ミサイルが打ち込まれ火の手が上がった船体へと消化活動を行うと、大して被害の出ないうちに、消化することが出来た。
「大丈夫でしたの?」
 落ち着いた様子を確認し、セシルはブリューナクから降りて、美緒へと声を掛けてくる。
「ああ、大丈夫だ。助かったぜ」
 美緒――と入れ替わっていた黒髭が答えた。
「良かったですわ。ところで、お話したいことがありますの」
「それなら、上がってもらいましょう、黒髭」
 危険が去ったことを確認してから、魔鎧から元の姿へと転じたラナが告げる。
「おう。込み入ったことだろう。中に入ってくれ」
 黒髭はそう告げて、セシルたちフォークナー海賊団を食堂まで引き入れた。



「……で、話ってのは?」
 食堂のテーブルを囲むように座ると、黒髭が早々に訊ねる。
「内海の探索情報を共有したり、活動エリアをある程度区切って衝突が無いようにしたりなど、上手く共存できるよう、海賊団ごとに住み分けが出来れば望ましいのですが」
「我(わたくし)は、見つけた食料等は全ての海賊達で平等に配分することを求めます! なぜならバーソロミューの『海賊の掟』だから! これだけは何が何でも絶対に譲れない!」
 セシルの応答に、バーソロミューも一緒になって答えた。
「情報の共有に、住み分けに、食料等の平等分配か……」
 それぞれの意見を聞き、黒髭は「ふむ……」と考え込む。
「活動エリアを区切ってしまう……というのは難しいかもしれませんね」
「と言いますと?」
 ラナの呟きに、セシルが問い返した。
「ラズィーヤ様から『ヴァイシャリー公認の海賊』という位置付けとして私掠船の免状を出していただいているのにも理由がありまして……」
 ラナは、先日ラズィーヤの下へと届いた意見書を見ていた彼女の反応を思い出す。
『今のパラミタに戦争はありませんが、パラミタ内海には多くの敵がいますの。それを“黒髭”たちにお掃除して頂きたいと思い、私掠船免状を出したのですわ。シャンバラは六首長家の力が強いですから、ヴァイシャリー家公認のものでしたら発行できますのよ』
 私掠船の免状発行に関することと、他国の海賊船も私掠船を名乗っている場合、その国との戦争に発展する事態を考えなければならないことについて書かれた意見書に、ラズィーヤはそう応えていた。
 それを伝えつつ、ラナは告げる。
「無闇に衝突を起こして、戦争を仕掛けたいわけではありません。けれど、他国の私掠船ではない海賊が、パラミタ内海に居るのも事実で……そのような海賊団を討伐しに行くためには、活動エリアを決められてしまって、そのエリアから出れないとなれば、“黒髭”海賊団としての使命を果たしに行けなくなってしまうのでは……と」
「探索情報を共有することや、食料等を平等分配するとかの協力しておいて、いざというときにそっちからも協力してくれるっていうのはありがたいことだ。ただ、ラナも言ったとおり、制限をされちゃあ適わねえ。さっき捕らえてきたヤツらの話を聞いていれば、ヤツらは元々エリュシオンの出で、私掠船の免状など持っちゃいねえ。最近勢力を伸ばして手狭になってきたってんで、新拠点になるべく島を探してた、と聞いた。ヤツらの話が本当であれば、早速討伐対象だ。まあ、そう言った使命を果たすのと、日頃の活動は別だってんなら、エリアを区切られるのは構わないがな」
 その辺りをどう考えるのか。
 黒髭はセシルたちへとそう問い返す。
「それは……」と言葉を詰まらせるセシルに、黒髭は「まあ、また考えてみてくれや」と笑う。