天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

リアクション公開中!

二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

リアクション


■機晶姫の目覚め
 ――戦いが終わり、防衛ラインを敷いていた者たちの一部は外を警護、残りの一部は小屋の中で疲弊した身体を休めていた。
「――小屋にまで攻めいれられなくてよかった。もうちょっと掃除しておこうかな」
 何とか小屋まで戦火を起こさずに済み、シルフィアはほっとしながらも小屋の中を見渡す。十分に綺麗になっており、その立派な仕事ぶりが伺える。
 機晶姫はだいたいの調査が終わり、あとは中枢パーツを組み込むだけである。その手を握り、康之はひたすらに『もう一人ぼっちじゃないんだ』ということを思い、伝えようとしている。周りの契約者たちも、この機晶姫の目覚めを今か今かと待ち続けていた。
「……あの、大丈夫です?」
 ファイリアが意気消沈しているミリアリアに水を手渡す。ミリアリアはそれをグイッと飲み干すと、幾分か表情は和らいだようだ。
「ごめんね、心配かけちゃって。もう大丈夫……ってほどじゃないけど、大丈夫なのは確かよ」
「あの鉄仮面の騎士……ミリアリアの妹だったとはな。――しかし、モニカの言うことは本当だとすれば……」
 鉄仮面の騎士の正体にわずかながらの予測を立てていた和輝は、ミリアリアに視線を向ける。……モニカの言葉が真実の場合、ここにいる魔女は何者なのか……? といった、冷静な疑問だ。
「――言っておくけど、私はミリアリアで間違いないわよ。嘘を吹きこまれているのはモニカのほう。確かに争い事には巻き込まれてはいるけど、私は大怪我負った覚えはないわ」
 その疑問に対し、ミリアリアは真向に否定。どっちが本当なのか、今は判断がつきそうにはなさそうだ。
「にしてもだ、あの魔法を見る限り相当の手練れに違いない。数千年に一度、出るか出ないかレベルの大魔女クラスの魔力を有していた。それをさらに魔女のスープで強化していたのだから……あれだけ相手にしても戦えていたのだろうな」
 戦闘中、アニスが張っていた結界の中で様子を見ていたダンタリオンの書は、モニカの魔法から力量を看破していたようだ。それによれば、かなりの力を有していたとのこと。ある意味で、今回の物量による消耗攻撃はあっていたのかもしれない。
(モニカ……どうして……)
 ミリアリアはまた浮かない表情になる。なぜモニカがこのようなことをしているのか……心配するばかりであった。

 と、その時。遺跡探索班が無事に小屋へ戻ってくる。すぐにダリルたちは中枢パーツを受け取ると、既に待機していたヴィゼルが呼んだアーティフィサーと共に組み込み作業を開始する。ここからは技術者たちの独壇場である。
「あ、中枢パーツを入れるのボクやりたい!」
「じゃあナギ、そこのパーツを連結お願いするわ。慎重にお願いね」
「いくつかのノズルを中枢パーツに繋げなきゃいけないようだな」
「ええと、このパーツはアーティフィサーさんが持ってきたものですわね。ここに組み込む、と……」
「そうそう、それでお願いしますだ。それがあれば安定するはずなんで」
 ――色々と作業が進むこと、十数分。いよいよ機晶石のエネルギーを循環させ、機晶姫を起動させる運びとなった。
 中枢パーツを組み込んだ後、ルカルカたちは遺跡探索班が持ってきた風化資料を詳しく調べてみたのだが……やはり、ほとんど読むことは叶わず、謎は深まるばかりであった。
「動かすわよ――」
 ルカルカの合図と共に、機晶姫を起動させる。ノートパソコンのモニタ上では、機晶姫内のエネルギー循環経路がモニタリングされている。それを見るに、かなりの量のエネルギーが循環しており、それが中枢パーツによって安定化させている……といった感じである。
(お願い……目覚めて……!)
 ミリアリア、そして契約者たちは祈る思いで機晶姫の目覚めを待つ。そして――その瞼が、ゆっくりと開いていく。
「う、ううん……」
 ――機晶姫が、目覚めた。機晶姫は上半身を起こし、きょろきょろと周囲を見渡す。
「――この素敵な世界へようこそ」
「あ、は、はい……あの、ここは?」
 アルクラントが声をかける。それがきっかけで、全員が喜びを笑みで表現していく。
「まず起きたら“おはよう”って言うんだよ?」
 と、シルフィアから注意が入ると、機晶姫は慌てて挨拶を返す。
「え、あ、と……おはよう、ございます」
「名前は! 名前はなんていうの!? オレはテテって言うんだ!」
 テテは機晶姫の手をぎゅっと握ってぶんぶん上下に振りながら、積極的に交流を図ろうとする。その様子を見ながら、美影はうっすらと嬉し涙を浮かべているようであった。
「な、名前ですか? 僕の名前は――クルス、です」
「あらぁ、来栖さんと同じ名前なのねぇ」
 偶然とはいえ、契約者と同じ名前を持つ機晶姫・クルスにジノは親近感を覚えたようだ。
 クルスの起床を喜ぶように、皆が色々と聞きたがりそうにしているが……未沙がクルスへ問いかけていく。
「あたしは朝野 未沙、メイドさんだよ。あなたは自分のことわかる? 覚えてる限りでいいから、あなたのことを教えてくれないかな?」
「……いえ、覚えていないです。どうやら、日常生活に支障が出ない程度にしかメモリーが残っていない様子です」
 ……人間でいうところの、記憶喪失らしい。内部メモリーのほとんどが失われており、肝心の情報などを聞くことは無理そうである。
 この後も、クルスに色々と尋ねようとするものの、さすがに目覚めたばかりであることや記憶がほとんど残っていないことを考慮し、これ以上の詮索はやめることにした。

「ところでミリアリアさん、これからどうするんですか? 鉄仮面の騎士……モニカさんの狙いがクルスさんなのは明確ですし、こうやって目を覚ました後も狙われ続けると思うんですけど……」
 アインがもっともな質問をする。だがミリアリアは大丈夫そうな雰囲気を見せていた。
「大丈夫よ、みんなが持ってきてくれた結界材料のおかげでしばらくは防御結界を張って凌げるはずだわ。モニカの攻撃にも耐えれる結界を張れるのも、ヴィゼルさんのおかげでもあるわね」
 思えば、あれだけの力を持つモニカの猛撃を結界で凌いでいるのだ、ミリアリアの結界も相当な頑丈さを誇っている。
 さっそくミリアリアは、集めてもらった材料を用いて防御結界を張っていく。複韻魔書はその様子を見学し、噂にもなるほどの結界を見ては興味深そうに眺めていた。

「――マグナ、だから、無理をしないでって言ったのに……」
「なぁに……身体はボロボロだが、問題はない。心配をかけてすまないとは思っているが……」
 モニカによって、動くことすらままならないほどやられてしまったマグナの身体を、リーシャが心配する。
「マグナ、話は聞いた。同じ心の持ち主として、誇らしく思うぞ」
「ハーティオン……そっちも頑張っていたようだな」
 そこへハーティオンがやってきて、マグナへ賞賛の言葉を贈る。同じ鋼鉄の心を持つ者として、一言言っておきたかったのだろう。マグナもまた、ハーティオンの戦いぶりを聞いていたのか、同じく賞賛の言葉を返していく。そして、しばしの間二人は鋼の歓談をしていたのであった。

「それじゃ、私たちはアーティフィサーの方をお送りしてまいります。それじゃあ、いきましょうか」
「姉上と母上はボクが守りますので」
「佑也さん、いってきます」
 アーティフィサーをヒラニプラまで送り届けるため、ラグナ一家のアイン、ツヴァイ、そしてオーランドの三人がアーティフィサーと共にヒラニプラに向けて出発する。と、ちょうど扉を出た所でヴィゼルを屋敷まで護衛してきた契約者たちが入れ違いの形で小屋へ戻ってきたようだ。
「――姉さん!?」
 ヴィゼルを屋敷まで護衛してきたメンバーの中にはゼクスの姿もあり、ちょうどすれ違った人物たちにかつての家族の面影を見る。
「……いや、気のせいか。そんなこと、あるわけない……」
 自らの暴走のせいで殺してしまったのだ、生きているはずがない。そう判断しているゼクスは、その面影は自らが生んだ幻影と思い……気のせいに繋げていくのだった。

「あの、あなたがミリアリアさん……ですか」
「ええそうよ、クルス。私があなたを起こしてもらえるよう頼んだの」
 クルスもだいぶ安定してきたのか、契約者たちとの会話も弾んでいるようだった。皆が起動を心から望んでいたからこそ、好意的に接してもらえているようだ。
 そして、クルスはミリアリアと会話をする。自らを起こすよう頼んだ本人との会話は……どこかくすぐったいようにも感じている。
「これから僕はどうなるんですか?」
「クルスには申し訳ないんだけど、しばらくはここで暮らしてもらうわ。あまり外には出れないとは思うけど……我慢してちょうだいね?」
 ミリアリアの表情には本当に申し訳なさそうにしている。しかし、クルスはそれを咎めることなく首を横に振った。
「大丈夫です。話を聞いている限りだと帰る場所がないような感じですし……ミリアリアさん、しばらくの間お世話になります」
 そして、笑顔。ミリアリアはそれを見て……「こちらこそ、よろしくね」と返していったのだった。


 ――小屋から離れた、森の中。モニカはある人物へ電話をかけていた。
(あの魔女が姉であるはずがない……! 姉は主が助けて、治療していると言っていた……! なのに、なぜ……!)
 心の中の焦燥。なぜあの女は自身の姉の名を騙るのか。正体の掴めぬそれに焦りを感じていると……電話をかけた先の相手が出る。するとモニカは余計な考えを捨て、会話に集中する。
「――もしもし。すみません、失敗してしまいました……。はい……思った以上に抵抗を受けてしまい……いえ、その点は大丈夫と思います。それで、次の襲撃は――しばらくは静観……わかりました。では帰還します……」
 手短に話し、電話を切ると……モニカは顔を歪めたまま、己が戻る場所へと帰還していくのであった――。

担当マスターより

▼担当マスター

秋みかん

▼マスターコメント

 初めまして、もしくはこんにちは。柑橘類系マスター・秋みかんです。
 今回もたくさんのご参加、ありがとうございました! まさかの満員御礼で非常に嬉しい限りです。
 それに伴い、たくさんのアクションでどれを採用するべきかかなり悩みました。これもひとえに効果的なアクションが多かったかもしれません。

 今回もまた称号が増えているかもしれません。お楽しみに。
 それでは、またお会いできることを願いつつ――。

 〜次回予告〜
 機晶姫・クルスを狙っていたのはミリアリアの妹・モニカだった。そしてモニカは、自分のことを姉とは信じず敵対している。
 そのことを悩むミリアリアであったが、クルスと生活していく内にクルスへ外の世界を見せたいという想いが募っていく。そしてそれは同時に、久しく忘れていたある感情の芽生えでもあった。
 一方、ヴィゼルは契約者たちにとある遺跡に眠るある物の修繕を依頼する――。

 次回、二人の魔女と機晶姫 第二話〜揺れる心と要塞遺跡〜