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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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 バスの正面にはトロスキー総統率いる本営が到着していた。
 マグロ頭のトロスキーがグルメバギーの上に立ち、ソウレッドと湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)を見下ろしている。

「お前たち、我が組織のスプレマシーなグルメの邪魔をするというのなら、容赦はせぬぞ!」

 トロスキーが厳かに言い放つと、隣のバギーからグルメ組織の戦闘員には見えない者たちが降りてきた。
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)である。

「フハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者ドクター・ハデス! 同じ悪の組織として、我らもオペレーションスプレマシーグルメとやらに協力することにしたのだ」

 そう言って眼鏡に手を当てると、光源も無いのにレンズがキラリと光る。
 忍はソウレッドの肩をがくがくと揺すると、ドクター・ハデスの方を指差した。

「おいおい、別な悪の組織まで出てきたぜ、どうするんだよ」
「ももももんだい、私の手にかかればどんな料理もノープロブレムだ! 全て受けきって見せようじゃないか」

 ソウレッドはマスクの下でニヤリと笑うが、当然、忍からは見えない。
 観念した忍はソウレッドから手を放すと、ドクター・ハデスに向き直る。

「ククク、その心意気、天晴だと褒めてやろう。だが、料理を武器とする怪人クラスがいるのは『冬虫火葬』だけではないぞ! 我らオリュンポスが誇る、殺人料理怪人サクヤの力を見るがいい! 行け! サクヤよ!」
「ちょ、ちょっと兄さん! なに悪い人たちに協力しようとしてるんですかっ! っていうか、私のことを怪人とか呼ぶのやめてくださいっ!」

 咲耶が抗議するが、ドクター・ハデスは高笑いを続けるだけで聞く耳を持たない。
 そんな様子に諦めた咲耶がため息をつく。

「……はぁ。しょうがないですね。まあ、私のお料理を皆さんに振る舞うのなら、別に悪事じゃないからいいですよね。今日は早起きして腕によりをかけて作ってきましたから、たくさん食べてくださいね」

 咲耶がにこやかに取り出した両手の皿からは、間違っても食べ物から出てはいけない瘴気が立ち上がっていた。
 それを見た忍がソウレッドの背中に退避する。

「よし頼んだソウレッド。さっき、全て受けきって見せようって言ってたよな。今こそ正義の力を見せる時だぜ! あ、俺はあっちの戦闘員を相手にしてくるわ」

 忍はそう言うと、横から挟撃しようとしていた戦闘員へ料理を突き出していった。


「ルルが熟睡してしまいましたが、どうしましょうか?」
「このまま寝かせておくも危険だしな。料理バトルは名残惜しいけど、背負って帰るとしようか」
「はい」

 ◇

 ソウレッドたちが戦っている中、特殊戦闘員たちがドクター・ハデスの指揮によってバスへたどり着いていた。
 突然入ってきた怪しげな恰好の大人たちに、テレビのヒーロー番組でも見るかのような反応をする園児たち。

「はーい、みんなー美味し物を持ってきたでちゅよー。押さないで並んでねー。みんなの分あるから安心してくだちゃいねー」

 リュックからケーキを取りだし、配ろうとする戦闘員の前に立ちふさがる姿があった。
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)である。

「おじちゃんたちの悪さもここまでなんだからっ! とぅ!」
「子どもたちしか居ないと思って油断を……ごふっ」

 腕に魔法少女アタックを受けた戦闘員は、その反動で手に持っていたケーキを自らの口へと突っ込んでしまう。
 ぱたり、と倒れた戦闘員は痙攣したまま起き上がらない。

「破壊力は控えめだったようで何よりなのですよ。でもでも、こんな危険なのを食べさせようだなんて許せないのですよ」

 戦闘不能になった戦闘員をつんつんと突きながら、舞衣奈が闘志を燃やす。
 ネージュと舞衣奈は顔を見合わせ、無言で頷いた。

「変身!」

 掛け声と共に、ネージュの着ていた服が可愛らしい魔法少女のコスチュームへと変わっていく。
 その光景に戦闘員たちが驚いている隙に、舞衣奈はケースから鍋やお皿を取り出していた。
 変身の終わったネージュは、片手で痙攣している戦闘員を引きずりながら、もう片方の腕で入り口に立っている戦闘員を押し出していく。

「ここだと子どもたちが危険なので、外で食べましょうね〜」

 バスの外で改めて向かい合うネージュたちと戦闘員たち。
 ケーキを構える戦闘員たちに対して、ネージュと舞衣奈は盛り付けたカレーを手にしている。
 重い緊張感の中、突然、ネージュと舞衣奈は俯きながらカレーを突き出した。

「べ、べつにおじちゃんたちのために作ってきたんじゃないんだからね! でも、せっかく頑張って作ってきたから食べてほしいな……」
「それじゃあせっかくなので」

 ネージュが手にするスパイスの効いた香ばしいカレーへと戦闘員たちが一斉に群がっていく。
 見るからに辛そうな紅蓮のカレーを持った舞衣奈に手を伸ばす戦闘員は居なかった。
 舞衣奈の目に涙が浮かんでくる。
 その光景をバスの窓から見ていた園児たちが、なーかしたなーかした、と騒ぎ出した。

「あ、あーっ、こっちのカレーも美味しそうだなー」
「お、おう。赤くて綺麗な色だよな!」

 慌てて紅蓮のカレーに向かう戦闘員たちへ、笑顔を取り戻した舞衣奈が渡していく。
 受け取った戦闘員たちは、カレーを前にして固まっていた。
 口の僅か数センチ先にあるスプーンですくった一口分のカレー。……それが大量の熱気を放ち、食べる前から大量の汗を流させているのだ。
 ネージュは心配そうに、舞衣奈は期待に満ちた眼差しで食べる瞬間を待っている。
 戦闘員たちは意を決してスプーンを動かした。

「「「ならかっ」」」

 口に含んだ瞬間、全員が火を吐いて燃え上がる。
 一瞬にして火は消えたが、戦闘員たちは真っ白な灰となっていた。

「へへ、燃え尽きちまったよ……」