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朱色の約束

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:対ビショップ・ゴーレム 前方・北西側




 同時刻、北西側。
 近遠らと同じく、こちらもレーザーの連射速度に苦戦を強いられていた。
「数と範囲が厄介だな……」
 絶影のコクピット内で、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が苦い声を漏らした。
 高い機動力を誇る絶影は、雨霰のごとく降り注ぐレーザーだろうが、回避することそのものは問題なかったのだが、今唯斗たちを襲ってたのは、エネルギーという問題だった。このまま避け続けることは可能ではあるが、エネルギーは無限にあるわけではないのだ。ならばと本格的に攻撃に転じようとすれば、途切れないレーザーの直撃を食らってしまいかねないのだ。それほど、レーザーの性能は高いようなのだが、感心してもいられない。可能な限り宝玉へ攻撃を食らわせてはいるものの、削りきるより先にエネルギー切れになってしまうのは目に見えている。
「このままではジリ貧だ。何とかせねばなるまいよ」
 サブパイロットのエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)も、僅かに焦りを見せ始めていたが、唯斗は努めて冷静にレーザーの回避に集中していた。
 そんな唯斗の背中を見やりながら、同じく焦燥と葛藤していたのはコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)だ。チャンスを作るという唯斗の言葉を信じて、エネルギーを温存しているところではあるが、一刻、また一刻と過ぎる時間がやけに長く感じられる。
「ガオオン……!」
 その横で、こちらは別の意味で葛藤する龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が吼えていた。
「落ち着け、ドラゴンラダー、まだ早い」
 チャンスを待つんだ、と宥めるが、どうやらそれが余り気に入らないらしい。
(ええい、まどろっこしいぞハーティオン! 我に任せろ、あんな木偶など食い散らかしてやるわ)
 ガウガウと鼻息荒いドラゴランダーに、自身も飛び出したい心境を堪えながら「待て」をするハーティオンに、ドラゴランダーはウウ、と唸る。
(なら、チャンスが来るまで、ちょっとだけ、ちょっとだけだから暴れさせろ、な。な?)
 遊びに出かけるのを待てといわれた犬のような反応に苦笑しつつも待て、と続けるコアだったが、その隣をすり抜けるようにして、リーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)の始動キーによってパワード・マグナとなっているマグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)が躍り出た。エネルギーシールドでレーザーを弾きながら、後退した絶影へと近づくと、「何か狙いがあるのか?」と声をかけた。
 そんなマグナに、唯斗は「ああ」と視線をビショップへとやったまま応える。
「もう少し接近できればな……」
 接近さえすることが出来れば、その後の手段はあるのだ。だが、肝心なその接近自体がままならないのである。我知らず苦い声になった唯斗に、マグナはそうか、と短く頷いた。
「判った。接近できれば良いのだな」
 納得したようなマグナの言葉に、唯斗が首をかしげて何を、と問い質そうとした、その時だ。マグナはその体を、絶影の前へと踊り出させた。
「……っ、おい!」
 流石に慌てて声を上げたコアと唯斗だったが、マグナは構わずエネルギーシールドを全面に展開すると、唯斗に向き直った。
「俺が壁になって接近する」
「私達の後ろについて!」
 マグナと共にリーシャが声を上げる。味方を壁にすることに一瞬の躊躇いがあったが、迷っている時間は無かった。
「すまん!」
 その言葉に甘えて、丁度一列になるように唯斗とコアが後方についたのを確認して、マグナはシールドを掲げて強引にビショップに向かって突進した。
「ぐ……っ」
 防御力に優れているとは言え、距離が近づくに連れて、レーザーのダメージは当然大きくなっていく。苦痛に堪えながらも全推進力でビショップに接近したマグナの、エネルギーシールドで防げる限界が訪れようとしていた、そのときだ。
「今だ……!」
 マグナの声を合図にして、絶影が飛び出した。
 瞬間、接近を探知したビショップのレーザーが牙をむく。だが。
「遅いッ!」
 叫ぶのが早かったか、それを振り下ろすのが早かったのか。近距離で正面に向かって射出された、ビショップの必殺のレーザーは、飛び込みざまに振り払われたアンチビームソードによって断ち切られた。そのまま、その名の通り、影を立つほどの速度で一気に距離を詰める。
「いくぞ、ハーティオンッ」
 そして、声をかけると同時。スモークディスチャージャーによって周囲を煙で覆い尽くした。視界を失い、攻撃目標を見失ったビショップ・ゴーレムは、直ぐにその行動優先順位を切り替えて、キャッスル・ゴーレムの元へと帰還しようとした、が、それは敵わなかった。
 スモークの中から、ぬっと突き出されたグレート・ドラゴハーティオンの手が、がしりとその宝玉を掴んだのである。ドラゴランダーと合体したグレート・ドラゴハーティオンは、待機していた分の鬱憤を晴らすかのように、温存していたエネルギーを、掌に全て集約させて宝玉を握りこむ。唯斗が与えていた分の攻撃の蓄積もあって、びしり、と宝玉に亀裂が生まれていく。
 そして。
「終わりだ……砕けろ、そして眠れ、ビショップ・ゴーレム……!」
 一声。
 まるでそれを合図にするかのように、バギン、と音を立てて宝玉は砕け散ったのだった。






:対ビショップ・ゴーレム 前方・西側





 三体のビショップ・ゴーレムが沈黙していく中、最後に残ったのは、隊列の中央に位置する一体だった。
 どうやらマディ・ゴーレムの統括能力は、一体が欠けても残ったビショップが継続する仕組みになっているようで、最後の一体となった現時点においても、マディ・ゴーレムの数は減少していない様子だ。
「だけど、まるっきり響いていないわけでもないみたいだ」
 小型飛空艇オイレに乗り込み、レーザーの射程外で退避してビショップを観察していたエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)が言った。攻撃を開始した当初と比べて、その動きのキレが鈍くなってきているのだ。本来五体で分割している役割を一体で引き受けているのだから、当然といえば当然だろう。
「なら、何とかするなら今がチャンスってわけだな」
 パートナーのアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が言うのに、エールヴァントは頷く。が。
「それに、あんまもたもたしてると俺のクローディスちゃんが怪我したらいけないしな」
「俺のって、あのね」
 続くアルフの言葉に、エールヴァントは思わずかくんと首を落とした。こんな時でもいつもの調子が変わらないのは、尊敬するところなのかどうか。いやいや。変な方向へ考えのいきかけた頭を振りかぶって引き戻すと、再びビショップへと戻す。
「兎に角、あと一押しのはずだよ」
「ならば、覚悟を決めるしかないでありますね」
 同じく、小型飛空艇に乗り込んで上空を旋回していた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が口を開いた。パートナーの
コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)も、そうですね、と頷く。
「今までの攻撃も、効いていないわけではなさそうだわ」
 その勢力こそ衰えていないものの、それは無傷だからというわけではなく、ゴーレムという存在が、痛覚の無いものであるからこそだ。機械が、たとえ一部が壊れていても、無事な部分だけは通常通り動こうとするのと同じようなものだ。
 そう指摘する言葉に「そうだな」と御宮 裕樹(おみや・ゆうき)が答えた。
「どちらにしろ、あと少しだ。堅実に、確実に行こう」
 その言葉を合図に、トゥマス・ウォルフガング(とぅます・うぉるふがんぐ)がCa−Li−Barnでビショップを狙い撃った。瞬間、ターゲットされるのに、軍用バイクに飛び乗って距離を稼ぐ。その間で、今度は別方向から、裕樹が70口径対戦艦狙撃銃によって長距離狙撃を行ってターゲットを変更、続けて、上空から急降下する吹雪と、背後から接近するエールヴァントが、その小回りを生かして、交互に攻撃を与えて撹乱し、狙撃手二人がカモフラージュを終えると共に退避する。そんなヒットアンドアウェイのルーチンを、彼らは先ほどから何度も繰り返しているのだ。
「しっかし、やっぱり硬ぇなあ」
 トゥマスが愚痴るように言ったが、裕樹は肩を竦めた。
「この軍勢の指揮官だ、そう簡単に壊れてくれるほど、柔じゃないだろうさ」
 そう言いながらも、敵が無くなってまたキャッスルの側へ戻ろうとするや否や、地面に設置した爆弾を爆発させて足止めし、再びルーチンへ戻る。体力が尽きるが先か、気力が尽きるが先か、という消耗戦だったが、彼らにも勝算はあった。
「もう少し、あとちょっと頑張れば到着の筈――……」
 エールヴァントが、自身を鼓舞するように呟いた、その時だ。
「すまない、遅くなった」
 通信機から飛び込んで来たのは、シュトラーフェを駆るクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ。要請を受けてからの出撃であったため、飛ばしても時間がかかってしまったのだ。
「でもま、ヒーローは遅れて来るもんだろ?」
 冗談めかしたのはサブパイロットのエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)だ。
「どれを倒しゃいいか判ってんだから、楽なもんさ」
 に、と不敵に笑うエイミーに、クレアは一瞬肩を竦めたが、直ぐに表情を厳しくすると、眼下のビショップに目標を定めた。
「あれだけ皆が頑張って削っておいてくれたんだ。一撃で決めなければ恥だぞ」
「判ってるって……行くぜ!」
 気合一声、機体の持つ性能全てをフル活用し、高高度から一気に強襲をかける。その高機動性と命中率の高さを最大限に生かした、雷のような一撃は、ビショップがその存在を認識するより前に、至近距離でのスフィーダレーザーによって、既にダメージの蓄積していた宝玉を、一撃で砕いていった。

「美味しいところもってかれちゃったなあ」
 宝玉を砕かれて、ぼろぼろと崩れ落ちていくビショップを見やるアルフがぼやくように言うのに、エールヴァントが小さく笑う。つられるようにしてコクピットで微かにクレアも笑ったが、直ぐ「まだ終わってはいない」と凛と皆へ声をかけた。
「まだマディ・ゴーレムもいる。美味しいところは残っているぞ」
 冗談めかしたクレアに、一同は笑いながら敬礼で応えた。



「ビショップ制圧完了。残るマディ・ゴーレムを殲滅する」