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6つの鍵と性転換

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6つの鍵と性転換

リアクション

「被害者を放って何してるんですか、リズィさん」
 と、目賀トレルは冷ややかな視線を向ける。
「いやぁ、だって仕方ないだろう? みんな、それぞれに楽しんでいるようだし」
「まったく、あなたはとんだトラブルメーカーですね」
 元に戻る方法を早く探さなければ、とトレルは思いながらも、リズィの手にした6つの鍵へ手を出すような事はしない。
「どうしたの、何か困ったことでも?」
 と、声をかけてきたのはクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)だ。
「ああ、この機械の謎を解いてもらいたくてね。挑戦してみるかい?」
 と、先ほどトレルに呆れられたことを忘れてリズィは性転換機を差し出す。
「穴がたくさん開いてるけど……この中心にあるのは?」
 と、クリストファーを押しのけるようにしてクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が顔を出してくる。
「押してみれば分かるよ」
 無責任なことを言うリズィをトレルは睨んだが、クリスティーはぽちっとそれを押してしまった。
 そしてクリスティーはふりふりのワンピース姿に変わった。身長も少し伸びて、今のトレルよりやや小さいくらいだ。
「……な、何これ?」
「性転換機だよ。おもしろいだろう?」
 クリスティーは呆然とした。
 なるほどと納得したクリストファーはパートナーへ顔を近づけると、こっそり耳打ちをする。
「ねぇ、この状態ってまずいんじゃない? 男の娘だってばれるということは、今までは男装してた女の子だったとばれるってことじゃないかな?」
「……っ、そ、それは」
「ちゃんと『今まで男の身体だったのに、女の子になって戸惑ってる』という振りをしないとね」
 どこか愉快そうに言うクリストファーを、クリスティーはむっとして睨みつける。
「分かってるよ、それくらい」
 その様子を見てクリストファーは何を思ったか、トレルへ声をかけた。
「ねぇ、キミは女から男になったんだろ? 二人で逆転デートでもしてきたらどうだい?」
「ちょっとクリストファー! 何勝手に決めてるんだよっ」
「いいじゃない。その間に俺が謎解きをしておくからさ」
 と、クリストファーはクリスティーの背を押す。
「まぁ、悪くないでしょう。あぁ、いや……悪くはないな」
 と、トレルは口調を男性口調に変えてにやりとした。
「俺の友達に応援頼んだから、携帯電話は置いていくな。何かヒントがもらえるかもしれないし」
「それはありがたいね。じゃあ、二人ともいってらっしゃーい」
 と、クリストファー。
 クリスティーはしぶしぶトレルの隣へ並び、歩き出した。
「ちゃんと女の子らしくするんだよー」
 背後でかすかに聞こえたパートナーの声に少々呆れながら。

「鍵はこの6つ。すべてを同時にさす事は出来ないし、一つずつさしても変化はないよ」
「じゃあ、やっぱり何らかの規則性があるということか」
 クリストファーが腕組みをして考え込むと、トレルの携帯電話が着信を告げた。メールだ。
 ぽちぽちと操作をしてメールを開くと、ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)からだった。
『画像を見た限りでは、矢印と円で男性の記号になるのまでは分かった』
 諸事情によりヒラニプラへ来れない彼の推理に、クリストファーとリズィはうなずいた。
「まぁ、間違えてはいないだろうね」
「では、さっそくさしてみようか」
 と、二つの鍵を手にするリズィ。
 すると、そこへ広瀬ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)ニアリー・ライプニッツ(にありー・らいぷにっつ)が現れた。
「困ったことになっているのはこちらですか?」
「聞いた話では機械を使って性転換してしまうとか。楽しんでいる方々が多いのは事実ですが、いずれ戻れない事で大騒ぎになるのは確実でしょう」
 と、二人は機械を覗き込んだ。
「さっさと機械の謎を解かせてもらいましょう」
 やる気満々の二人を見てリズィは期待した。彼女たちなら謎を解いてくれるかもしれない。
 クリストファーは二人の謎解きを見ていようと横へずれた。
「うーん、記号がいっぱいなのですぅ」
「ここは単純に考えて、男と女の記号を作るのは必須でしょう。が、別々の記号を作ると解釈してドーナツ型にするべきか、記号をつなげる形にする丸型を選ぶか……それだけも迷いますね」
「イメージからすると、ハートってドキドキするとか大好きですっ、とかで恋に関係したりするです? 星だと流れ星でお願いのイメージとかです?」
 と、ファイリアはドーナツ型に視線を向ける。
「ドーナツは……おやつ、じゃないですよね? あとは……あ、天使さんとかどうでしょうです?」
「ファイリア様の発想の展開、いろいろな意味で見事ですが関係はなさそうですね」
 ニアリーに呆れた視線を向けられ、ファイリアはわたわたと謝った。
「ご、ごめんなさいなのです……」
「ですが、ハートのドキドキ、恋とは別に心臓として命のイメージでも用いられることがありますね」
 と、ニアリーはリズィの手にした鍵から4つを選び出し、取り上げた。
「物は試しです。ファイリア様、やってみましょう」
「はいなのですっ」
 ハート型、矢印型、丸型、十字型の鍵を同時に差し込む。
 かちゃりと音はしたものの、変化はなかった。リズィはいまだ男性の姿のままだ。
「……違った、ですか?」
「ええ、どうやらそのようですね。残念です」

「男の身体って不思議だなぁ。股間に違和感はあるけど、動きやすくて楽だ」
 当てもなく道を歩きながらトレルは言った。
「逆に、女の身体になった気分はどう?」
「え、えーと……やっぱり、胸があるのって変な感じだよ」
 と、クリスティーは返すがぎこちなかった。
「……なぁ、ちょっとだけ触らせてもらってもいい?」
「え? だ、ダメだよっ」
 とっさにクリスティーは両胸を隠したが、実際は何もないためおかしな感じだ。
「そっかー。まぁ、触るんだったら巨乳の方がいいしな」
 そう言ってトレルはおかしそうに笑う。
 クリスティーはむっとしながらも、精神的にはすでに疲れきっていた。
「あ、せっかくだしカフェにでも入ろうか? お茶くらいならおごるけど」
「え、そんなことしてくれなくても……」
「気にするなって。楽しもうぜ? クリスティーちゃん」