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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

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第三章 兄妹再会


「……暗いし、何か恐ろしげな悲鳴が聞こえるし、三郎さん戻って来ないし」
 不安そうに突っ立っている血濡れメイドの東雲。呼んだら戻って来ると言われ、何度か呼ぶも戻って来ない三郎景虎。一緒に来たリキュカリアもンガイも様子を見に来る様子は無い。二階の廊下に独りぽつんと和深の悲鳴とベルの歌声を聞いていた。

「うわっ」
 突然、背中を押され、思わず転びそうになってしまう。
「……だ、誰もいない」
 何とか踏ん張った東雲は、きょろきょろと周囲を見回すも誰もいない。聞こえるのはずっと後ろから響く悲鳴だけ。
「くふふ」
 突然、東雲の耳元に笑い声が。
「わ、笑い声……って誰もいないよ。ということは、ということは……」
 辺りを見回しても誰もいない。途端、さーっと真っ青になってしまう東雲。
「うわぁぁぁぁあぁ」
 東雲は思わず叫び声を上げ、無我夢中で走り出した。
「走って行ったよ」
 『光学迷彩』で周囲に溶け込んでいたニコは姿を現して逃げて行く東雲を見送った。
 東雲の背中を押したのは子供の幽霊で耳元にささやいたのはニコだった。『オカルト』を持つニコの笑い声は、しっかりと東雲の心に響いていた。お客だけはなくスタッフも怖がらせたいと思っての事だった。
 子供の幽霊はまたどこかに遊びに行った。ニコも再び『光学迷彩』で姿を溶け込ませ見学を始めた。

「うわぁぁあぁぁ」
 叫びつつ走り、どこをどう行っているのか分からない東雲はいつの間にか一階まで来ててドンと勢いよく誰かにぶつかった。

「……ご、ごめん」
 東雲はここでようやく立ち止まり、ぶつかった人に謝るため顔を上げた。
「……私は大丈夫です」
 東雲がぶつかった相手はエッツェルだった。しかも勢いがよすぎたのかフードが取れていた。
 それによって8割型異形化し、ワームの様なモノや触手の様なモノが生えているおぞましい姿が東雲の目の前に。
 暗がりの上、動転していた東雲は同じ驚かし役と気付くよりも先に叫び声が口から洩れた。
「うぎゃぁぁぁぁあぁ」
 東雲はそのまま走って食堂に入って行った。

 一階、食堂。

「シンくん、あのお客さん写真を手に入れたよ」
 イリアが客に背を向けて黙々と料理をしているシンに報告。たまにしか来ない探索者が来たようだ。
「……よし、行って来る。後は仕上げだけだ」
 出刃包丁を手にゆっくりと移動。地獄のコック出撃。
「うん、任せて!」
 イリアは元気良く見送り、シンの料理の仕上げを始めた。

「お客さん、その写真のお代に命を貰うぜ」
 シンはゆらりと写真を手に入れた男性客の背後に立つ。
 男性客はびくっとし背後を振り返るなり走り出した。
「お代がまだだぜ」
 埃が舞わないように速足で追いかけ、男性客はあっという間に食堂をから追い出してしまう。

「……こ、こんなものか。大した事……」

 息を吐き、厨房へ戻ろうと背を向けた時、

「うぎゃぁぁぁ」
 叫びながら東雲が飛び込んで来た。
「ん?」
 思わず振り向くシン。
 ここで青ざめた血濡れのメイドと出刃包丁を持った地獄のコックが出会う。

 そして、

「な、何だーーー」
「うわぁぁぁ」

 そのまま二人は互いの姿を見て気絶してしまった。

「東雲」
 東雲の叫び声を耳にして一階を彷徨っていた三郎景虎が駆けつけた。
「大丈夫? 奥に休める場所があるからそこで休んだらいいよ」
 ユルナが急いでやって来た。
「ではそこに連れて行こう」
「わしも手伝おうかのぅ」
 ユルナの案内で三郎景虎とルファンが協力し、気絶した二人を救護室へと連れて行った。

 しばらくしてルファンがユルナと共に戻って来た。三郎景虎は二人が目覚めるまで番をするためまだ救護室に残っていた。

「どうしよう、シンくんが目を覚ますまでイリア一人だよ」
 料理人は一人減り、イリアは困ってしまった。
「わしも手伝おう」
 ルファンが手伝いに加わる事にした。
「ありがとう、ダーリン」
 イリアは嬉しくなり困った顔はあっという間に喜びになった。
「沙夢も料理出来るよ!」
 ここで弥狐が困るスタッフ達に首を突っ込んだ。
「……弥狐。手伝うわ」
 ゆっくりと珈琲を味わっていた沙夢は弥狐にため息をついてから椅子から立ち上がり協力する事にした。事件には首を突っ込まないと決めていたが、仕方が無い。
「ありがとう」
 イリアは沙夢に礼を言った。
 沙夢の料理は野菜を主にしたヘルシーな物だった。『調理』を持つため味は絶品だった。アレンジしすぎて元が何なのか分からなくなるという特徴はこのホラーハウスではとても役に立っていた。
 何とか三人で喫茶店を切り盛りした。
 少しして復活したシンが戻って来た。
「悪かったな。もう、オレは大丈夫だ。代わるぜ」
 自分がいない間、頑張ってくれた三人に礼を言った。立て続けに怖い思いをしたためか東雲はまだ気絶していた。

「では、美味しい料理をお願いするかのぅ」
「目が覚めて良かったわ」
 ルファンと沙夢はシンと代わり、席に戻って行った。

 この頃、スーツ姿の一人の青年が訪れていた。

「……全く何をしているんだ」
 訪れたのはヤエトだった。
 彼は、宝物捜索者達からの発見したという報告が来ず、痺れを切らして乗り込んで来た。本当にそれだけなのか疑問だが。
 苛々とした面持ちでハウス内に入って行った。

 ハウス内に入るなり
「ようこそ」
「よく来たアル」
 レキとチムチムがヤエトに声をかけた。

 ハウス内を歩き回っていた誘導員の木枯と稲穂は出入り口にいるヤエトを発見した。
「木枯さん、あれヤエトさんですよ。木枯さんの言った通りです」
「だねぇ」
 二人は素早くヤエトに近付いた。
「ヤエトさん!!」
「来たんだねぇ」
 稲穂と木枯はヤエトに声をかけた。
「君達は!?」
 いきなり声をかけられたヤエトは驚いた。
「宝物はまだだよ〜」
 木枯が宝物の報告をした。
「まだって本当か?」
 苛々した顔を二人に向ける。長く待たされた上にまだ見つかっていないとは苛立っても仕方が無い。

「ユルナっちの兄貴のヤっちんか」
 そこに裕輝が口を挟んだ。
「ヤっちん?」
 妙な呼び名に一瞬、眉をひそめるヤエト。
「よく来たな。宝物を探しに来たんやろ。宝物はほんまにあるよ。最高の宝やそうや。みんな血眼で探してるで。どや、怖いのは好きか?」
 まだ本当にあるかどうか不明だというのに確信を込めて言い放つ裕輝。来る客みんなに嘘と本当を混ぜて口達者に宣伝しているのだ。
「……血眼アルね」
 チムチムは聞こえて来る叫び声を耳にしながら呟いた。
「……」
 裕輝の言葉に飲まれ、黙ってしまうヤエト。
「あの、宝物についていろいろと推測してはいるんですけど」
 稲穂は遅くなった返事をし、ちらりと木枯を見た。
「とりあえず、喫茶店でゆっくり話をしようよ」
 稲穂から合図を受けた木枯はヤエトの右腕をがっしりと掴み、ユルナがいる喫茶店への案内を始めた。稲穂も逃げられないようにヤエトの左腕を掴んだ。
「……あぁ」
 逃げられなくなったヤエトはそのままついて行くことにした。
 妹がいるとも知らずに。
「頑張れや」
 裕輝は適当に見送った。
「……どうなるんだろう」
「きっと大丈夫アルよ。兄妹仲良くアル」
 心配そうに見送るレキにチムチムは心配無いと言った。
 三人はこのまま仕事を続けた。
 ちょうど、シンが気絶から復活した頃だった。

 一階、食堂。

「ユルナ!?」
 喫茶店に入った途端、ヤエトは大声を上げた。
「兄さん!?」
 ユルナも驚き、椅子から立ち上がっていた。
「……」
 ヤエトは左右にいる木枯と稲穂の顔を見た。完全に謀られたと。
「ユルナさんもいたんだねぇ」
「知らなかったですよ」
 木枯と稲穂は自分達を睨むヤエトにそ知らぬ顔で答えた。

 そしていつものように兄妹喧嘩が始まる。
 周囲は呆れたように二人の様子を見ていた。

「何でここに来たんだよ。あー、とうとう会社が潰れて暇になったんだ」
「お前じゃあるまいに。馬鹿な格好をしたアホの子をからかいに来ただけだ」
「かちかちの岩石頭に言われたくないよ。だから社員とか人がついて来ないんだよ。アタシなんかみんなのおかげで立て直ってるんだよ。そっちはまだお父さんと張り合ってどん底なんだよねー」
「立て直っているのはお前の力じゃないだろう。馬鹿なお前には経営力は無い」
「むぅ」
「ここはお前にお似合いだな」
「さっさと帰れ!!」
 とうとうユルナは怒りの頂点に達し、大声で怒鳴った。
「帰るさ。これ以上、目に悪いものを見ていたら吐き気がするからな」
 ヤエトはユルナに背を向け、喫茶店の出入り口に向かって歩き始めた。
「こっちもだよ」
 ユルナも背を向け、当然止めたりしない。

 見守っていた周囲の者達が慌てて兄妹の間に入り込んだ。
 せっかく兄妹が会ったのにこのまま別れてしまっては困る。

「少し落ち着くんじゃ」
「ヤエトさん、少し待って下さい」
「そうだよ〜」

 ルファンがユルナを稲穂と木枯がヤエトを落ち着かせようとする。

 しかし、

「アタシは落ち着いてるよ。誰かさんと違って感受性があるからね」
「……頭と格好がお祭り騒ぎのお前が落ち着いてるだって? 笑えるな」
 両者一歩も歩み寄りを見せない。

「兄妹揃ったのだから一緒に宝物を探しに行ってみてはいかがかな? 一人では見えぬものも、二人では、存外簡単に見つかるかも知れぬぞ?」
 宝探しをきっかけに兄弟仲を取り持とうとするルファン。
「そうですよ。ハウスのスタッフも社員も知らなかったという事はお二人に対してしか意味を持たないものかもしれません」
「仲良く探しに行こうよ」
 舞花とノーンがルファンの言葉に乗っかって何とか兄妹を宝探しに行かそうとする。

「何でこいつと」
「アタシも嫌だよ」

 案の定嫌がるヤエトとユルナ。