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ジャウ家の秘宝

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第2章 秘宝を求め、庭の奥

 ジャウ家の庭園の奥の奥。
 そこは落ち着いた表の様子とはがらりと姿を変え、怪しげな植物たちがうっそうと茂っている。
 まるで、当主の心の奥を映すかのように。
 そして今日も噂を聞きつけた者たちが、秘宝を探しに奥底へと踏み入っていく。

 佐倉 留美(さくら・るみ)は、佇んでいた。
 いや、動けないでいた。
 毒々しい色をした花から拭き出された花粉のせいだろうか。
 それを吸い込んでから、頭がぼうっとして、考えがまとまらない。
 それでも、今、自分が危機にいるのは分かる。
 それなのに、動くことができない。
 目の前で繰り広げられる光景から、目を離すことができない――

「うぉおおお、この植物野郎めっ!」
「やれるモンならやってみやがれ!」
「いい加減にしないと、そろそろ堪忍袋の緒が切れますぜ?」
 3人のガチムチが、襲われていた。
 相手は、植物。
 お宝探しに庭に踏み入ったラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)ガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)の3人に、庭園の蔦が容赦なく襲い掛かった。
「植物ごときに負ける俺じゃねぇぜ!」
 腕に足に絡みつく蔦を、ぶちぶちと引きちぎるラルク。
「あぁ。こいつらを片付けるくらい、朝飯前さね」
 『闘神の書』の大剣の一振りに、向かってくる蔦が払い落とされる。
「あんまり油断しなさんな。口を押えろ!」
 ガイの言葉に、用意してきた布を口に当てる二人。
 血のような赤い花から黄色い花粉が噴出され、3人に降りかかる。
「へっ。この調子なら秘宝ってのも簡単に手に入りそうだな……ん?」
 ラルクの顔色が変わる。
 おかしい。
 身体が熱い。
 花粉は防いだ筈なのに――
 最も熱くなった右腕を見て、彼は理解した。
「ちっ――そういう事か」
 花粉が降りかかった右腕が、真っ赤に腫れ上がっていた。
「どうした?」
「……この花粉は、皮膚に直接悪さしやがる仕様らしい」
 疼く右腕を掻きむしる。
 掻いても掻いても疼きは収まらない。
 むしろ、悪化するばかり……
 そこに、蔦が伸びる。
 まるでマーキングされたかのように、花粉がついた場所へと攻め入る。
「くっ……」
 蔦の触れられた部分に、ぞわりと、快楽が走る。
「耐えろ……俺には、アイツがいるんだ……っ」
 ぎゅっと目を閉じる。
 すると聞こえてくる、仲間たちの声。
「うぉ……つ、蔦如きで……ぐぅっ」
「く……はっ、そこは……っ」
 目を開けると、蔦に絡まれ喘ぐ仲間たち。
 首元から、袖口から、シャツの隙から、中へ中へと侵入してくる蔦。
 それを拒む気力さえ失われ……

「あ、あぁ……」
 留美の唇から、息ともつかない声が漏れる。
 どこか、甘い色を添えて。
 3人の屈強な男性が、為す術もなく襲われている。
(わ、わたくしも……)
 この場を離れなければいけないのは、分かっている。
 しかし、動けない。
 動きたく、ない……
 花粉は、留美にも作用していた。
 肌から、そして口から直接吸い込んでしまった彼女は、既に植物の支配下にあった。
 するりと足に巻きついてくる蔦を、拒むことができない。
 するすると、まるで意志を持っているかのようにゆっくりと、大量の蔦が留美の体に近づいてくる。
 それが、早く自分に触れることを。
 蹂躙することを。
 心待ちにする気持ちを、留美はもう押しとどめることができない。
「あっ」
 蔦が、届いた。
「あぁあっ、ふぁあああぁっ!」
 留美の嬌声が、響き渡った。

   ◇ ◇ ◇

「おー、七日、なのかぁー」
(あ、皐月、さ、つ、き……)
「う、ぁ、う……」
 自分を探す、日比谷 皐月(ひびや・さつき)の声に、雨宮 七日(あめみや・なのか)は目を開ける。
 しかし、声が出ない。
 口の中は、既に蔦でいっぱいだったから。
 秘宝を見つけて、それを壊そう。
 そう皐月が提案しても、七日は驚かなかった。
 どんな物であれ、それが諍いの原因になっているのであれば、存在していい理由にはならない。
 そんな皐月の想いを、誰よりもよく理解していたからだ。
 それでも、素直にその気持ちを告げることは無い。
 崇高な理想を掲げていても、入手できなければただの愚者です。
 毒舌を吐きながら、それでも皐月について庭の奥に向かった。
 そこで、花粉を吸った。
 それからは後は、あっとゆう間だった。
 次々と伸びてくる蔦に絡みつかれ、体の自由は封じられた。
 精神に作用する花粉に、心の自由も奪われて、次第に自分に纏わりつく蔦を心地よく、愛おしく感じ始める自分がいる。
 それでも。
 最後に残された砦。
 皐月への想いだけは、消えない。
「七日ー」
 どこか間延びした口調で、自分を探す皐月の声。
 すぐ、近くにいる。
 近くにいるのに……
 にゅるり。
 一際太い蔦が、七日に近づいてくる。
 それが何を狙っているのか、七日にはすぐ分かった。
「あぁ……だ、だめ……」
 はじめては、皐月に。
 おんなのこの、はじめては、皐月だけに。
 それくらいなら、後ろで……
 その七日の気持ちに応じたのか、あるいはタシガンにある植物だからなのか。
 蔦は、七日の後ろの方に――