天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

シャンバラ大荒野にほえろ!

リアクション公開中!

シャンバラ大荒野にほえろ!

リアクション

 

第三章 

1 シャンバラ大荒野


「待てーい!」

 突然、鋭い声が飛んだ。
 そう言われて待つ道理はないのだが、その自信に満ちた声に釣られるように、木枯も、のるるも、銃を持った男たちも、隠れ身で潜んでいる稲穂も、全員が一斉に動きを止めて、声の方を見た。
 崖の上に、颯爽と輝くコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)のメタリックな勇姿があった。
 ……あの崖、あったかな?
 微かに木枯の脳裏を疑問が翳めた。
 が、深くは考えないことにした。
「無事か、ノルル!」
 一同の視線を浴びたハーティオンが、よく通る声で言った。
「私は蒼空学園のハーティオン! 君と富田林刑事の救援に、仲間達と共にやってきた!」
「同じく、忍者超人忍者超人 オクトパスマン(にんじゃちょうじん・おくとぱすまん)!」
 傍らの筋骨隆々の大男が、やけにリアルなタコマスクを振るわせて叫んだ。
「別に目的はないが、暴れるためにやってきた!」
「同じく、シャンバラ教導団のセレンフィリティ・シャーレット!」
 上空から、澄んだ声とともに、反対側の岩の上にセレンが舞い降りた。
「てめぇら悪漢一味から、主にのるるちゃんを救いにやってきたわ!」
「……どこが「同じく」なのよ」
 上空の飛空挺で、飛び降りていったセレンを見下ろしてセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がそっとつぶやいた。
 セレンは相棒のツッコミなど気にも留めず、ざっ、と一歩前に踏み出してリーダーの方に向かって叫ぶ。
「さあ、その汚い手を彼女から放しな! それとも女の子を人質にしないと、怖くてケンカもできないかしら? このチキン野郎!」
 そして片手を突き出すと、大変に品のない手つきをして、ニヤリと笑った。
「なんだと……っ」
 のるるの髪を掴んでいたリーダーが、思わずその手を放して銃を構え直す。
 ハーティオン、オクトパスマン、セレン、そして敵の背後に身を潜めた稲穂が、一斉にほくそ笑んだ。
「とう!」
「とう!」
「ケケケ!」
「なんだかわからないけどチャンスっ!」
「……いやあマジで、意味がわからんわ」
 口々に叫んで敵に飛びかかっていく姿を目の端で見ながら、木枯はのるるに駆け寄って助け起こした。
「走れるか?」
 のるるはうなずいた。

 決着はあっという間だった。
 マンガのように折り重なって拘束されている「悪漢一味」の前で、オクトパスマンは「手応えがない」と不満そうだったが、セレンとハーティオンは再び岩の上に立ち、満足そうに拳を打ち合わせていた。
「ありがとうございました。で……あ、あの……」
 木枯に助けられて歩み寄って来たのるるが、セレンを見上げて、
「なんで、水着……」
 ……明らかに場違いなことを聞いた。
「ふ」
 セレンの長いツインテールが風になびく。彼女は艶然と笑んだ。
「水着は女の勝負服よ、のるるちゃん」
「……と、思ってるのはセレンだけよ」
 飛空挺の中で、セレアナがそっと突っ込む。
「そして……蒼空戦士の勝負服は、この白く輝くメタルボディっ!」
 びしっ!
 と、舞い飛ぶ砂塵を背景にポーズを決めたハーティオンに視線を移し、のるるは真面目な顔でつぶやいた。
「服、なんですか……?」
「いやいや、そこは言葉の綾だから」
 ハーティオンが慌てて訂正を入れる。
「しかし、すごいな、砂塵まで持参かあ」
「……で、でもちょっと……これは……」
 風の中に立つ二人を眩しそうに見ている木枯の腕にしがみついて、稲穂が困惑したようにつぶやいた。
「いくらなんでも……風が強すぎませんか」
「んー……そうだなあ、画面効果は、もう少し控えめに……わっ」
 雷の音が響いた。
 のるるもお下げ髪を両手で押さえて、小さく悲鳴を上げる。
「いや、いくらあいつでも、リアルに嵐は呼べないぞ。どーなってんだ、こりや」
 オクトパスマンが声を上げた時には、彼らを取り巻く風は急速に強さを増し、突風と言っていい状態になっていた。
 セレンが真顔に戻って岩から飛び降り、のるるに駆け寄る。ハーティオンもすぐに倣ったが、風を受ける的が大きいせいか、動き難そうに軽くよろめいた。
「……セレン、セレン!」
 上空のセレアナから、悲鳴にも似たテレパシーがセレンに届いた。
「セレン、後ろ、後ろーーっ」
「え?」
 のるるを支えながら、振り返る。のるるも釣られて振り返り、目を丸くした。
「……あれ、トンさん?」
 吹きすさぶ風を背景に、特徴的なよれよれのコートをなびかせてこちらに走って来るのは、確かに富田林刑事だ。
 何か、もの凄い形相で叫んでいたが、激しさを増した風の音でよく聞こえない。
 その傍らを、頼りな気なワイシャツ姿の男がよろよろと並走している。
「ん?」
 セレンが意味を掴みかねて眉を顰める。そして、視線を上げて、それに気づいた。
 重く垂れ込める黒い雲と褐色の地面を繋ぐ、巨大な柱。
「……竜巻……」
「……うっそー」
 ハーティオンが酷く平坦な声で言って凍りついた。
「凍ってる場合じゃねえ! 走れ!」
 オクトパスマンが叫んで走り出す。セレンは上空で風にあおられるセレアナの飛空挺を振り返って叫んだ。
「セレアナ、巻き込まれるわ、離脱して!」
 この状況で離脱するのは不本意だったが、竜巻の突風の中で飛行を続けるのは危険すぎた。コントロールを失えば、飛空挺自体が地上にいるセレンたちに対して危険な凶器になってしまう可能性もある。
 セレアナ断腸の思いで決断した。
「く……了解。後はまかせたわよ、セレン」
「オッケー! のるるちゃん、早くっ」
「で、でもトンさんが……」
「走れ、バカものーーーー」
 風に乗って、富田林の怒号が届いた。
 全員、富田林から逃げるように一斉に走り出した。