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リアクション
「ねぇ、お嬢ちゃんはなんていう名前なの?」
ころりと転がり落ちたスプーンを拾おうとアニスがしゃがむと、親衛隊が声をかけてきた。
「とっても小さくて可愛いねぇ。年はいくつなの?」
知らない人に突然話しかけられるという状況に固まってしまったアニスはせっかく拾ったスプーンを再びぽとりと落としてしまった。
落ちたよ、と拾って差し出されたスプーンを見てついに臨界点に達してしまった。
「にゃあああああああああああああ!!!」
轟音とともに親衛隊に向かって雷が落ちる。
プスプスという音とともに親衛隊は倒れた。
「落ち着けアニス! 大丈夫だから!」
和輝がアニスをなだめ落ち着かせた頃には、親衛隊の何名かがこんがりと砂浜に転がっていた。
氷でしっかりとガードしていた雪女郎。彼女の方にも雷が落ちたようだが、暑い氷で彼女まで届くことはなかった。
氷をどけて出てきた彼女はとても不機嫌そうだ。
それもそのはず。雷のおかげでせっかくのデザートはめちゃくちゃ。飛び散ったお茶やフルーツソースが雪女郎の顔や服を汚していた。
「ゆ、雪女郎ちゃん、落ち着いて!」
「そうだよ! さ、さぁこんなやつらほっといてべたべたになっちゃう前にシャワー浴びに行こう」
急に慌て始める親衛隊の連中。
雲行きが怪しくなってきたようで、雪女郎はわなわなと肩を震わせて拳を握っていた。
本能的にもヤバいと察した和輝が謝るが、アニスは泣きじゃくったままだし、雪女郎もぷるぷると震えて黙ったままだ。
「たっ、隊長を呼んで来い!」
親衛隊の誰かがそう叫んで何人かが走り出していった。
それとすれ違いざまにやってきたのはユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)。
メイド服を着ているがれっきとした男子で、自称『ぼーいずめいど』だ。
雪女郎が浜辺を占拠していると聞いてお世話をしながら何とか説得しようとやってきたのだが、冷たいジュースを買ったところまではよかったのだが、気付けば雪女郎は反対側の岩場までいってしまっていた。
急いで追いかけようと頑張るが、何せメイド服。ブーツを履いているので砂に足を取られて歩きにくい。しかもジュースは銀のトレイに乗せてあり、滑り止めなんてあるわけないのでグラスがトレイの上でつるつると滑る。
すでに一度零してしまったのでリスタートとなったが、やっとのことで雪女郎の元へと追いついたのだった。
しかし着いた頃にはユーリはぐったりしており、しかもすれ違いざまに走り出した親衛隊とぶつかってしまった。
傾くトレイ。
滑るグラス。
なんとか落とさないように、零さないようにと、慌ててバランスをとろうと前に走り出したのだが。
突然足に絡みつく衝撃。
驚いてトレイごと宙に投げ出されるグラス。
傾いて斜め前方へと勢いよくグラスから飛び出していく液体。
自分の顔が太陽に焼かれた砂に埋もれるまで、その全てがまるでスローモーションで見ているような錯覚をユーリは覚えた。
――ぽたり。
あと一歩というところでパートナーのメアリア・ユリン(めありあ・ゆりん)の足につまづき、あろうことか雪女郎へとグラスの中身をぶちまけたのだ。
「雪女郎さん、こ、これはわざとじゃない! わざとじゃないから!!」
聞く耳持たずといった雰囲気で雪女郎はそっと右手をユーリの方へと向ける。
「や、あの、ちょっと待って下さい! 悪気とか全くなかったし! いや、あのホントわざとじゃないから」
ひゅうっと冷たい風が流れたかと思うと、ユーリの身体を包み込んでいく。
「ちょ、本当にごめんなさい! お願いだから氷漬けだけは……氷漬けだけはあぁぁぁ!!!」
必死に訴えるもののユーリの言葉は届かず、あっという間にユーリの氷像の出来上がりだ。
ふんっと頬を膨らませて親衛隊から渡されたタオルで顔を拭く雪女郎。
ユーリに駆け寄り、がくりとひざをつくメアリア。
そんな様子を目の当たりにしたパートナーを気の毒そうに見る親衛隊や和輝たち。
しかし。
「さっすがユーリちゃん! お約束の美味しいところはいただきですぅ! 石化したユーリちゃんもいいけど凍ったユーリちゃんもなかなかいけるですぅ〜。あ、ユーリちゃんの勇姿はいつも通りデジカメに収めておきますぅ! ちゃあんとあとでユーリちゃんの恋人にも見せてあげるですぅ〜!」
目をらんらんと輝かせて氷像の周囲を回りながらデジカメで様々な角度からカメラに収めていく様に、皆あっけに取られていた。
(うぅ……母様、見てないで助けて欲しかったよぅ)
氷像にされ意識が途切れる最後の瞬間までメアリアが動かなかったことにユーリは半泣きだった。そんな状態で凍らされたものだからそれはもう困りきった表情で固まっていた。
「この眉毛のハの字具合、素晴らしいですよぅユーリちゃん!」
メアリアのご機嫌具合とは対照的に氷像を挟んで向こう側にいる雪女郎の機嫌はすこぶる悪かった。
「ゆ、雪女郎ちゃん、気分転換にビーチバレーでも見に行こうよ!」
「それとも海の家になんか食べに行こうか?」
濡れた頭をタオルでごしごしと拭いている雪女郎を必死になだめようとしているが、雪女郎はぷいと顔を背けて岩の影に隠れてしまった。
「それなら、俺たちとビーチバレーで勝負しないか?」
そんな時岩場の上、太陽を背負ったその男が声をかけてきた。
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