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なし

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デート、デート、デート。

リアクション公開中!

デート、デート、デート。
デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。

リアクション


●夏の夜空に咲くモノは

 口には出さないがオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)は不満が溜まっているのだ。
 それは日中、八神 誠一(やがみ・せいいち)と遊べなかったから。せっかく二人で『スプラッシュヘブン』に来たというのに、誠一は水着も着ず着流しのような姿で、腕組みして、
「僕はいいからリアは泳いでおいでよ」
 と言うばかりだった。それでプールサイドに座って、せいぜいトロピカルドリンクを楽しむだけだったのだ。要するに泳がないということだ。
 ――せ〜ちゃんと一緒でないと泳いだって楽しくないのだよ。
 何度そう言おうと思ったことか。けれどたとえ冗談まじりでも、誠一にはそんな言葉を告げられない雰囲気があった。それを口にすれば、たちまち壊れてしまいそうな脆さが。
 だからオフィーリアは我慢して、一人でウォータースライダーを滑って一人で飛び込み台からダイブした。一人でカップル用プール……はさすがに虚しすぎるのでやめたけれど。
 けれどそんな状態でも、誠一がそこそこ楽しそうなのが救いではあった。
 夜になると、誠一はもう少しリラックスするようになった。
「そろそろ花火だねぇ」
 これはリアと一緒に楽しんでくれるつもりのようだ。そんな矢先、
「相変わらず熱いですねぇ」
 正面から歩いてくるカップルに、挨拶がわりに誠一は声をかけたのである。口元には、いわくありげなニヤニヤ笑いがあった。
「え? ああ……二年前に行ったこの場所……あー、スプラッシュマウンテン、だっけ? で花火大会があるらしいと聞いて」
 泡食った口調のまま匿名 某(とくな・なにがし)が言うと、素早く結崎 綾耶(ゆうざき・あや)がツッコミを入れた。
「某さん、『スプラッシュヘブ』ですよ、『ヘブン』」
「そうだった。……で、八神、判ってるぞ、その笑みの意味は。そうだよ、デートだよ。綾耶と思い出作りに来たんだ。どうだ!」
 誰よりびっくりしたのは綾耶だった。
「某さん、いいんですかそんな堂々と……?」
「いいに決まってる。今の俺は、長い苦しみから解放された綾耶に少しでも良い思い出を作ってあげたいと思ってるんだ」
 やはり照れがあるのか言葉に力が入りすぎだが、それでも某の手は、しっかりと綾耶の手を握っていた。まるで見せびらかすように、ちゃんとその手を上げて誠一に示す。
 それを聞いてますます、ニヤニヤしてしまう本日の誠一だ。
「おや? 熱いとはいったけれど、僕は日頃の気温のことを言っただけですよ? 自分たちがお熱いラブラブカップルだって自覚してるんでしたら、それはそれで構いませんがねぇ」
「一本取られた……と言いたいがいいんだよそれで。もう、『いや付き合ってるわけじゃない』なんて誤魔化すのは、自分に対しても綾耶に対しても無責任だと思ったんでな」
 某は綾耶の肩を抱き寄せた。
 彼が人前でここまでやるのは初めてだが……綾耶は悪い気はしなかった。
 そこに、
「え、なにお前らも来てたわけ?」
 ひょいと片手を上げて現れたのは、日比谷 皐月(ひびや・さつき)だった。その腕にしっかりと自分の両腕を巻き付けて、はち切れそうな青い色のビキニを着た美女が共に来る。彼女の水着の布面積は極小、なんだか切れ込みも不敵なほどに急角度だ。このような大胆水着の彼女が、雨宮 七日(あめみや・なのか)だというのは二度びっくりだ。彼女は断じて、そういうキャラではなかったように誠一も某も記憶している。あと。そもそもこんなにグラマーだっただろうか……?
「おッ……久しぶりですお二方! お元気でしたでしょーかッ!?」
 しかも七日がそう言って、しゃきっと敬礼したのでこれが三度目の驚天動地である。口調がこれまでと全然違うのだ。
 まるで別人、きゃぴきゃぴなんていう形容詞が似合いそうなステップで、七日は綾耶とオフィーリアの手を取った。
「不肖この雨宮! お二人と御友人であらせられる事を嬉しく存じますですッ! これからも何卒よろしくお願いしますですよッ!」
 これがきっかけでなんとなく、男性陣と女性陣がグループとして別れたような状態になる。
「そんなカッコして、誰を誘惑するつもりなのかな〜?」
 多少面くらいつつオフィーリアがからかうように言うと、これまた元気に七日は返事した。
「てへぺろっ! ばれてしまったら致し方ありませんねッ! 本日ボク、いや、私こと雨宮は、セクシー&デンジャラスに皐月さんに迫るつもりです! まあ公式データを元にしたこの水着、ちょっと胸キツイんですけどね、お尻は平気なんですけど……」
「公式?」
 つくづくと綾耶は七日のバストを見た。あきらかに成長している。そのことが自信を与えて、彼女をここまで劇的変化させたというのか。
 ふっ、と溜息をつくように綾耶は言った。
「月日は人を変えちゃうんですね……」
 一方、
「おい、彼女、なんか悪いものでも食べたのか……?」某は割と真剣に皐月に問うた。
「いや、何つーか、見て判らんか、アレ。どう考えても」
 真っ黒い吐息をついて皐月は、首だけだらんとうなだれたのである。
「マイに決まってるじゃねえか。七日に憑依してるんだよ。おおかた寝てる間にでも入ったんだろうけど、なぁ。……ったく、後でどうなってもしんねーぞ」 
 つまり、マイことツェツィーリア・マイマクテリオン(つぇつぃーりあ・まいまくてりおん)が憑依しているのだ。
 七日の意識は表に出ていないが、憑依されている七日本人にもこの状況は見えているし聞こえてもいる。きっと今頃、本当の七日は「あとで殺す」と心の包丁を研いでいることだろう。
 当初、デートということで皐月と七日は、マイを連れず出かけようとしていた。それは皐月も悪かったとは思っている。でもだからといって七日に憑依するのはどうだろう。そればかりかこのように、無理矢理にラブラブを演じなくたって……まあ意外と悪い気はしなかったりもするのだが。
「まあそんなこったろうと思いましたけどねぇ……まあ、それはそれで楽しんでもらいましょうか。ところでさっきダークビジョンで周囲を軽く見渡してみたんですが、木の陰やら物陰やらで、なにやら皆さん色々してますねぇ。しかも、向こうの物陰とあっちのベンチの裏はまだ誰も使ってないみたいですし、行ってきてはどうです? デバガメなんてしませんから、安心して下さい」
 なぜか今日は、ずっとニヤニヤ笑いの誠一なのだ。暴と皐月は顔を見合わせた。

 さてそんな事情を知ってか知らずか、女性陣に対してもオフィーリアが得心げに結論づけている。
「なるほど、いつの間にやら『な〜さん&あやりん』はカップル成立、『日比タン&なのちゃん』もいい感じというわけなのだな。だがあと一歩だと思うのだよ」
 いつの間にやらオフィーリアも、誠一同様のニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「あやりん、周りは暗いし、今ならな〜さんを『押して駄目なら押し倒せ』の精神で押し倒しても、きっと大丈夫と思うのだよ?」
 と綾耶に、少女らしからぬアドバイス。一方で七日(本当はマイだが)にも、
「着飾るのは基本的に、誰か、の視線を意識していることが多いのだよ? 今日はずっと日比タンに見られているはずなのだ。悩殺するなら今のうち!」
 などと言って煽った。そして締めくくりがこれである。
「ほーら、あそこの茂みにはいい塩梅に無人のベンチがあるのだよ。連れ込んで押せ押せの予定なら協力しようかな〜? ほら二人とも、早く行かないと、誰かが先に居座ってしまうのだよ? ククク」
 綾耶と七日(マイ)は顔を見合わせた。

「やかましい! 俺と綾耶はもう堂々と付き合ってるわけだから、わざわざきっかけをつくってくれなくてもイチャイチャするぞ!」
 某は言い切った。照れながらだが『イチャイチャ』と言い切った!
「あのな、アイツは七日であって七日でないわけ。今の状態をいいことに変なことしようものなら命がいくらあってもたりねーよ。ほら、お前こそ幸せに生きやがれよ、俺が言えるのはそんなところ!」
 皐月もあっさりとそう告げて、某と二人がかりで誠一を茂みに放り込んだのである。
「え!? まさかそうなる!?」
 とうに夜、ライトは落とされているので茂みの内側は暗い。
 ベンチを見つけてぺたりと座り込んで、誠一は一つ息をついた。すでにニヤニヤは消えていた。
 ――ある意味、暗い場所こそが自分にとって、最も居心地がいい場所なのかもしれない。暗ければ躰の傷も見えないし、無理に表情を作る必要もない。
 そのときカサカサと茂みが揺れた。
「せ〜ちゃん?」
 オフィーリアだ。やはり同様に送り込まれたのだろう。
「……横、座るよ?」
「ああ」
 二人はなんとなく、身を寄せ合うようにして座った。
「暗いのだ」
「暗いの、嫌いか?」
「嫌いじゃないけど……不安。せ〜ちゃんがどこかに行ってしまっても、こんなに真っ暗だったらわからないのだ……」
 だから、と彼女は言った。
「せ〜ちゃんに手を、握っていてほしいのだ……」

 それから十秒ほどしたところで、最初の花火が空に輝き、ぱっと二人の居場所も明るく照らした。

 花火を見上げながら、感慨深くマイ(七日の姿をしたマイ)は腕組みして言うのである。
「さて。仲睦まじいお二人と、未だ素直になれないお二人ですか。なんだか見てると胸の奥がぽかぽかしますねー。これぞセーシュン! なんでしょーか」
「まあ、そうだろうな」皐月は人ごとのような顔をしているわけだが、構わず、
「よく見ればカップルさんたちも沢山いますし――そうでない人もいるみたいです。でも、皆さんきっと愛を求めてるんでしょうね!」
 という自分の言葉に盛り上がって、彼女はどこからかマイクを取り出して握ったのである。
「なら! このボクが! しっとりムーティなバラードで! 一肌脱いで差し上げましょー!!」
「いやそんなことしなくても……」
 皐月の指摘など聞こえない。マイは歌った。

「アイって何ですか 何処に有りますか?
 アイを知る為に アイの真似して歩く
 アイの場所に立てる為に 白い旗持って

 長い道 迷いそうで 時々 不安になった
 白い旗に印を付して 不安をごまかす
 歩んだ道筋 人と出会った場所
 それは一つの 地図に見えた

 そうか きっと これが アイって奴なんだ

 アイの場所記す 宝の地図
 誇るように高く 空に掲げた
 アイがアイ求めて 彷徨う旅路は
 いつかアイに満ちて 白い旗を埋めた

 掲げたのはアイのしるし
 掲げたのはアイの場所
 アイを求める誰かの為に
 ずっとアイを示すもの

 そうだ いつも ここが アイの集う場所
 そうだ いつも ここが アイの帰る場所

 アイはいつもここに

 I&愛 love you.
 Forever and ever.」


 皐月は苦笑気味に、某と綾耶は肩寄せ合って、この歌を聞いていた。
 歌の終わりとともにドラムロールのように、つぎつぎと大型花火が空を飾った。