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夏の海と、地祇の島 後編

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夏の海と、地祇の島 後編

リアクション



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「『蒼の月』さん、ちょくちょく、リンさんと連絡とってるそうですよ」
 ここは、ツァンダ市内のプール。水着と水泳帽子を被った彩夜が、不意にそんなことを言った。
「なんでも、クジラの中に残してきたクルーザーをリンさんたち一家で修理したらしくって。不調だった無線もばっちり」
「えー。それ、すごいね」
 
 そんな彼女の手を引いて、バタ足の練習を手伝いながら、美羽が素直に感心している。加夜が横から手を差し出して、彼女の水泳フォームをいちいち、矯正してくれる。
 
「ん、いいよ。その調子。右、左。右、左。そのリズムでね」
「はいっ」
「でも、わりと嬉しいかも。こうやってちゃんと、泳ぎの練習に前向きになってくれて」
 はい、ここで十メートル。美羽が手を放し、彩夜が水の中から立ち上がる。
 美羽からの言葉に、照れくさそうに彼女は肩を竦める。
「あの一件では皆さんに迷惑かけ通しでしたから。……それに」
「それに?」
「……教えに行ったはずなのに、全然『蒼の月』さんのほうがうまくなっちゃって。ちょっと、悔しくて」
 
 負けてられないって、ほんの少し思ったんです。
 それは、意外な告白。負けず嫌いな心の、告白で。
「そっか」
 美羽も加夜も、破顔して笑う。そうやって前向きになってくれれば、教える側もなおやりがいがあろうというものだ。
 
  
 彩夜たち一行が、そんなやりとりをしている一方で。
 
 
「な、なんでわらわが泳ぎの練習などせねばならんのじゃ!?」
 その隣の子供用プールでは、白姫がプールサイドに仁王立つエヴァルトに対し、抗議の声を上げていた。
 
「やかましい。この夏の間にちっとは泳げるようになれ」
 
 エヴァルトの首には、分厚いコルセットが巻かれていた。その上、スパルタ特訓を体現するかのように、片手には竹刀。
 
「お、横暴じゃ!? 異議じゃ、異議を申し立てる!!」
「だが断る」
 
 一体、誰のせいでこうなったと思ってやがる。
 エヴァルトは肩でとんとん、と竹刀を鳴らす。そしてもう一方の手に握った新聞の、地方欄ページを彼女の前につきつける。
 
 そこには。──『観光客、助かったのにあわや窒息』。……そんな、なんとも間の抜けたタイトルの三面記事。
 塞がれていた通気口が解放され、口を閉じようとしているクジラと。
 ずっこけるような形で、海へと落ちていく白姫の姿。そして。
 
 彼女に背中を突き飛ばされたせいでバランスを崩し、クジラの細い歯と歯の間に首を挟まれて宙吊りになってしまっているエヴァルトの姿を収めた、セピア色の一枚がでかでかと印刷されていた。
 
「まずはバタ足練習五分間を三本! さあ、はじめ!!」
「横暴じゃあー!」
 
 彼らの夏は、まだまだ続くようであった。
 
 
(了)

担当マスターより

▼担当マスター

640

▼マスターコメント

ごきげんよう、ゲームマスターの640です。大変お待たせいたしました、リアクション『夏の海と、地祇の島』後編でございます。
前編同様、今回はあくまでリゾート。軽く軽く、バカンスの中で起こったちょっとした事件ということで、重くならないように描けていればと思いますが、いかがだったでしょうか?
脱出路については皆さん様々に考えられていて、どういったかたちにすべきか悩みましたが、このようになりました。
思っていた感じではなかった人も、思っていたとおりであった人も、「こういう感じになったのね」くらいに思っていただければ幸いです。
 
それでは、失礼いたします。また次のシナリオガイドでお会いできることを祈りつつ。