天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

リアクション公開中!

【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

リアクション


★第ニ章「ロック鳥の事情」★


 ロック鳥。
 広げられた翼は10メートル以上はあるだろうか。翼が軽く動かされるだけで強風が当たりに湧きおこる。鋭くとがった牙はあまりの生き物を食い破り、爪は巨大な生き物でさえ握りつぶしその肉をかきだす。
 何よりも人に威圧を与えるのは、その瞳であろう。
 まさしく空を飛ぶ王者の風格がそなわった鳥である。
 経験豊かな契約者さえ、びりびりと震える何かを感じ取っていた。

(さて。どれくらい成長したのかしら)
 ロック鳥に追いかけられるように移動しながら、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は軍用バイクにまたがりながら指示を出していく金元 ななな(かねもと・ななな)をじっと見守っていた。
(もう2年目だし他にも世話を焼いてくれる相手がいるみたいだから、過保護はやめてちょっと距離をおいてみましょう)
 一時期は過保護に接していた時もあるのだが、もうそれは止めて彼女がどういう態度をとるのか。どれだけ成長したのか。そっと見守るつもりのようだ。
「なななはロック鳥を殺すことなく止めたいと思ってるの。そのために協力してほしいんだ」
 甘いともいえる目的ではあったが、反対者はいなかった。
「金元少尉、できるかぎり正確に位置等の状況を報告し続けてください。私は羅儀とともにロック鳥の今回の行動について調べてみます」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)がそう世 羅儀(せい・らぎ)を示しながら、言う。
「普段とは違う行動を起こすのには、やはり何か原因があるはずです」
「うん、分かった。けどもう少し調べる人員がいた方がいいね。誰かほかにいない?」
「じゃ、じゃあ私たちもそちらを……」
 おずおずと名乗りを上げたのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)。なななが「じゃあお願いするね」と頷いた。
「他のみんなは原因が分かるまでロック鳥を押さえ、なるべく動物たちから離すことに専念して。進路や位置情報、他に入ってきた情報はななながまとめてみんなに伝えるね」
 すぐさま役割が決まっていく。なななはあくまでも情報を管理し、必要なものを選別、伝える役目を。そう言った役割がいなければ混乱するだけだ。
「まあ……悪くはない、かしら」
「ん? 何か言った?」
 ひっそり呟いたリカインになななが首をかしげたが、彼女は何も言わずに口元だけで笑った。
 指示を飛ばしていくなななには、まだまだ甘いところはあった。それでも以前よりはだいぶ『らしく』なってきている。
 しかもすべてロック鳥を追いかけながらであり、じっくりと考えている暇も場所もない状態で、だ。
「では私はヴァイシャリーに何か原因がないか調べてみます」
「はい! 私たちはヒラニプラ山脈や動物さんたちの通った場所に行って、植物さんたちに話を聞いてきます」
 白竜とリースはそれぞれ別の方向から調べることにし、一端一同から別れて行った。と、そんなリースの肩に降り立ったのは白い鳩、アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)だ。
「お師匠様! 何か分かりましたか?」
「我輩の31じゃったか32だかの軍勢と共に動物たちの周りを飛んで観察してきたが、どうやら彼らはロック鳥に追われて逃げておるだけのようじゃな。ロック鳥の進路から外れた者どもはすぐに落ち着いていきおったしな」
 ひたすらに偉そうなアガレスだが、平常運転である。何せ彼? は、自分自身を『指揮官っぽく見えて格好イイ! 超イケテルー☆』と思っているからだ。
「さあ姫。どうぞ」
「ありがとう、ナディムちゃん」
 ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)が下半身が魚で自由に動けないセリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)をワイルドペガサスの背に乗せた。
「じゃあナディムさんとセリーナさんは動物さんたちの通った後をお願いしますね」
「おうっ任しとけ」
「はい〜、リースちゃんも気をつけてねぇ」
 リースは空飛ぶ放棄にまたがって急いでヒラニプラ山脈へ向かい、ナディムとセリーナは動物たちの跡から何か分からないかとペガサスを駆る。
「さて私も動きませんと」
「ところでさ、ロック鳥の肉ってうまいのかな」
「…………」
「冗談だよ」
「だといいのですが」
 羅儀の言葉に白竜の目がほそまり、羅儀は肩をすくめつつ首を横に振った。ロック鳥の味には興味があったが、それ以上は心の中だけでとどめる。
 小さく息を吐きだした白竜が、どこかへ電話をかけ始めた。
『あら、叶大尉。こっちはもう金元少尉達と合流してるわよ。人が集まり次第動くわ』
「そうですか」
 電話の相手はニキータだ。白竜は要件を述べる。
「ロック鳥の今回の行動……ヴァイシャリーに何か原因があるのではと思ったのですが、心当たりはありませんか?」
『原因ねぇ』
 電話の向こうでニキータは悩むそぶりをみせ、そして声が遠くなる。どうやらメルメル……メルヴィアに話を聞いているようだ。
『メルヴィア大尉が言うには餌の不足や繁殖期が関係あるんじゃないかですって』
「餌不足と繁殖期、ですか。分かりました。そちらの方向で調べてみます。ありがとうございました」
『そっちもがんばってねぇ』
 電話が切られるより前に、羅儀は現在の情報をコンピュータにまとめていた。
「餌不足と繁殖期……っと」
「……痩せている様子も太っている様子もありませんね。狩りにしても少し動きがおかしいようですし」
 ロック鳥を観察していた白竜が言うが、結論付けるには早い。もう少し詳しく調べるべきだろう。

「動物側の事情でも聞き取れないかね、吠えてるだろうし。オイラ獣化すりゃあ解らないかね?」
 そう考えたオリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)が獣化して耳をすませる。
「……駄目か。全然わかんねぇ」
 ライオンとロック鳥ではやはり意思疎通はできなかった。



「なんて迫力……でも、止めないと」
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)がつばを飲み込みつつ、アマツトツカマイセアケボノを握りしめた。あれだけの巨体があの速度で街へと突っ込めば……例え直接ぶつからずともその風圧だけでも大変なことになりそうだった。
 少なくとも恐怖と混乱を呼びこむことは間違いない。
(叩き落とすには火力が足りませんね。でも誘導するだけなら)
 和輝は人為的な力が働いているのではと疑いつつ、今自分にできる最大限の努力をしようとしていた。
「おっきな鳥ですわね……仕方ないですが、術法で最大限に支援しますわ。ただ、効いてくれる保証は無いですけどね」
「ロック鳥ですか。今回は色々ありそうですが、ひとまずは力を尽くしましょう」
 パートナーのクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)安芸宮 稔(あきみや・みのる)もロック鳥の迫力に負けじと目に力を込めた。3人とも、心の内では人為的なものを感じていたが声には出さない。もしかしたら今回の騒動を起こしたものが近くにいるかもしれないからだ。
 殺すことなくとは言われていたが、気を抜けば殺されるのは自分たち。油断せずに飛空艇や箒で近付いていく。
 稔が先頭で三角形のような形をとり、正面に回り込んでまずは稔がライトニングを撃ち込む。ひるんだ瞬間をクレアのアシッドミストや炎の聖霊、轟雷閃で街とは違う方向へと連れていく……はずだった。
「くあぁあっ」
 ロック鳥が大声をあげてそのまま直進してくるのを、3人は慌てて散開して避ける。
「そんなに簡単には行きませんか」
「あまりくらっている様子もありませんね」
 ひるませるには威力が足りなかったようだ。しかしそれでも諦めると言う選択肢はない。

「あんな大きな鳥に追われたら、逃げるしかないよね」
 笠置 生駒(かさぎ・いこま)がロック鳥を見上げて呟く。
 しかもさきほどの様子を見る限り正面から挑むのは無謀だ。
 飛空艇にジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)を乗せつつ、とにかく翼を狙おうかと考えながら
「何かを餌にしたら気を引けないかな……」
 餌、の言葉で目をジョージに向ける生駒。ジョージがそれに気づいて叫ぶ。
「パートナを餌にしようとは鬼か貴様は」
 そんな漫才のような掛け合いをしつつ、2人は周囲の仲間の動きを見ながらロック鳥の動きを止めようと動く。
「進路は変わらずヴァイシャリー、か。狩りにしても様子がおかしいし、何か別の原因がありそうだな」
「そういえば、一昨年にも同じ時期に、でっかい鳥さんで騒ぎになりましたね。あの時はにわとりさんだったですけど……今回も、穏便に済ませられると良いな」
 動きを観察していた源 鉄心(みなもと・てっしん)がロック鳥を押さえに向かいながら呟くと、ティー・ティー(てぃー・てぃー)がそんなことを思い出した。
「む、わたくしの知らない、昔の話なんてして……そうですわ、おなかが減ってるなら、ティーを食べさせればいいのです」
 ぷんぷんと怒りながら2人の後をドラゴンで追いかけ「もっと速く飛びますの!」ぺしぺしとその手をたたいたりしているのはイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だ。
「避難は……させてないみたいだな」
 ロック鳥と並んで飛びながら鉄心はラズィーヤからの話を聞き、やや苦笑した。混乱を避けたいというのもあるのだろうが、そこまで信じてくれるとは。
 鉄心は鼻先をかすめて注意を引こうとするが、ロック鳥の目は見向きもしない。ただ血走った目を前――ヴァイシャリー方面へと向けている。
「これは……狩りじゃないな。暴走してる」
「暴走、ですか?」
 同じく注意を引こうとしていた和輝がその言葉に反応する。鉄心と同じくスレイプニルにまたがったティーが獣寄せの口笛を吹いてみるが、こちらもまるで無視だった。
 となれば、やはり力づくでなんとかするしかなさそうだ。ティーが少し悲しそうな顔をするが、とにかくその速度を落とさせようと舞い降りる死の翼で風を起こす。鉄心も機晶爆弾で頭部を狙い、なんとかとどまらせようとする。
「なるべく傷つけずに穏便に済ませられれば、それが一番良いのですが」
「まあそうは言っても、やるしかねぇよなぁ。この巨体に攻撃して効果あるのか微妙だが……」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)も参戦し、ロック鳥を押さえに回る。先ほどのライトニングがまるで効かなかった様子から、苦戦は必至だろうと思いながら。
(風で動きを阻害して、それで戦意が喪失くれないでしょうか)
 手に持った芭蕉扇で風を起こし、飛行を阻害する小次郎。しかしロック鳥はただ前へ前へと進もうとする。
(とにかくこっちが撃墜されちゃ意味がねぇからな。撃墜されない程度に注意を引くしかねぇな)
 恭也が意識を集中させて、炎を放つ。ロック鳥はそれに気づいて少し身体を斜めにして避けた。だが羽をかすったのか。少し焦げくさいにおいがした。
「かなり全力で撃ったんだが、それだけかよ」
 ロック鳥がギロリとさらに目つきを尖らせ、周囲を飛ぶものたちを落とそうと片翼を薙ぐ。たったそれだけで凄まじい強風が全員を襲う。
 一端それで道が開けたロック鳥はまた一目散にヴァイシャリーへと向かっていく。
「させません! シルフィー!」
「分かってますわ。アシッドミスト」
 クレアがそうはさせじと酸の霧でロック鳥の視界を覆う。今までのを見る限り大したダメージにならないだろうが、一瞬でも足止めできればよい。
 和輝が武器から轟雷を放ちさらに足止めをして、その隙に体勢を整え直した小次郎が芭蕉扇で風を起こして再びロック鳥の動きを止める。
「くぁあああああああっ」
 いらだたしげな声を上げるロック鳥。

「ロック鳥がここまで大量の動物を襲うとは思わなかったな……。
 まずはロック鳥を町と動物達から引き離しに行く。
 腹が減っているなら余計他の縄張りを越えてまで追いかける事はないだろうから、一番近い生息域まで押し返そう」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はそうパートナーに話しかけ、ドラゴンのスティリアの背を撫でた。
「スティリア、ずっと俺の氷嚢代わりで退屈だっただろう? 今日は思い切り遊ぼう」
 そんな姿をじっと見つめていたアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)。ガディの手綱を握りしめ、戦場へ向かう主を守るという意思を強く強く目に宿らせる。
「主の御体は万全ではない。だが主の御心を無碍にできん……。消耗なさる前に、事を済ませねば!
 行くぞガディ!
 主をお守りする為、そのお心を曇らせぬ為に!」
 ガディもアウレウスの心に反応し、雄たけびをあげてロック鳥へと向かっていく。
「どいつもこいつも、あれの体がどれほど危険な状態か、分かっているのか!」
 逆にそんな怒りを募らせているのがウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)である。あれ、とはグラキエスのこと。グラキエスを苦しめていた魔力の核。それを失ったが故に彼は記憶をも失くしたのだが、魔力は衰えていない。そして今のグラキエスはその扱い方も忘れてしまっている。ウルディカはそのことを心配していた。
「エンドロア、お前は大人しくしていろ!」
 小型飛空艇ヘリファルテに乗ったウルディカは、グラキエスたちを追いかけていく。

「おらっ」
 恭也が小次郎やティーの起こす風に合わせて炎を撃ち込み、間をおかずに和輝や稔が攻撃をたたき込む。さらには鉄心の攻撃も入り、さすがにひるむロック鳥。一瞬別の方向へと目が向くが、進路を変えることはない。
 追いついたグラキエスが翼に向かってブリザードを放ち、一瞬凍りつくがすぐに溶けて砕け散る。しかし翼に水分を含ませることには成功し、重くなったために若干速度が落ちた。
「鳥よ、どこを見ている?」
 アウレウスが大声をあげて注意を引きつけ、ガディごと突撃する。その衝撃にロック鳥の進路がずれた。すぐさま進路を戻そうとしたロック鳥へ、ウルディカが機晶爆弾を周囲で爆発させて威嚇。その場にとどめさせる。ティーや小次郎は風で動きを阻害。鉄心も爆弾で動きを翻弄。
 そう。皆で協力すれば、強大なロック鳥といえど、足止めすることは可能なのだ。

「どうしてロック鳥は暴れているんだろう? 原因を突き止めなくちゃ」
「それはいいが、どうするつもりだ?」
「飛び移る! 近くで何か原因がないか探す」
 そんな無謀なことを叫ぶカル・カルカー(かる・かるかー)に、夏侯 惇(かこう・とん)は止めようとはせずにならばそれをバックアップしてやろう、と動きだす。
「強くなりたい、その気持ちは買おう。だが無理は禁物であるぞ、カル坊。
 まだまだ自分の力の限界は見極めて、引き際を決めるんだな。そういうのも、強くなるためのステップだ。そう一足飛びに強くなれるものでもないことを、よく心得ておけよ」
 惇が飛空艇を操ってロック鳥に近づく。タイミングを見計らう。――その時! アウレウスの突きを受けたロック鳥が一瞬だけ動きを止めた。
「今だ!」
「分かってる!」
 カルが飛び出し、ロック鳥の上に飛び乗った。

「今のは?」
「わがパートナー殿じゃ。何怪物でも刺さって暴れている可能性もある、と言ってな。すまんがしばらくの間、攻撃する時は気をつけてくれ」
「わかった」
 目だけでは見えない怪我。それがあるとすればたしかに直接飛び乗って探るしかないだろう。
「外から見る限りでは何もありませんの」
 イコナの言葉通り、たしかに我を失っていておかしな状態には変わりないが、身体は元気そうに見える。
「できれば原因が見つかってほしいところですが」
「……ああ、そうだな」
 小次郎の苦しげな声に、しびれ粉をロック鳥の顔の前で巻き終えたグラキエスも苦しそうに答えた。ロック鳥へ意識をすべて向けているからか体調管理がおろそかになったらしい。グラキエスの顔色が少し悪く、呼吸も普段より粗い。やはり魔力をもてあましているのだろう。
「エンドロア」
 ウルディカが声をかけるが、グラキエスは再びロック鳥へと向かって行った。その後にアウレウスが続く。アウレウスも体調は心配だが、不安定な心を少しでも満たす方を選んだのだ。それを見て、ウルディカも仕方ないと2人をサポートする。

 この場にいる皆が、できれば生きたまま自然に返したいと思っている。だが全力で相手しなければやられるのは自分たちだとも知っていた。
 互いに傷が増えていく。

「うぁっ」
 カルが暴れたロック鳥から振り落とされた。すぐさま惇が助けたが、悔しげな表情を見れば原因は特定できなかったのが分かった。
「動物たちは進路をずらせば落ち着いてきたみたい。つまりロック鳥に追われて逃げていただけのようね。大分距離も開いてきたし、このままなんとか押さえられれば」
 動物たちを担当していたメルメルから連絡を受け、リカインがみんなに伝えた。動物たちの暴走の原因は分かった。ならばあとはロック鳥だけ。
「じゃああとは、ロック鳥暴走の原因を見つけてくれるのを待つしかねぇか、っと! そっちには行かせねぇ」
「ああ……スティリア。行こう。存分に暴れて構わない」
 皆が皆。その場を死守するために全力をつくしていた。