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夏の終わりのフェスティバル

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夏の終わりのフェスティバル
夏の終わりのフェスティバル 夏の終わりのフェスティバル

リアクション

 すばるが鉄板の半分を使ってパンケーキを焼いている様子を眺めていたレナは、ついに我慢できなくなったのか、
「端っこにくっついてる小さいやつでいいから、食べちゃダメ?」
 と言って、鉄板を指差した。
 レナの指した部分には、焼く時に生地が垂れたのだろう、小さなホットケーキの欠片ができている。
「特別ですよ。味見ということにしておくのです!」
 すばるの許可をもらって、レナはフライ返しに欠片をひょいと乗せ、口に放り込んだ。
 ちょうどその時、セシリアと輝が帰ってきた。
「探し回っちゃったわ。パンケーキはどう?」
「はい! しっかり焼いています!」
 自信満々にすばるは答える。
「ごちそうさまぁ。結構酸っぱいね」
「……酸っぱい? ちょっと借りるわよ」
 レナの言葉に、嫌な予感がしたセシリアが、慌てて鉄板を覗き込む。
 予感は的中した。そもそもパンケーキの色が、緑色をしている。
 セシリアはすばるからフライ返しを受け取り、たった今焼けたホットケーキを一口かじる。
 すばるもその残りを口に入れた。
「こ、これ……人間の食べ物じゃなくなってるじゃないの〜っ!!!!!」
「……うっ、こ、これは……」
 パンケーキは、すばる自身も呻くほどの酸っぱさだった。
 慌ててパンケーキを回収しようとした拍子に、ガシャン! と音を立てて大きなボウルが真っ逆さまに床へと落ちる。
「大変です! 次に焼こうとしていた分の生地が落ちてしまいました!」
 すばるは慌てて調理台の上にあった布巾を掴む。
「それにしても、ワタクシはレシピ通りに作ったのですが……、あら?」
 すばるがレシピの表紙を見て、目を丸くする。
 そこには「色の変わるパンケーキ! レモン汁入りガムシロップをかければ、普通のパンケーキに!!」と書かれている。
「これは、天御柱学院科学クラブの実験料理レシピでした……」
「ええっ!? ちょっと待って、ということは……」
 振り返ったセシリアの目に、輝が鍋の中から取り出す緑色の麺が映った。
「――何か、色がおかしいんですけれど」
 鍋を覗き込む輝に、セシリアが駆け寄った。
「それ、違うレシピかもしれないわ!」
 よく見ると輝が手にしているレシピにも「色の変わる緑色焼きそば! ソースをかければ元通り!!」と書かれている。
 こちらも、実験料理レシピだったようだ。


 そうこうしているうちに、先ほどセシリアの上げた悲鳴とドタバタに気付いたジーナと野々が駆けつけた。
「どうかなさったのですか!」
「まずはバケツとモップを取ってきます! 床掃除は任せて下さい!」
 野々がすかさず走り出す。入れ違いに、太壱とセラが現れた。
「タイチ! タイチも応募してたのね! 良かった、助かった!」
 太壱の姿を見て安心したのか、セシリアは思わず太壱に抱きつく。
「一部の材料がえらいことになってるの! 何とかならないかしら?」
 そもそも、調理を始めた時点で食材の調達に不備があったというのも、問題の一つではある。
 その上パンケーキに至っては、既に焼かれたものと落とした生地で貯蔵の半分を越している。
 貯蔵庫にあるホットケーキミックスは、残り三分の一程度だ。
「……俺、お袋に連絡取ってみる!」
 太壱は携帯電話を握り締め、電話をするためにスタッフ用通用口へと走っていった。
「私も食材の手配をするわ! 他に何か問題が起きたらすぐに知らせて」
 セラも電話をかけるため、太壱の後を追っていった。


 そんな大惨事の傍ら。瑞樹は鍋いっぱいに満ちた紫キャベツの出汁をじっと見つめる。
「紫キャベツと葡萄……、どっちも紫ですから、合わさったら更に美味しいスープになるはずですね」
 輝とレナは、モップを取ってきた野々と床を拭いていて、瑞樹の様子には全く気付いていない。
 瑞樹はすばるが放置した葡萄ジュースのパックをさっと手に取ると、迷いなく鍋に注ぎ込んだ。
「良い色になってきました! 後は塩を少々と、みりんとか入れましょう」
 瑞樹が取り出したのは、塩ではなく砂糖、みりんではなくお酢だった。しかし、瑞樹本人はそのことに気付いていない。
「このスープと麺を深めの器に盛れば、焼きそばラーメンの完成です!」
 瑞樹の作った料理の中身は、葡萄ジュース、砂糖、酢。
 ラーメンというか、薄い葡萄酢ジュース(?)に浸かった焼きそば(緑色)である。
「ちょっと待って! それ、どう見ても焼きそばには見えないよ!?」
 異変に気付いたあわてて輝が止めに入ろうとするが。
「あ、そういえば具を入れるのを忘れてしまっていました。うーん……あ、これなんか隠し味にしたら美味しそうです」
 輝の制止より早く、瑞樹はどこからか取り出したザルを鍋の上でひっくり返した。
「……瑞樹、何いれたの?」
 輝は、鍋の中に浮いている一口大の肉を。その肉はもがくように蠢いており、明らかに生きている。
「何って、肉ですよ! スタミナ回復しそうですねっ。あ、人参を入れ忘れてました。最後に隠し味のレモン汁を――」

 すぱああああああああん!!!

 レナの取り出したハリセンが、瑞樹の後頭部をしたたかに打った。
「この鍋はボクが食べるよー」
 涙目で蹲る瑞樹をよそに、レナは鍋の中身をおたまで掬って深めの皿に盛り始めた。
「だ、大丈夫ですか? お腹壊さないでくださいね」
 輝は心配しながらも、しっかりと瑞樹を捕縛する。
 こうして、どうにか厨房から生み出される謎料理に歯止めがかかった。