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夏の終わりのフェスティバル

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夏の終わりのフェスティバル
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第四章 祭りだ! リア充大作戦!!


 イーストエリアフェスティバルということもあり、湾岸には数多くの露店が立ち並んでいる。

「祭りなだけあって、辺りにリア充がチラホラ……」
 ややいらっとした表情で、キルラス・ケイ(きるらす・けい)が呟いた。
「まあ、祭りなんてデートスポットの定番だしな」
 人型になったアルベルト・スタンガ(あるべると・すたんが)が応える。
 そんな二人の前を、何も知らずに通りかかる不運なカップルがいた。
 どこかの屋台で買ってきたのであろうお好み焼きを、お互いに「あーん」と食べさせ合いながら。
 心の底から幸せそうに笑い合い、見つめ合いながら。
「…………」
 キルラスがプチっと切れた瞬間が、アルベルトには確かに分かった。
 ポケットを探るキルラス。何故かそこに入っていたのは、異国の香辛料だった。
「人目につかないようにやるならまだしも、公然といちゃつくのは――許さないんさぁッ!!」
 高らかに宣言するキルラス。手当たり次第、香辛料を振りまく、ぶっかける、投げつける。
「きゃあああ!!!!!」
「うわっ!! 何だ!?」
 悲鳴が巻き起こる時には、もうキルラスの姿はない。
 超感覚で身体能力を上げたキルラスは、素早く物陰に姿を隠していた。


「何だ? 騒がしいな」
 不運にも、そこをちょうど通りかかったのはキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)だった。
 夏來 香菜(なつき・かな)に置いてけぼりにされたキロスは、むしゃくしゃしてリア充になろうと祭りに繰り出していた。
「あれは、にゃんこスナイパーとキロス君であります!」
 そして不運にも、そんなキルラスとキロスの姿を偶然見つけたのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だった。
「リア充を憎むキロス君が祭りに来る、ということは、きっとリア充爆発しろとばかりに騒ぎを起こしに来たのでありましょう」
 吹雪は勘違いをしたまま、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)に耳打ちをする。
「ならば、我らも当然――」
「はい。自分たちもリア充狩り作戦に加勢するであります!」
 吹雪とイングラハムは顔を見合わせ、大きく頷いた。


 ボン! と何かが爆発音が響く。あちこちで上がる悲鳴。露店前の道には黄色い蛍光塗料のペンキが飛び散っている。
 祭りに来ているカップルばかりが狙われているのは、一目瞭然だった。
 カップルばかりがペンキを浴び、パイ投げをされたように服は汚れ。人によっては香辛料を浴びてくしゃみが止まらなくなっている。
「吹雪もリア充狩りに来たんさぁ?」
「もちろんであります! 二人のリア充撲滅大作戦に加担するのであります!」
 吹雪は、キルラスとキロスのつもりで二人と言ったのだが、キルラスはキロスと出会っていない。
「ところで、アルは――」
 二人と言われて、ようやく辺りにアルベルトの姿がないことに気付いたキルラスはきょろきょろと辺りを見回した。

 ――そして、二人に近付いてくる多数の風紀委員をその目に止めた。
 悪戯とはいえ、当然お咎めなしで済むはずもない。吹雪も風紀委員の姿に気付き、瞬時に逃走態勢に入る。

「さっさと逃げるさぁッ!」
「まだキロス君がどこかにいるであります!」
「……キロス?」
 キルラスが頭に疑問符を浮かべる。逃げ出した吹雪たちにに気付いた風紀委員が、一人また一人と追いかけてくる。
「あそこにいるであります!」
 吹雪はキロス目掛けて、突進していく。キロスの歩いていた付近は二人とも狙わなかったため、まだ事情が飲み込めていないらしい。
「同志!! 風紀委員が来る、早く逃げるんだー!!」
 吹雪の叫び声にキロスが振り返る間もなく、吹雪とイングラハムがキロスの襟首を掴んだ。
「なっ?! てめぇ、何すんだ!!」

 キロスが腕を振り回したのと、吹雪が足元のペンキ缶に足を引っかけたのは同時だった。

 凄まじい轟音と共に、キロスたちは屋台に激突した。
 キロスの腕は屋台の骨組みを薙ぐ。悲鳴と共に、屋台は衝撃で崩れ落ちた。


「おい、何のつもり――――」
 キロスが睨みつけようとした時には、既に吹雪もイングラハムもキルラスも、その場から消えていた。
「何だったんだぁ? 同志とか訳の分からねぇこと言ってたな……」
 いらいらとしながら首を捻るキロスの前に、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が立ちはだかった。
「……お前も、俺様に用があるのか?」
「当たり前だ。今、通報した」
「通報ぅ?」
「すぐに天学の風紀委員が駆けつける。お前の仲間はどこへいった?」
 唯斗は通報した旨を告げ、キロスに問う。
「俺は露店を見ていただけだ。さっきのは訳の分からない奴に絡まれただけで……」
「『同士』がどうとか、叫ばれていただろう」
「だから何も知らねえっつってんだろ!!」
 暴れようとするキロスを、駆けつけた風紀委員たちが押さえつけようとする。
「疑っているわけじゃない。が、騒いでいたのは事実だしな。後はよろしく」
 そのままキロスは風紀委員に連れられて、どこかへと去っていた。


「……キロス。良く分からないけど、済まなかったんさぁ」
 裏路地に駆け込んで事なきを得たキルラス。
 キロスが連れていかれた方向に向かってキルラスが合掌していると、そこにアルベルトが戻ってきた。
「アル、どこ行ってたんさぁ!」
 そう言ってから、キルラスはアルベルトの手に握られた、メイド服に気付いた。
「……なぁ、その手に持ってるのは何さぁ?」
「にゃんこメイドやらねぇ? ロシアンカフェにいたジーナに譲ってもらったんだけど」
「誰が着るかよぉ! ネコ耳は俺の超感覚がソレなだけでだなぁッ! てかにゃんこじゃねぇ!」
 にやにやとしながら、徐々にキルラスへと迫るアルベルト。
「こ、こんな事に使う猫耳じゃないさぁッ!」
 そう叫んでキルラスは全力で逃げ出す。――が、アルベルトは謎の素早さでキルラスにすぐに追いついた。
「ちょ、ま……アル? 目が怖いんさぁッ!!」


 この日、海京には「とある裏路地に、にゃんこメイドの霊が出る」という新たな都市伝説が生まれたという。