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【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

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【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

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第一章 蘇る古代呪術研究所

 遺跡の中に、複数の足音が響く。
 それは、古代呪術研究所を探索する者達の足音だ。
 かつては、日々このように足音が響いていたのだろうが……今となっては、そうであっただろうと想像することしか出来ない。

「さ、どうぞ」

 内部からかかっていた鍵がガチャリと外されて、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が顔を出す。
 壁抜けの術を最大限に活用した結果だが、白砂 司(しらすな・つかさ)達にとっては、実に頼りになる技である。
 早速部屋に入ろうとする司達だったが……そこに、宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)の声が響く。

「司の旦那にサクラコの姐さん、こいつぁマズいですぜ。警報装置みたいなのが仕込まれてやがりますぜ!」
「警報装置……ということは、また魔操兵ですね!」

 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)の言葉に、司も武器を構える。
 そもそも此処に司が来たのは、古代シボラの医療呪術の資料が見つかればいい……といった理由だ。
 こうも妨害が多いのでは、それもおぼつかないが……それはそれで、別の事も出来る。

「ちょっとくらい藤原に格好いいとこ見せたって、バチも当たらないだろうしな。べ、別にそんな好かれたいとか思ってるわけじゃないんだからな!?」
「はいはい、ツンデレツンデレ。女性を矢の雨の中飛び込ませる男に格好よさもなにもないよーな気はしますが……まあ、さっさといきますよ」

 壁から現れた魔操兵達の中に弓を持ったモノがいるのを見つけ、サクラコは突進していく。

「司さんが張り切っていらっしゃるみたいですし、まぁ、前線はお任せして良いかなぁ……あれ、生き物じゃないですしねえ……」

 少し残念そうに、しかし未練がありそうに優梨子は呟く。
 魔操兵はこういった古い遺跡にまれに配置されている人型のアイアンゴーレムで、人間のように武器を操るのが特徴だ。
 金属なので首を刈り取っても干し首にはできないし、そういった点で優梨子にとって魅力の少ない敵ではあった。

「さて、と……。これで全部黙らせましたし、無事に探索できますねー」

 最後の魔操兵を床に叩き付けたサクラコに、蕪之進は心の中で口笛を吹く。
 この連中が一緒なら、出鱈目に危険にはならねぇだろう……などと考えてはいたが、予想以上だった。

「さて、この部屋には何があるのか……」
「呪術については正直さっぱりですけど……医療呪術の分野なら診療記録の類とか興味深いかもですね」
「んー……」
 
 司とサクラコの言葉に、先行して調べていた優梨子はそんな声を出す。

「診療記録ではないようですけど……シボラに関連した研究室のように見受けられますねえ」
「正直、ただの古紙の束にしか見えねえですぜ」

 そんな蕪之進の軽口だが、実際にその通りだろうと司は思う。
 この手の資料というものは、必要とする人間以外には紙屑も同然だ。

「専攻ではないのですが、学生としてシボラの文化には興味がありまして……ふふっ」
「へえ、本当にここって研究所だったんですね」

 興味深そうに紙束をめくる優梨子とサクラコは、その「価値が分かる側」のようだ。
 二人の様子を見て、司も一つの紙束を手に取る。
 シボラについての記述ならば、そこに古代シボラ呪術の片鱗が残っていてもおかしくはない。

「どれどれ……シボラの大英雄シャフラザードの伝説についての考察……か」



 −4ページ目−

 シボラに伝わる「大英雄シャフラザード」の伝説については、僅かに口伝に残るのみである。
 その口伝すら神秘の一つとされ、どの部族でも秘される部類となっている。
 呪術の盛んなシボラでは、シャフラザードなる人物の名前は力ある言葉として神聖なるものであるのかもしれない。
 事実、魔力の高い子供や天才的な呪術の才能を持つ子供に大英雄シャフラザードの名前を与える事があるのは、その証明と言えるかもしれない。

 −28ページ目−
 
 この伝説の真偽であるが、現時点では判断しがたいと言わざるを得ない。
 情報が少ないのは勿論だが、あまりにも荒唐無稽に過ぎる点があるからだ。
 どの部族でも、この一点だけは教えてくれる。
 しかし、その一点こそが問題なのだ。
 まさか、たった一人の人間が……。


「劣化が激しいな……しかし、これは……」
「シボラに伝わる伝説の話ですか。ちょっとお借りしてもいいですか? お借りしますね」

 言うが早いか、紙束を司の手から取る優梨子。
 漂ってくる優梨子の良い香りに少しドキリとする司だが、なんとも言いがたい顔をして見ているサクラコと蕪之進に気付き、すぐに真顔に戻る。
 興味深そうに紙束をめくっている優梨子から何となく目が離せないまま、考える。
 ひょっとすると、これは。
 今回の事件の核心に近い何かを秘めたものなのではないか……と。
 劣化して読めない部分がある事が何とももどかしくて、司は次の紙束を手に取る。

「シボラのエルダードラゴン、フェイターン……か」

 どうやら、此処には調べるべきものがたくさんある。
 知識欲に動かされ、司は資料を探っていく。
 司達自身は知る由も無いが……今回の事件の本質に近づいているのは、現時点では司達なのだ。