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【ぷりかる】メイド奪還戦

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【ぷりかる】メイド奪還戦

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三章 デッドセル


「大丈夫ですよ、きっと助けが来ますから……もう少しの辛抱です」
 暗い部屋の中、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は攫われてきた女の子達に声をかける。
 そう、攫われた人を収監している部屋は一つでは無かったのだ。
 さゆみは女の子の一人一人の手を取って、元気を出すように励ますが女の子達から笑顔が戻ることはなく、時間と共に表情が険しくなっているようにも見えた。
「……う〜ん、これじゃあ埒があかないかな……」
 少しため息をつくと、さゆみは立ち上がって小さく息を吸いこみ部屋に聞こえるだけの声量で幸せの歌を歌い始める。
 柔らかく温かい歌声が部屋中に満ちていき、女の子達の表情から涙が消え明るさが戻っていく。
 さゆみが歌を止めると、あちこちから拍手が起こる。
 その表情には悲壮感が薄らいでいるように見えた。
「うん、これで少しは大丈夫かな? アデリーヌ、そっちはどう?」
 声をかけられたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はさゆみの顔を見上げ、
「ええ、皆さん怪我自体はたいしたこと無いんですけど……心労が酷いですね」
 言いながらアデリーヌは目の前の人にヒールをかけていく。
「一応脱出するのに支障が出ないようにはしているので、いつでも出られるとは思います」
「じゃあ、外の様子も確かめないとね」
 さゆみはドアに真っ直ぐ近づいていく。
 ドアには覗き窓が無く、さゆみは外の様子を探るために耳を押し当てる。
「……うん、少しだけど話声が聞こえる……ってことは最低でも二人はいるみたい……」
「でも……どうやって脱出しましょう?」
 アデリーヌはドアの鍵の部分を見る。通常、部屋の内側からなら鍵が無くても解錠出来るようになっているがこの部屋の鍵は内側も鍵穴を通さなければ解錠出来ないようになっているのだ。
「そういうことなら、ナナにお任せください」
 そう言って二人の前に出たのはナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)音羽 逢(おとわ・あい)だった。
「ナナがピッキングでドアを開けて、逢と二人で兵士たちを引きつけて起きますから皆さんは攫われた人たちを連れて逃げてください」
「さすがナナ様、自分の身をか弱い民衆の盾にするとは……まさに武士の鑑でござる」
 逢は何故か満足そうに何度も頷いてみせる。
「人ごとみたいに言ってないで、ナナの後ろに控えてください」
「御意」
 逢はペコリと頭を下げると、剣を抜き放ちスッと目を据わらせて臨戦態勢を取る。
 ナナは鍵穴にピッキングを行い、静かに鍵を開けると、
「いきます!」
 大声で逢に声をかけると、思いっきり扉を開いた。
「ぐぉ!」
 瞬間、ドアに衝撃が走り男の声が向こうから聞こえた。一人は扉を背にして立っていたのだ。
「な、なんだ!?」
 もう一人いた男はアサルトライフルを構えて、ナナに狙いをつける。
「ナナ様に銃を向けるな! この不届き者め!」
 逢は叫びながらナナの前に出てアサルトライフルの銃身を掴んで上に持ちあげると、銃声が響き渡り天井に風穴が生まれ。銃声を聞いた女の子達が一斉に悲鳴を上げる。
「やめろと言ってるで御座ろうが!」
 逢は銃身を持ちあげたまま、がら空きになった兵士の脇腹に剣の峰の部分を思いっきり叩きつけた。
「ぐぁ……!」
 脇腹から嫌な音が鳴り、男は泡を吹いてその場に倒れてしまう。
「見張りはこれだけみたいですね。さあ、今のうちに皆さんを連れて逃げてください」
「おい! さっきの銃声はなんだ!」
 ナナが脱出を促していると、女の子達が逃げる廊下とは反対側から声が聞こえてきた。
「く……! 今の銃声を聞きつけてきたか……! 皆の衆! 早く逃げるで御座る!」
「さあみんな! 早く逃げるよ! 私についてきて!」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は先頭に立つと女の子達を連れて走りだす。
(う〜……出口からみんなが脱出できれば、もぅ遠慮なく暴れられるだけどなぁ……。それとも、この際敵を全員ぶっ潰しちゃえばいいんじゃないかな?)
「だ、ダメですよ郁乃様! そんなことしたら皆さんを守れなくなっちゃいますよ! 我慢してください!」
 そう言って秋月 桃花(あきづき・とうか)郁乃を制止する。
 心を読まれた郁乃は身体をビクッと震わせて、ぎこちなく笑みを浮かべる。
「や、やぁ〜ねぇ〜そんなこと考えてないよぉ〜あはは……」
「ならいいんですけど……」
「おい! ここにもいたぞ!」
 曲がり角から声が聞こえ、兵士が数人姿を現す。
 その姿を見た瞬間、女の子達は恐怖で動きを止める。
 だが郁乃は怯まずにそのまま兵士の懐に飛び込み、急速にしゃがんで兵士達の視界から消えて見せる。
「えい!」
 そのまま郁乃はブラインドナイブスを兵士に喰らわせる。
「ぐわっ!」
 兵士は死角からの攻撃をなす術無く喰らってしまいその場に背中から倒れ込んだ。
「このチビガキ!」
「郁乃様を馬鹿にしないでください!」
 拳銃を構える兵士に桃花は稲妻の札を見舞う。
 瞬間、白い光りが辺りを包み雷が兵士の身体を貫き、兵士はその場に崩れ落ちる。
「よし、片付いたね! それじゃあ出口までダッシュだよ!」
「郁乃様は出口がどこにあるかご存知なんですか?」
「…………………………………………………………ん?」
 郁乃はその場で固まってしまう。
「まさか……知らないのに走りだしたんですか?」
「し、仕方ないじゃん! だって攫われたときは目隠しされててどこから来たのか覚えてないんだもん! そもそもここって何階なの?」
「ここは三階ですよ」
「っ!」
 不意に背後から声を掛けられて、郁乃は飛び退って声の主を見る。
「あ! 楊霞!」
「僕はまだ捕まってる人がいないか見てきますので郁乃様はこのまま皆さんを連れてお逃げください」
 声の主が楊霞であることに気づいた郁乃は表情を明るくする。楊霞もニッコリと微笑んで廊下の向こうを指差した。
「あちらに階段がございます。一階まで下りればすぐ近くに出口に通じる扉がありますのでそのまま安全な場所まで皆さんを」
「うん分かった! 楊霞も気をつけてね!」
「ありがとうございます。助かりました!」
 郁乃と桃花は女の子達を連れて階段を下りて行く。楊霞はその姿を見守ったあと、攫われた人たちを探すべく再び動き始めた。