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食材自由の秋の調理実習

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食材自由の秋の調理実習

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試食会



「皆さん。後片付けがまだ残っていますが、先ずは今日はお疲れ様でした。これから試食となりますが、見ての通り料理には数の限りがありますので、その点を気をつけて仲良く食べてくださいね」
 それと、と泪は続けた。
「教室の後ろの方にコピー機がありますので、気になったレシピはコピーして構いません。せっかくの機会なので、自分のレパートリーをたくさん増やしてくださいね。ただ、ちゃんと相手の人の許可を取ってからにしてください。
 注意点はこれくらいですかね。それでは皆さん――いただきます」
 そして、試食会が始まった。
「お皿とお箸、フォークにスプーンはこっちにあるから、あ、お盆必要な人いる? 椅子と机はあっちよ」
 裏方役に徹している雅羅はきびきびと指示を出していく。
 そんな彼女の手から弥十郎と真名美は皿を受け取り、さてどれから食べようかと周りを見渡した。
 思わぬバイキング形式になった試食風景にこれは立食パーティーにも見えるぞとアンヴェリュグが永夜を引き連れ、その後ろを冬真が付いて歩く。
「釜飯、パスタ、炒め物にカレー。ええにおいやー」
 最初の一品目が決められない優奈がウィアとふたりでそわそわしていた。皿に少量ずつ乗せ歩く祥子がその横を通る。
 ルカルカ達の顔を見に来た柚はカレー皿を持ったままどうせなら海と食べようと三月に引きずられていくが、海の姿が見当たらない。
 最初こそぼやいていたが労働に見合った食事に満足している弥狐が次はあれが食べたいと沙夢の肩を叩いた。
 剛太郎にコーディリアは喉が詰まりますよと水の入ったコップを差し出す。
 カレーを自分で取り分けて渡すネージュは美味しいと褒められるごとに顔を輝かせてはにかむ。
 途中から他の班を見回っていた天音を見つけて、どこに行っていたんだと声をかけたブルーズはこれが食べたいと言っていただろうとカレーの入った皿を彼の前に出した。
 自分で作った料理は勿論自分で食べれる。茸や栗の売れ行きが良い中、サンマ美味しい。香ばしいとの感想が聞こえ、顕仁も絶句している様子に、安価な素材の底力は偉大だと泰輔は大きく頷いた。
 いざ試食会が始まってみるとやはり自分の手料理を振る舞いたいセレンフィリティに「セレンの味は私だけが知ってればいいの」と言葉を重ねるセレアナの苦労は絶えない。
 桃花の料理が生徒の口に入るのを見て、美味しいだろう桃花の料理は美味しいだろうと、彼女の料理自慢をしたい郁乃と灌の二人は非常に悦に入っていた。
 主の手料理にアウレウスが感動に皿を天に向かって掲げていた。その天から光がそそがんばかりに喜ぶ様子を眺めていたグラキエスにウルディカが座れと椅子を持ってくる。
 ダリルがルカルカと某の肩をそれぞれ掴み「可愛い女の子とイケメンだろ?」と山葉夫妻の前で披露するものだから、顔バレしたくない某の肝を冷やす。「どうだ驚くだろ!」と開き直り男口調のルカルカが、今度は某の顔を青くさせた。こうなるとバレるのも時間の問題だろう。文字通り全種類制覇しようと両手に大皿を持つ試食専門ことカルキノスに淵がやれやれと肩を竦めた。
「やっぱりうちのユリナの料理は絶品だぜ」
 スープパスタを頬張る竜斗は思った通りの味に大変ご満悦だった。史織とミリーネからも絶賛され、ユリナは顔を赤くする。
「これは素敵なお嬢さん、花をどうぞ」
 一輪の薔薇を差し出し優雅に微笑んだエースはミルディアを席に座るようエスコートし、エオリアが小分けにした料理をテーブルに並べる。やや離れたところから「うーまーいーのーにゃー!」と大感動したカールッティケーヤの雄叫びが聞こえた。
「オレとにかく肉が食いたい。固形の肉を久しく食ってないんで肉よろしく」とカレー鍋の前で腹ペコな壮太が注文している。宗也は賑わう教室を眺めて料理を堪能していた。
 加夜は甲斐甲斐しく涼司に料理を運び、自分も食べては今日の夜にでもさっそく試したい料理の数々に「秋って素敵ですね」と夫に微笑んだ。
「お父様、このお料理美味しいです」
 と目を輝かせて報告するミリィに涼介は頷いた。そわそわとしている娘に気づいて涼介は笑う。
「気になるなら作り方を聞いておいで。今度家で作ろう」
「はい!」
「リース! 隆……桐条さん! これ美味しいよッ、ほんとに美味しい!」
 興奮してマーガレットがリースと隆元の名前を呼んで、おいでおいでと片手を大きく振っている。

 そろそろ試食会も佳境に入り、涼司はおもむろに立ち上がった。
「はーいみなさーん。一旦箸を置いてくださーい」
 注目してくださいねと泪が呼びかける。
 涼司は一度咳払いをした。
「おう、おまえら美味かったぜ……って、前書きも必要無さそうな顔してるな」
 生徒の顔に浮かぶ感情に、涼司は苦笑いした。
「じゃぁ、さっさと発表するか」
 散歩に行ってくる。そんな軽いノリで続ける。
「みんなコストとか見た目とか種類とか栄養とか考えていて本当に感心した。おかげで選ぶのに苦労したぜ。
 ――蒼空学園秋の限定メニューは、中華班で芦原郁乃、秋月桃花、荀灌の三人が作った五色膳に決定した。
 美味い料理ばっかりでどうなることかと思ったが、おまえ達がうちの生徒で鼻が高いぜ」
 発表に教室内がどよめき、割れんばかりに拍手が湧き上がった。
「ってことで、残さず全部食ったら後片付けだ」
 家庭科室を使用前の状態に戻して、今日の調理実習は終了となる。
 料理が上手い生徒も下手な生徒も得るものが多かったのではないかと大人組は頷き、助手として付き合い付き合わされた生徒はあともうひと踏ん張りと気合を入れなおした。