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誰が為の宝

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誰が為の宝

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「作戦を修正します。各班、可能なら一旦安全な場所まで退避、現状報告を願います」
 本部になったこのキャンプ地から、アリーセが指示を出す。
 状況が混乱していることもあり、やはりわかりやすく明確な役割分担と命令系統が必要だった。
 出発前から情報収集と解析をしていた彼女が、その取りまとめを買って出たのだった。

「可能なら退避しろって。煙にぃ、どうする?」
 後方で通信を受けた冥利が、煙を振り返って聞いた。
 煙は答えず地面を蹴る。
 一気に敵との距離を縮めると、百獣拳を叩き込んだ。
 並のイレイザー・スポーンなら骨まで砕けるパワーだが、岩石化した皮膚が装甲になって、この敵には簡単に攻撃は通らない。
「無理無理、今取り込み中アル」
 近づいて来ようとする奥の敵を氷術で牽制しながら、死者の書が代わりに答える。
 その背後で、どう、と煙の正面の敵が地面に崩れ落ちた。
「ふう」
 煙は手首をさすりながら、軽くため息をつく。
 装甲を破壊せずに内部にダメージを与える攻撃に切り替えたことで、際限のない分裂と増殖を回避した。
 とはいえ、今度は一体ずつ確実に潰していかなければならない。
「でもその戦法、ボス相手でも結構使えたりしない?」
 冥利に言われた煙はちょっと首を傾げたが、すぐに顔をしかめる。
「煙は疲れ知らずだから、まあいいけど……さすがにちょっと骨が折れるんじゃないかねぇ」
 何しろ渾身の気を撃ち込み、内部にダメージを蓄積して行くのだ。
「まあ……一応、後方に報告は入れとくかねぇ」
 肩と腕をコキコキと鳴らして、また敵に向き直る。
「さて、次いってみようか」

「追って来ないみたいだね」
 昶が、岩の陰から後方を確認する。
 北都も【禁猟区】で気配を読みながら、構えていた弓を降ろした。
「知能はそう高くないけど、巣と女王を守る役目は認識してるみたいだね」
「ま、本能だろうけどな」
 ウィニカたちの待避行動が済んだ後も、二人はその場で雑魚の相手を続けていた。
 戦闘と離脱を繰り返すことで雑魚を「巣」から引き離そうと試みていたのだが、なかなか思うようにいかない。
 一匹一匹は、やはりたいした強さではない。
 だが、再生力の強さと増殖の早さが問題だ。
 戦い続けるうちにすぐに膠着状態となり、次第にじりじりとこちらが不利になって行くのだ。
 圧倒的火力で殲滅するか、あるいは何か、一気にケリをつける方法を考え出すか……。
「ウィニカの為にも、これ以上長引かせたくないよね……」
 一人言のような北都の台詞に、昶も黙って頷いた。

「各チームから、報告揃いました」
 撤退する余裕がなく交戦中のチームも、洩れなくポイントと現状の報告が入っている。
 さらに、交戦で得たモンスターや地形の情報も、続々と集まっていた。
「この状況で……さすが、と言うべきでしょうね」
 戦略用にデータを纏めながら、彩羽が言った。
 雑魚モンスターの移動ルート、それぞれの戦力と特徴。甚五郎の作成したものに新しいデータを加えた、詳細なマップとその敵データが同期され、モニターに表示される。
 メンバーの現在位置もほぼ正確に把握された。
 そして、それぞれの現在位置と戦力から、チームを再編成する。

 戦闘エリアの拡大を最低限に防ぐ、A班。
 巣の周辺の雑魚を各個撃破、女王戦の「場」を整える、B班。
 巣を急襲、巣から雑魚を誘き出し、女王を撃破。これがC班。

 それぞれの担当を振り分け、データを送る。 
「編成データを送ります。なお、現実的に不可能と判断した場合は、かまいません、臨機応変に動いてください」

「……ファニ、俺の担当は?」
 岩場を登りながら、エヴァルトが聞いた。
『A班よ。最前線、Pポイントの防衛。つまり、このままそこで足止め続行ってこと』
 後方に待機しているファニの声が答える。
「ここを抜かれると、ウィニカたちに危険が及ぶか……ふん、もちろん抜かせないぜ」
 不敵な笑みを浮かべるエヴァルトを振り返り、前を歩いていたセレンが言った。
「あたしたちはB班だって……離脱するけど、ここはまかせていい?」
「えっ」
 エヴァルトは一瞬表情を強張らせてすっ頓狂な声を上げたが、すぐにまた笑みを浮かべて頷いた。
「もちろんだ、まかせろ」
『もう、ええかっこしいなんだから……』
 呆れたようにファニがつぶやく。
『安心して、ちゃんとそっちにも応援が行くよ』
 エヴァルトはちょっと頭をかいて答えた。
「お、おう。助かるぜ」