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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■幕間:熟練者に学ぶ正しい戦い方

 黒板を前に、用意された机と椅子が二人分並んでいる。
「今日は僕と――」
「オレが――」
 二人揃って口を開いた。
「講師役だ。よろしく」
 八神 誠一(やがみ・せいいち)日比谷 皐月(ひびや・さつき)はノートを広げて座っている優里と風里の姿を見つめながら続けた。
「強い奴はとことん強い、そう考えたことはありませんか?」
 八神は一歩前へ出ると言った。
 風里はその言葉にうんうんと頷いている。
「そうですね。たしかに経験による実力差がある人物というのは存在します。ですが強いという自信は、過信や油断に繋がりやすく、弱いという自己認識は慎重な行動を心掛け易いという事を忘れてはいけません」
 八神は黒板に過剰な自信と自己認識に関して記していく。
 重要な点を書き終えると続けた。
「では、ここで改めて考えてみましょう。過信や油断をしている者と、慎重に行動する者、どちらに隙が多いと思います?」
「隙だけで言うなら前者ですか?」
「そのとおりです。ここで、強いという自信と、弱いという自己認識の印象は逆転し、強いという自信が弱点となり、弱いという自己認識が優位性足りうると言う事になります」
 八神は再度、黒板に重要な点を書き連ねていく。
「でも強い人は強いことに変わりはないのよね?」
「そうですね。でもこれが達人同士になればどうなるか考えてください」
「……なるほど。過剰な自信は達人を弱者にしてしまうのね」
 正解です、と八神は言った。
 そして続ける。
「この考え方は今後パラミタで生きるうえで大切なことですから肝に銘じておいてください。場合によっては命に関わります」
 真剣な面持ちでノートに文字をつづっていく優里の姿を見て、八神は無言で頷く。
 真面目に話を聞いてくれるというのは嬉しいものだ。

                                   ■

 講義は続く。
「全生命体の中で、人間と言うのは非常に弱い生き物です。にも拘らず、今現在万物の霊長と言われるまでに繁栄しています。それは何故だと思います?」
「道具が使えるから?」
 優里の答えに八神は惜しい、と応えると続けた。
「それだけでは50点です。道具、武器などを用いたり、心身と技術を鍛えるだけでは強大な存在に抗う事は出来ません。特にパラミタに生息する龍種などはその最たる例でしょう。では何がここまで人類を強くしたのか」
 八神は言うと黒板にその答えを記した。
「武器のみではなく、罠、薬物といった様々なものを、その智恵と技術を持って駆使し、正面からでは倒せない相手をどうやって倒せば良いかを考える事が出来たからです。つまり、思考能力こそが人間にとって最大の武器と言っても過言では無いと言えます。そしてこの戦闘に於ける思考の事を『戦術』と言います」
 八神は告げると後ろへ下がった。
 そして今度は日比谷が前へ一歩出る。
「ここからは俺が講義をしよう」
 二人を見ながら続ける。
「ランチェスターの法則、って知ってるか?」
 二人は首を横に振った。
「まあ普通に学生してたら知らないわな。いくつかの前提に基づいて戦力と戦力比を求める方程式に始まり、強者と弱者の立場からそれぞれが採るべき戦略の模範を示した物で、まあ戦闘モデルみたいなもんだな。で、今回は特に弱者の戦略について……」
 そこまで言うと言葉を区切る。
「あ、注意しておくけど。自分が相手より強いだなんて死んでも思うな。さっき八神も言ってたが、弱者だろうが強者だろうが優位性は存在する」
 講師二人が言うのだから余程大切なのだろう。
 そのことが理解できているのか、二人は力強く頷いて見せた。
 その様子に日比谷は気を良くする。人の話を聞くのは大事なことだ。
「局地戦と陽動の二つを今回は説明するが――」
 それから二人は自分たちが得意とする戦い方で敵が相対しなければならない状況を作り出すことにはじまり、敵の行動を誘導したり予測するといった戦術論の講義を受けることとなった。
「戦略にも戦術にも落とし込める理論だから、覚えといて損はねーぞ? 強者の優位性はまた今度な」