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心はいつも冬景色な私

「さて皆様。これより先のツガル海峡、ご主人様……じゃなかったハデス博士の命によりこのヘスティアが冬景色にしてさしあげましょう!」
 次の難関【ツガル海峡】の入り口前では、ヘスティアが立ちふさがっていた。
「と、いうわけでこのルールをよく読んで、準備ができたら入ってきてくださいね。それではお待ちしております」
 ヘスティアは入り口に設置してある看板を指すと、頭を下げて中へと入っていく。

――第肆の難関【ツガル海峡】
 このステージは、つり橋を渡り切るアトラクションだ。
 ただしただ渡るだけではなく、挑戦者の誰かが投げる補給物資と言う名の大きな光る玉を受け取り、ゴールまで抱えていく必要がある。つり橋は非常に不安定であり、抱えた状態ではバランスを取るのが難しくなっている。
 更に防衛側からの妨害もあり、単純であるが難しいアトラクションとなっていた。

「この難関、俺が行こうか」
「あ、私もやりたい」
 誰が挑戦するか、という話になり名乗りを上げたのは永谷と佳奈子であった。
「それじゃ私が補給物資を投げる役をやるわ」
 そしてエレノアがサポート役を名乗り上げ、役割が決定した。シオンは他に名乗り出るのが居るならと、牙竜は先程のダメージが抜けきらない為今回は控えである。
「ちょっと待ってください。まずは私が挑戦してもよろしいでしょうか?」
 着々と挑戦者が決まっていく中、アルテミスが手を挙げた。興味津々といった表情である。引っ込み思案は何処へやら。
 その表情に誰も駄目、とは言えなかった。特に異議も無く、最初に挑戦するのはアルテミスに決まった。
「ふっふっふ、任せてください。何ならこのアトラクション、クリアしてしまっても構わないのですよね?」
 不敵な笑みを浮かべるアルテミス。いや引っ込み思案何処行ったんだ本当。
「それでは……オリュンポスの騎士アルテミス! 風雲レティロット城の攻略へと参ります!」
 意気揚々と乗り込むアルテミス。
 しかしアルテミスは気づいていない。先ほど、死亡フラグを立てたという事に。

「こ、この私が負けるだなんてぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
 ドップラー効果を残しつつ、アルテミスがつり橋から落下していく。そして、ぐちゃりと鈍い音が響いた。
「さーて、お次の挑戦者は誰ですか?」
 巨大なウェポンコンテナを装着したヘスティアが笑みを浮かべて挑戦者たちに問う。
 ウェポンコンテナには【六連ミサイルポッド】が三つ装填されていた。ミサイルポッドは通常の物と違い、弾頭にバレーボールが装着してある特別仕様である。
 これをどうするかと言うと、挑戦者に向かってばら撒くのだ。妨害の為に。妨害の意味を改めて考え直す必要があると思う。
 ただでさえ不安定な足場で、こんな物を食らってはひとたまりもない。ミサイル集中砲火の前に、アルテミスはなすすべなく散ったのであった。
「先程同様、ギブアップなさいますか?」
 ヘスティアが笑みを浮かべて問いかける。えげつない事やっておいて怖いよこの人。いやこの機晶姫。
「さ、先走っちゃったかなー」
 佳奈子の頬を冷や汗が伝う。『私女の子だから、妨害っていっても少しくらい手加減してくれるんじゃないかなー?』なんて考えが佳奈子には僅かながらにあったのだが、それは甘い考えだったと今更ながら少し後悔していた。
「佳奈子、止めるなら今の内よ?」
「う、ううん。やるっていったからやるよ」
 エレノアが心配そうに言うが、佳奈子は首を横に振る。
「それじゃ最初の予定通り、次は俺達で行くか」
「お、おー!」
 永谷がそう言うと、佳奈子が拳を握りながら言った。

「い、いたっ! 痛いっ! 痛いし冷たいっ!」
 ばしばしとお尻にミサイルを当てられ、佳奈子が悲鳴のような声を上げる。ちなみにミサイルには氷属性がついており、冷たくなっていた。
「うわ、っとっとっと……」
 危うくバランスを崩しそうになるが、何とか物資を抱えて堪えると佳奈子はヘスティアに背を向けてゴールへと歩を進める。攻撃を避けるのではなく、あえて覚悟を決めて受け切る作戦であった。
「よ、っと!」
 対して永谷はミサイルを避けながら舞う様に歩を進める。先程のアルテミスの犠牲により、ミサイルの弾道を予測しての回避である。
「むぅ、しぶといですね」
 少し渋い表情を浮かべ、ヘスティアは放ったミサイルを再装填。
「ですがここまでですよ。さぁ、大人しく冬景色の一部となっていただきましょうか!」
 そしてコンテナ展開。発射。
 放たれたミサイルは永谷と佳奈子へと向かっていく。
「よっ、ほっ、ふっ……と」
 だが永谷は袴を翻しつつ避け、
「いたたたたたた!」
佳奈子は全弾をお尻で受けつつも、バランスを保っていた。
「うーむ……二人で来るとはちょっと予想外でしたかね」
 ヘスティアがその様子を見て呟く。
 ミサイルはある程度狙いをつけて命中精度は高めているが、二人相手だとどうしても分散されてしまうため一人に対しての数が少なくなる。
 その為永谷は避けるのが僅かながらも容易となり、佳奈子も本来であればひとたまりもない攻撃であるが何とか耐え切る事ができるのであった。
 その繰り返しで着実にゴールへと近づいていき、遂には二人とも転落することなく橋を渡り切るのであった。
「ふぅ、結構厳しかったな」
 流石に何度かひやりとさせられるところもあり、無事わたり切ったことに永谷が安堵の息を吐く。その横で佳奈子が「あうぅ……」と崩れ落ちた。
「お、おい……大丈夫か?」
「お、お尻痛い……」
 永谷の問いかけに、佳奈子がお尻を押さえつつ半べその表情になる。全弾受け切った結果である。
「無理するから……」
 佳奈子を解放しつつ、エレノアが呆れた様に呟いた。
「あらあら、渡り切られてしまいましたか。おめでとうございます皆様。このまま次のアトラクションへとお進みください」
 少し残念そうな顔をしたが、ヘスティアが順路へと皆を促す。
「……そういや、落ちたあの人大丈夫なのか?」
 永谷が思い出したように崖を見る。下の方には、ピクリとも動かないアルテミスが横たわっていた。
 ちなみにこの競技、契約者のアトラクションという事で下に安全用ネットなんてものは存在しない。橋から落下した場合、そのまま地面に叩きつけられ土に還る事となる。
「ご安心ください」
 ヘスティアが笑みを浮かべた。
「処理はきっちりとしておきますので」
そして笑顔でとんでもない事をさらりと言ってのけた。
 とりあえず、アルテミスの死亡フラグは回収されたのは確かであった。