天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

学生たちの休日10

リアクション公開中!

学生たちの休日10
学生たちの休日10 学生たちの休日10

リアクション

 

ヒラニプラのションダンジエ

 
 
「ようし、予定高度に近づいたぞ。さすがに、小型飛空艇では、浮遊機晶石の力を借りてもこれが限界だね。準備はいいかな?」
 三船甲斐簡易移動ラボを操船する三船 甲斐(みふね・かい)が、格納庫で待機している鳴神 裁(なるかみ・さい)物部 九十九(もののべ・つくも))に確認をとりました。
 現在、鳴神裁たちが挑戦しようとしているのは、超高高度からのスカイダイビングです。
 推進剤や揚力を必要としない大型飛空艇であれば、理論上はゆっくりとした加速を続けていけば大気圏すら突破できます。けれども、あくまでも理論上であって、実際にはシステムが低温で凍りついたり、気圧変化に乗務員や船体・機体が耐えられません。異界対応処理をしなければ、高度10キロあたりからいろいろと支障が発生するわけです。
 そこをガン無視して上っていった三船甲斐簡易移動ラボでしたが、当然20キロぐらいでシステムが限界に達しました。よく頑張った方です。
「これ以上無理だろう。落っことせ」
 自分も挑戦するつもりだったのに、装備がなくて断念した猿渡 剛利(さわたり・たけとし)が言いました。
「よおし、発進だよ。グッドラック!」
 そう言うと、三船甲斐が大型飛空艇の船倉のハッチを開きました。
ごにゃ〜ぽ☆ いっくよー♪
 鳴神裁が勢いよく飛び降りました。
 このダイブ用に三船甲斐がパワードスーツのNYA☆GA☆SO☆NE☆さんを改造してフルアーマータイプにしてくれています。これならば、落ちている途中で四肢が吹っ飛ぶとか、全身が凍りついて砕けるとか、断熱圧縮で燃え尽きるとかはなさそうです。ないといいなあ〜。
『うううっ、根性だあ』
 アンダーウエアの魔鎧として鳴神裁の身体をつつんでいるドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が気合いを入れました。
 いくらパワードスーツで防御しているとは言え、外気温はマイナス……何度か考えると気絶しそうですから、考えないことにします。
『さ、寒いよー』
 足のパーツとなっている黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)が悲鳴をあげました。無理矢理パワードスーツの一部扱いにされているので、いくらギフトと言っても、もろに外気温の変化に晒されています。
『――暖めればいいんだよね』
 見かねた物部九十九が、火術で全身をつつみ込みました。さすがにこの程度ではパワードスーツはびくともしません。ほとんど凍りついていたパワードスーツ内がほんのりと暖かくなります。
「そろそろパラシュート開くよ。えーい!」
 対流圏に突入し、ビュウビュウという風の音を外部マイクから拾いながら、鳴神裁がパラシュートのスイッチを押しました。バックパックから、パラシュートが飛び出します。音速に近づくほど加速されていた鳴神裁の身体が一気に減速……されません。あっという間にパラシュートが裂けてしまっています。さらに、物部九十九の火術の火がロープに燃え移って、びりびりに破けていたパラシュートがあっという間に吹っ飛んでいきました。
「ちょっと、これどうなって……。まさか、剛利、あのパラシュートどこからもらってきたんだ?」
 状況を見守っていた三船甲斐が叫びました。いろいろと無理はあっても、対策はそれなりに万全だったはずです。
「どこからって、ちゃんと教導団の備品から、パラシュート降下兵用の物をもらってきたんだが」
「あっやー、それじゃ、耐久力的に無理!」
 ただでさえ、高度が非常識です。当然、スピードも通常の数倍出るため、パラシュートの厚さも紐の強度も規格外でなければ保つわけがありません。
「ええと……。な〜む〜」
 どうしようかと思いつつ、三船甲斐がとっさに両手を合わせて拝みました。
「化けて出るなら、剛利の所へ……」
「おい!」
 あっさりと見捨てられた鳴神裁です。
『と、とまれえ〜!!』
 ドール・ゴールドが、必至にグラビティコントロールで減速しようと頑張っています。
 そのおかげで少しは減速しましたが、どちらにしろこのままでは地上に激突です。
「ごにゃ〜ぽ。まだまだあ!」
 背後に手を回した鳴神裁が、撃針を取り出しました。変形させてボードの状態にします。
 凄まじい風の中、なんとか撃針を吹き飛ばされないようにするのが精一杯です。それでも、やっとのことで足許へともっていきます。
『えいっ!』
 近づいてきた撃針に黒子アヴァターラマーシャルアーツがしっかりと噛みつきました。外れないように両足を固定します。
「風に乗るよお!」
 まるでサーフィンをするように、鳴神裁がポーズをとりました。
 撃針が風を捉えます。
 落下の軌道が変わりました。地面にむかって真っ逆さまだったのが、そのスピードを宙を滑空する力へと変えていきます。
「風に乗ったか。やれやれ」
 三船甲斐がほっと安堵の息をつきました。
 着地地点が大幅に狂いましたが、なんとかヒラニプラ山中に鳴神裁が着地します。
「ふう。大変だったけど、面白かったよ」
 危機一髪だったわりには、あっけらかんと鳴神裁が言いました。
「よし、じゃあ、今度は普通のパラシュートでも大丈夫な高度でスカイダイビングしようぜ」
「なら、今度はボクの番だよ」
 鳴神裁と交代してもらった物部九十九が、猿渡剛利に言いました。
「まだやるのか」
「うん」
 ちょっとこりごりしていた三船甲斐に、猿渡剛利と物部九十九がニコニコと答えました。