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学生たちの休日10

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葦原明倫館の正月

 
 
 ここは、コミュニティ、世界すてき発見!で使っている建物です。
 今日は、大掃除が行われていて、男性陣は大忙しです。女性陣も、おせち作りでてんてこ舞いでした。
「さて、わらわの担当は、伊達巻きかのう」
 神凪 深月(かんなぎ・みづき)が、和服にたすき掛けしてから割烹着を着て厨房に立ちます。髪も結い上げているので、なんだかお母さんっぽいです。頭の上には、猫の姿になった深夜・イロウメンド(みや・いろうめんど)が乗っています。
 神凪深月が、はんぺんをすり鉢ですり下ろすと、卵と砂糖と出し汁を混ぜて、角形の卵焼き器で焼いてから、すだれでクルクルと巻いて伊達巻きにします。
「どれどれにゃ」
 深夜・イロウメンドが、猫の手をちょいちょいとのばして、つまみ食いしようとしました。
「こら」
 神凪深月に怒られたとたん、爪に引っ掛けかけていた伊達巻きの端っこが千切れてまな板の上に落ちます。
「もう仕方ないんだから」
 伊達巻きの欠片を深夜・イロウメンドにあげると、神凪深月が千切れたもう一方を、一緒に調理をしているオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)の方に差し出しました。
「はい、あーん」
「えっ? あーん」
 一瞬躊躇してから、オデット・オディールがパクンとそれをいただきました。
 オデット・オディールが作っているのは筑前煮です。鶏肉に、ゴボウ、人参、レンコン、タケノコ、コンニャクを乱切りにします。トントントンと、まな板の上で踊る包丁の音が小気味いいです。それをフライパンで炒めてから、出し汁でコトコトと煮込みます。
「御機嫌じゃのう」
「えへへっ♪」
 神凪深月に言われて、思わず照れ笑いをします。
 二人によってどんどんおせち料理が作られていく間に、リビングでは大掃除が続けられています。
 普段通りの、黒いスーツにサングラスの狼木 聖(ろうぎ・せい)が、そのままの格好で割烹着を着け、パタパタと叩きを駆け回っています。なんとも、珍妙な格好です。ある意味、神凪深月とお揃いのお母さんルックとも言えます。
 パーカーの袖をまくり、なぜかエプロンを掛けたフランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)の方は、重曹を使ってソファーを磨いています。
「ちょっと手伝ってくれへんか? タンスの裏も徹底的にやってまおう」
 狼木聖に言われて、タンスを動かすのにフランソワ・ショパンが手を貸します。案の定、タンスの裏は埃だらけです。それを徹底的に掃除機で吸って綺麗にします。
「ソファーも動かす?」
 ついでだと、ソファーも動かして、その下に入り込んでいた物をきちんと取り除きます。
「あら、なんだか、いい匂い……」
 フランソワ・ショパンが鼻をクンクンさせると、厨房の方から神凪深月が小皿を持って現れました。
「ちょっと味見してくれる?」
 言われて、狼木聖が、小皿のすまし汁を飲んでみます。
「うん、いいんとちゃう?」
 関東風の澄んだ出し汁です。おそらくは、お雑煮用なのでしょうが、だったら、狼木聖としては関西風の白味噌を希望したいところです。
「ありがとう、お母さん」
 そう言って笑いながら、神凪深月が厨房の方へと去って行きます。
「誰が、お母さんやねん。おかんに言われとうないわ」
 おんなじ格好をした神凪深月に、狼木聖が言い返します。それを聞いて、フランソワ・ショパンが声を殺して笑いました。
 さて、無事に大掃除も終わり、おせちもできあがりました。
「それじゃあ、みんなお疲れ様だったのう。今年もいろいろあったが、来年もよろしく頼むぞ。それでは、よい年を!」
 神凪深月が音頭をとって、一同は乾杯しました。