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第4章 雅羅打ち

 ヤル!ヤル!ヤレ!ヤロウ!
 幸せ☆恋愛計画♪
 夢見るような貴方のを♪
 ギュギューッ!としたげる♪
 起きて♪作ろう♪
 恋愛計画♪

 想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が纏うはフリフリ可愛いアイドル衣装。
 その口から流れるのは、☆や♪いっぱいのアイドルソング。
 夢悠は男の娘アイドルとして、以前関わったKKY108と共にステージにあがっていた。
 アイドルを目指している彼にとって、ステージは夢のひとつ。
 その上、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)も同じステージにいるのだ。
 彼女に見られるのは少し恥ずかしいけど、一層気合が入るというもので……あれ?
「私ばかり……不幸は嫌ーっ! 皆皆不幸になればいいのよ!」
 雅羅は、明らかに打ち合わせと違う歌を歌っていた。
 いや、それは歌というよりも魂の叫びだったのかもしれない。
(雅羅さんがおかしい……! あれが話に聞く、煩悩に取りつかれたってやつなのか?)
 夢悠は歌いながら雅羅に近づいていく。
「不幸不幸不幸ーっ! 私に近づいたら不幸になっちゃうのようふふ……」
 煩悩なのか実体験なのか微妙なラインの歌を歌い続ける雅羅。
 その歌を聞いた観客は「ううう……私って不幸」「不運だー」と落ち込み始めている。
「不幸だぁ? 俺様の前に、雅羅おっぱい! それだけで幸せってもんだろが!」
 雅羅の歌をかき消すような大声が響く。
 それも、TVで流しちゃいけないような内容の。
 声の主、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)はステージに駆け寄ると、雅羅に向かって某怪盗3世的なジャンプアンドダイブ!
「うぉおおおおお!」
 他のアイドルも巻き込んで転がりながら着地したゲブーの目の前に、大きな山脈が!
「おぉお、これはまさしく雅羅おっぱい! 揉み……いや、エステに参りましたぁっ!」
「ひっ!」
 もみっ。
 もみもみもみもみ。
 ゲブーの手がふたつの山を鷲塚むと、そのまま『エステ』を開始する。
「ぁ……やぁんっ」
 山脈の主から甘い声が漏れる。
「ひゃはははは気持ちよくなってきたか……ん?」
 必死に揉みしだいていたゲブーは、しかしふとその感覚に手を止める。
 以前に揉んだ雅羅の胸に比べ、何か違和感があるような……
「これは、雅羅おっぱいとは違う!?」
「どぉおおおりゃぁあーっ!」
 ゲブーの手が止まったのとほぼ同時に。
 彼の頭上に、小さな影が映った。
 影はどんどん大きくなっていき、そしてとうとう実物が彼の頭に!
 ごい〜んっ!
「雅羅へのセクハラは許さないわよっ!」
 ゲブーに見事なかかと落としを決めたのは、白波 理沙(しらなみ・りさ)
「ぐ、ぶぅ……っ。し、しかし一人の雅羅おっぱいを阻止されても、まだ他の雅羅おっぱいが……あれ?」
 おっぱいが6個。
 雅羅おっぱいが3人分ある。
 そう。KKY108には、雅羅とそっくりな双子のアイドルが存在したのだ。
「私は不幸じゃないー!」
「私もアンラッキーじゃない!」
「ううう、でもあんな目にあわされて……やっぱり不幸ね」
 しかもどうやら同じような煩悩に取りつかれているらしい。
「ああ、雅羅たちがまた大変な事に! よーし、こうなったら3人纏めて私が元に戻してあげるわ!」
 ゲブーを沈めた理沙は、手をぱきぱきとしごきながら雅羅たち3人に向き直る。
「え……」
「ひっ……」
「やっぱり、不幸ね……」
 そんな理沙を見て怯え固まる3人。
「ちょ、ちょっと理沙さん!」
 その間に割って入る、3人にとっての救世主。
 それはチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)だった。
「あなた、ご自分の力を忘れてしまってますの? あなたがやったら雅羅さんたちが砕けてしまいますわ!」
「大丈夫よ。ちゃんと加減するし」
 やる気まんまんの理沙の腕が、後ろから拘束された。
「いやいやほんと、お前はやめとけ」
「ええ、あなたのチカラ加減はちょっと心配だわ……」
 理沙を羽交い絞めにした龍堂 悠里(りゅうどう・ゆうり)の言葉に、白波 舞(しらなみ・まい)が深く同意する。
「もう、ほんとに大丈夫だってば。それより早く雅羅たちを止めないと」
 それでも尚引き下がらない理沙に、悠里が説得の言葉を口にする。
「でもほら、雅羅はあの体質だから……な?」
「む……」
「ついうっかり手元が狂ったり、攻撃の直前に目の前に虫や刃物が降ってきたりするとも限らないし……」
「そうそう。打つ直前に雅羅の前の床が崩れてついMAXの攻撃が直撃するとか……」
「雅羅さんが急に何かに目覚めて自分から当たりに行かないとも限りませんわ」
 次第に説得だかファンタジーだか分からない体になってくる。
「そ、そこまで言うなら……」
「よし! ほら、舞、理沙がやる前に雅羅を頼む!」
「ええ!」
「ま、まぁ他にやる人がいるなら別に構わないけど……」
 ようやく理沙は引き下がったが、その気が変わらない内にと慌てて舞は雅羅たちの元へ駆け寄る。
「あ……いや、雅羅はオレが元に戻す!」
 今までの怒涛のやり取りをつい見守っていた夢悠は、やっと気を取り直すと雅羅の元へ走る。
「お、おっぱいは俺様の嫁だぜ〜!」
 理沙の攻撃からようやく立ち直ったゲブーもまた、よろけた足取りで歩き出す。
 そしてゲブーは先程揉んだ雅羅のそっくりアイドル、沙良・サラーへ、いや、そのおっぱいへ手を伸ばす。
「ひやぁああ……」
「なんてな」
 ゲブーの手は、沙良のおでこへ。

「それじゃあ、ええと雅羅のそっくりさんの……」
「璃良です……うう」
「そうそう。璃良・サラーさん、いくわよ」

「ええとその、雅羅さんごめんなさい!」
 夢悠は両手で雅羅の肩を持つと、片手を雅羅の後頭部に回す。

 ゴーン!×3

 3つの音が重なった。