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悪戯双子のお年玉?

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悪戯双子のお年玉?
悪戯双子のお年玉? 悪戯双子のお年玉?

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「……これが夢か。不思議な物だな」
 狂った魔力による精神疲労によって夢を見た事のないグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)から貰った夢札を使用し、夢を見ている。
「この姿は俺なのに俺ではない。だが、この感覚……」
 グラキエスは体を自在に動かす事が出来ない事、発するこの声が外に出ていない事を知る。しかし、不安は無く、知った感覚を感じていた。今までに度々、感じていた事。
「……俺はあなたに伝えたい事があった。今なら伝わるだろうか、グラキエス……いや、エンド」
 グラキエスは知った感覚、昔の自分に語りかけ始めた。

「ここがグラキエスの夢か。で、あいつはどこに……」
 夢札を使用し、グラキエスの夢に来たロア・ドゥーエは夢の主を捜し始めた。

 主はすぐに見つかるもロア・ドゥーエはすぐには駆け寄らず
「おい……って、あれはエンドの頃のグラキエスか? すげぇな」
 驚きの声を上げていた。まさか、昔のグラキエスに会えるとは思っていなかったのだ。夢だからこそ有り得る状況に改めて感心していた。
「おい、エンド!」
 ひとしきり驚いてからロア・ドゥーエはグラキエスに近づき、声をかけた。
「……」
 声をかけられたグラキエスは意志の無い目にロア・ドゥーエを映した。
「エンド、俺の事分かるか?」
 ロア・ドゥーエは自分を映した金色の瞳を見つめながら問うた。
「……」
 グラキエスは何も答えず、顔を背け、虚ろな瞳であらぬ方向を眺めている。その体は存在する事に疲れたかのように薄く透き通り始めた。
「消えるな、エンド!」
 慌てたロア・ドゥーエは引き留めようとグラキエスを抱き締めた。
「……本当にごめんな。一緒にいて守ってやるって言ったのに。果たせなくて」
 ロア・ドゥーエは必死に謝る。弟分のグラキエスを守れなかった事が今でも今だからこそ強く心を疼かせる。抱き締めているグラキエスの感触が少しずつ消えていく。
「……もう恐がらなくてもいいんだ。お前が消えたがっている理由も死にたがる理由も分かってんだ」
 ロア・ドゥーエは必死に自分の思いを言葉にする。腕の中のグラキエスの感触はどんどん消え少しずつ空気に紛れていく。
「俺達がいなくなるのは自分のせいだって、魔力の暴走の時にゴルガイスが逃げたのを見て自分の狂った魔力は仲間を殺しちまうって分かって辛かったろ。でもな、あれから時間は経った。俺もゴルガイスも今はすげぇ強くなったんだぜ。だからお前の恐れも不安も何もかも全部守ってやる」
 ロア・ドゥーエはつらつらと話しを続ける。

 そこに
「……エンド、逃げた我をさぞ恨んだだろう。だが、遅いと言われようと拒まれようと、救いたいのだ。もう二度とお前の側を離れぬ。如何な苦難があろうとも……我は共に生きたいのだ」
 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が現れた。ゴルガイスはグラキエスが一度目の記憶喪失の原因となった出来事を思い出していた。自分はグラキエスを助けるどころか逃げ出したのだ。それがずっと心を苦しめていた。ちなみにゴルガイスはロア・ドゥーエがグラキエスに悪戯をしないかと心配で来たのだ。

「……」
 グラキエスは振り向く事も言葉をかける事もしない。自分の存在を消し続けるばかり。
「消えないで下さい。君は私達にとって大切な存在です。エンド、私が伝えた言葉、君を愛し幸せを望んだ彼の言葉を覚えていますか? 彼一人の強い思いだけで私を魔道書にまでしたんです。彼の思いは嘘偽りのないものです。信じて下さい」
 ゴルガイスと共に来たロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)が景色が透けて見えるグラキエスの後ろ姿を見つめながら必死に言葉をかける。以前、グラキエス達が地球へ行き、自分に記録されたグラキエスとロア・ドゥーエを造った研究者の言葉を再生した時の事を。研究者がどれほどの思いを抱いていたのかも伝える。その証拠が研究者と同じ姿のロア・キープセイクなのだ。それほど研究者の思いは強かった。
「……」
 グラキエスは黙り込むばかり。ロア・キープセイクはそれでもいいと思っている。受け入れてくれるのはいつかでいいと。

「お前の側にはずっと俺達がいる。もう隠れなくていい。俺達と一緒にいようぜ」
 ロア・ドゥーエは力強くグラキエスの体を抱き締めた。抱き締めている感触などもう無いのに。

 グラキエス、いやエンドの心の奥。
「……皆の言葉が聞こえるだろ。俺は皆と生きたい。ずっと思っていた、苦しみ死を望むあなたを置いて自分だけが皆と生きていていいのかと。だが、グラキエスはそれに耐え生きる希望を持った。怖れずに聞いて欲しい、あの声が俺を支え希望を生んでくれた。俺はグラキエスの希望を繋ぎたい。もう一度言う、俺は皆と生きたい。感じるだろう、皆の心が。あなたは俺なのだから」
 グラキエスは三人の言葉を聞きながら必死に語りかけていた。

 そして、その答えは現実に
「……エンド!?」
 ロア・ドゥーエは喜びの声を上げた。腕にグラキエスの感触が徐々に戻って来た。消失が止まったのだ。

「エンド!」
「いてくれるのか」
 ロア・キープセイクとゴルガイスも声を上げた。
「……」
 グラキエスは何も喋らず、優しいほのかな笑みを三人に向けるばかり。
 三人にはそれで十分だった。

 前触れもなく世界は白み、四人を現実へと引き戻した。

「……」
 夢から覚めたグラキエスはぼんやりとしていた。
「どうでしたか、夢は?」
 ロア・キープセイクがグラキエスに聞いた。夢の出来事が気になりながら。
「……覚えていない。何か見たのは確かなはずなんだが」
 グラキエスは少々残念そうに答えた。確実に夢が見られると聞いたのに覚えていなければ意味が無い。
「……そうか」
 いつの間にかグラキエスの様子を見に来ていたゴルガイスが会話に加わっていた。
「……でも優しい夢だった気がする。なぜか幸せな気分がするから」
 グラキエスは胸に手を当てながら心に残る幸せな感覚を二人に伝えた。
「……優しい夢、か」
 ゴルガイスはグラキエスの言葉をかみしめ、エンドに贖罪が受け入れられたと感じていた。
「夢はいいものほど忘れるものですよ」
 ロア・キープセイクは何事もなかったように微笑んでいた。
「……そうか」
 グラキエスはうなずき、もう少しの間胸に残る幸せな気持ちを感じていた。