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【ですわ!】パラミタ内海に浮かぶ霧の古城

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【ですわ!】パラミタ内海に浮かぶ霧の古城
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第9章 終幕への……

 森の中を進む生徒達。
「見つけたよ! ブリザード!」
 空色のレオタード風コスチュームに身を包んだ革命的魔法少女レッドスター☆えりりん!(藤林 エリス(ふじばやし・えりす))は、見つけた敵より早く魔法を繰り出した。
「ほとぼりが冷めたら溶かしてあげるわ。瞑想でもして頭を冷やすのね☆」
 手を振り、ワイルドペガサス・グランツで脇を駆け抜ける。
 すると、後方から歌が聞こえてきた。
「援護いきますよ、エリスちゃん♪」
 魔女っ子アイドルあすにゃん(アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー))の歌により、エリスの魔法攻撃力が上昇する。
「ありがとうね。ちなみに今はエリスじゃなくて、革命的魔法少女レッドスター☆えりりんだよ」
「そうだった! 間違ってごめんね、エリスちゃん☆」
 小舌を出し、笑いながら追い抜いていくアスカ。追いかけるエリスもなんだか楽しそうだった。
 そんな二人を、木々の隙間から狩人が狙っていた。
 最適な位置に移動すると、音を立てぬように弓をゆっくり構える。
 唾を飲む音さえ抑え、慎重に森をかける標的を狙う。
 そして――
「ここで魔法少女マジカルレイヤー海音☆シャナの登場です!」
 声に驚いた狩人の矢は、アスカから外れてあらぬ方向へ突き抜ける。
 振り返るとそこには、煌びやかな衣装のスカートを広げながら舞い降りる魔法少女マジカルレイヤー海音☆シャナ(富永 佐那(とみなが・さな))の姿があった。
「あなた達の動きは全て、風が教えてくれるのです!」
 佐那は風の力をかりて、こそこそと陰から狙ってくる敵を一掃して回っていた。
 狩人が弓を捨て、懐からナイフを取り出す。
「遅いです!」
 狩人が構えを取るより早く、佐那はアイススケーターのように地表を回転しながら接近すると、遠心力の加わった協力な蹴りを食らわせた。
 吹き飛ばされた狩人は、頭から大木に激突し気を失った。
「ふぅ……この辺りの敵は一掃できましたかね」
 佐那は乱れたブルーのウィッグを直しながら、カラーコンタクトが入った目で周囲を見渡す。
 すると、佐那の存在に気づいた禁断の赤き魔道書、ミラクル☆きょーちゃん(マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん))が駆け足で向かってきた。
「この人、えりりん達を狙ってた人ですか?」
「そうですよ」
 木の根元でのびている狩人。
 マルクス著 『共産党宣言』は佐那に視線を移すと、ペコリとお辞儀をした。
「ありがとうございました。これをどうぞ。虹色スイーツ≧∀≦で作ったあま〜い飴玉なのです」
 包み紙の中には、水晶のように透明で若干歪な形をした赤い飴玉が入っていた。
 舌の上で転がすと蕩けるように味が広がる。それは甘くて……とても甘くて……かなり甘く……。
「どうですか?」
「……虫歯になりそう」
 そんな彼女達のやりとりから離れた所では、魔法少女アウストラリス(アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう))が難しい表情をしていた。
「まだ見つけられないなんて。何か手を打たなくては……」
 当初から正確な位置がわからなかった四つ目の塔。アイリ達は調査書に記された島の南東周辺を捜索していたが、未だに見つけることができない。
「これが最後なのに……」
 そこへ馬に乗った赤城 花音(あかぎ・かのん)リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)がやってきた。
 身体から光を発していたリュートは、アイリの前で立ち止まるとほぼ同時に、限定解除が切れてマスコットキャラに戻ってしまう。
 聖騎士の駿馬の背から落ちそうになったリュートを、花音が手を伸ばして捕まえる。
「大丈夫、リュート兄?」
「ええ、すいません……」
 声に元気がない。
 生徒達は戦闘の連続で体力も精神もだいぶ削られ、各々表情に疲労の色が出ていた。
「こうなったら仕方ありません。一か八か、あの手を使いましょう……」
 アイリは携帯を取り出すと、おもむろに電話をかけた。
「……もしもし、恭也さん」

 電話を受けた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はアイリの提案に耳を傾ける。
「囮? いいよ、やってやる。気にすんな」
 木にもたれ掛り休んでいた恭也は立ち上がろうとする。
 瞬間、体中が悲鳴を上げた。
「ッ――な、何でもないさ、まだまだ余裕だぜ。じゃあ、準備があるから切るな」
 恭也は携帯をしまうと、脇腹に視線を落とす。傷口を押さえつけていた掌が真っ赤に染まっていた。
 これまでも激しい対空砲火の中で飛び回っていた恭也は、【リジェネレーション】が追い付かないほどのダメージを食らっていた。
 本来なら絶対安静の状態だったが、仲間達のためにそうは言ってられない。
「お疲れの所悪いが、もう一度だけ付き合ってもらうぜ」
 恭也は休んで傷を癒していたエアバイク【天狼】を起こし、再びハンドルを握る。だが、まるで嫌がるように、なかなかエンジンが掛からない。
 数回試した後に軽く蹴りつけると、ようやく観念したようだった。
「さぁ、最後の花火を打ち上げてもらおうか!」
 恭也はエンジン全開で【天狼】と共に森を駆け抜け、一気に上空へ飛び上がった。
 次の瞬間――眩い閃光が恭也を襲う。

「恭也さん!?」
 上空を最後の塔から放たれた砲撃が駆け抜けた直後、島全体に爆発音が鳴り響いた。
 アイリは恭也にかけ直すが、一向に電話をとる気配がない。
「……」
「おいっ! あれ見ろ!」
 森の奥でシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が声を上げる。
 生徒達が駆けつける中、アイリは暫く画面を見つめていた。
「アイリさん、先に行きますよ」
 走り去っていく佐那。
 アイリは画面から目を背け、携帯はポケットに押し込んだ。
 追いついたサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は、シリウスが指さす先を見て驚いた。
「あんな所に隠れていたのね」
 シリウスが指さした方角には入り江があった。
 砲撃により霧が薄れ、見てとれるようになった水面は大きく荒れていた。その冷たい水の中に存在している水晶の塔。
 アイリ達が探していた最後の塔だった。
「時間がねぇ! あれごとぶっ壊しちまおうぜ!」
 シリウスが入り江に入るため、石造りの階段に踏み入れる。
「――うおっ!?」
 その瞬間、頬を矢が掠めた。
 どこに隠れていたのか、森や岩場の影から狩人と魔法使いが続々と現れ、さらには水中から半魚人まで現れる。
「まだこんなに残ってたのかよ。しかも見たことない奴までいるし」
「シリウス、魔力はまだ大丈夫だよね。ボクが前に出るから援護を頼んだよ」
「あいよ、任された」
 サビクが武器を構え、シリウスが魔法携帯【SIRIUSγ】V2を使って戦闘モードを切り替える。
 魔法少女シリウス・マジカル。白を基調にした美しいその姿は、魔法戦闘に優れたシリウスの姿だった。
 階段を駆け下りはじめたサビクを援護する形で、シリウスが【さーちあんどですとろい】を放つ。
「突っ立てると燃え尽きるぜ」
 階段の中腹にできた踊り場で、服についた火の粉がついた魔法使いが慌てて飛び出してくる。
「どいてよね!」
 サビクは魔法使いを拳銃で撃ちぬき、向かってきた狩人を剣で切り裂き進んでいく。
「リュート兄、ボク達は弓兵を倒すよ」
「はい」
 駆け下りる生徒達を上から狙う狩人に、花音とリュートが向かっていく。
「みんなの邪魔はさせないんだよ!」
 雷を放ち怯んだ狩人達に、花音は馬上から振り払った雷公鞭を当てていく。
「この姿でもやれることはあります!」
 マスコットに戻ったことで剣を持てなくなったリュート。それでもパートナーとして花音と共に戦う。
「皆さんで、この霧を晴らすのです!」
 聖騎士の駿馬で蹴散らし、仲間を守り抜く。その瞳は、火がつきそうなくらい闘志に燃えていた。
 ふいに下の方から、アスカの透き通った歌声が聞こえてくる。 
「佐那ちゃん、思いっきり蹴っ飛ばしちゃっていいよ!」
「ありがとうございます! 見ていてください。魔法少女マジカルレイヤー海音☆シャナの戦い方をお見せしましょう!」
 アスカの歌で強化された佐那は敵に向かっていく。
 佐那は風で矢の軌道を逸らしながら、無光剣を投げつける。透明な刃を持つ剣は見事に一人を貫き、周囲の狩人達を驚かす。
 その一瞬の隙に懐へ飛び込むともう一本の剣で一人斬り捨て、さらに刺さった方を抜き去り、高速回転しながら両手の剣で狩人達を一掃した。
「皆さん、塔へ!」
 アイリ達が岩だらけのデコボコした入江を走り抜ける。
 塔を一直線に目指す生徒達の前に、半魚人が立ちはだかる。
 するとマルクス著 『共産党宣言』が、道を切り開くべく【サンダーブラスト】を放つ。
「これでビリビリにしてあげます!」
 激しい雷撃をくらった半魚人たちは泡へと変わっていく。
 脇を駆け抜けるエリスに、マルクス著 『共産党宣言』がウインクをしていた。
「よし、これであと――うわっ!? やってくれたわね!」
 エリスの目の前に塔からの砲撃が飛来した。今まで対空用に拡散していた攻撃が収束したため、その威力は岩盤をも容易く溶かすほどに、危険度を増していた。
「でも――威力だけね!」
 砲撃は確かに一発当たれたば致命傷レベルだった。
 しかし、一回ごとの間隔や、砲口代わりの丸い水晶を注意深く観察していれば、それほど脅威ではない。
 水面から突き出た水晶がキラリと光り、エリスは瞬時にステップを踏んで攻撃を回避した。そして、ここぞとばかりに魔法を放つ。――が、魔法は水晶の手前で見えない壁に阻まれてしまった。
「バリア!?」
「エリスさん、シリウスさん、解除方法を考えている暇がありません! 私達の全魔法をぶつけて突破しましょう!」
 アイリの言葉に、二人は力強く頷く。
 すると、シリウスが再び魔法携帯【SIRIUSγ】V2を取り出した。
「よっしゃ! 今ならいけるぜ! 変――身!」
「こっちも本気でいくわよ!」
 二人の体が、内から発した眩い光に包まれる。
 魔力が徐々に形を作り、二人の衣装を変えていく。
 シリウスの背中から美しい翼が生え、想いが力となったその姿は神々しいほどに輝く。
「魔法少女シリウス・ヴァンガード! 超国k……魔法少女として、てめぇらの悪事を終わらせる!」
 ?を基調としたエリスの魔法少女衣装は、まるでウエディングドレスように変化する。目に見える形となった光の粒子が、まるで生き物のようにエリスの体に纏わりつき、力を漲らせていた。
「愛と正義と平等の名の下に! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりん・アルティメット! あたしの行く手を阻む愚か者は力づくで退かしてあげる!」
 変身を完了した二人に、周辺の敵が焦りを見せ、雄叫びと共に襲いかかってくる。
 それらを、サビク達仲間が足止めしてくれる。
「ここはボク達に任せて! 決めてください!」
 アイリが二人の間に立ち、武器を構える。
「シリウスさん、えりりんさん、行きますよ!」
「ああ、全力でぶっ飛ばす」
「あたし達の力を見せてあげましょう」
 塔からの攻撃がアイリの目の前に落ちる。
 だが、三人は気にせず魔力を集中させた。
 相手の力に自分のを合わせ、自分の力に相手のを含ませる。
 そうして一つになった大きく魔力は、巨大な星の欠片となった。

「「「シューティング・メテオ・ストライク☆彡」」」

 三人のかけ声と共に、巨大な魔力の星は塔を押しつぶす。
 轟音と共に、大地が揺らぎ、海水が階段の上まで跳ね上がった。
 そしてバリアは砕けちり、大きく亀裂の入った塔の水晶は、辛うじて機能を維持していた。
「あとすこ、しまっ――」
 魔法を唱えようとしたアイリが膝をつく。
 ここまで戦い続けた彼女達の体は限界に来ていた。
「体がふらつきやがる」
「やりすぎっちゃたわね……」
 シリウスとエリスも、ヴァンガード形態、アルティメット形態、共に切れてしまう。
 目の前で、壊れかけの水晶がゆっくりと光りはじめる。
 ――砲撃を撃つつもりだ。
 三人は立ち上がることができない。
 サビク、アスカ、マルクス著 『共産党宣言』は敵に足止めされている。
 花音とリュートは上から助けにこようとしているが、間に合わない。
 このままだと直撃は免れないだろう。絶体絶命の状況。
 そんな時――
「諦めるにはまだ早いです!」
 三人の頭上を飛び越え、佐那が風のように駆けて行った。
 塔に向かって走ていた佐那は、地を蹴り、天高く飛び上がる。
「これで終幕です! Бердыш порыв(荒れ狂う風の一撃)!!」
 佐那は風を纏い、風となりて、上空から強烈な蹴りを叩き込む。
 既にバリアを展開することができなくなっていた水晶は砕け散り、海の藻屑を消えて行った。

 ≪バイオレットミスト≫が消えていく。
 残存の敵を片づけ、体を休める生徒達。
 そんな静かになった入り江に、アスカの歌声が響き渡った。
「歌姫の歌は静かに聴かなきゃダメなんだよ☆」