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彼女は氷の中に眠る

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彼女は氷の中に眠る

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 「……こんな場所って地図にあったかしら?」
「ブリーフィングでは村は地図に無かったはずよ」 
 小さな村の前に二人は佇んでいた。 
「もしかして迷った?」
「雪で視界が悪いとはいえ、私が見落とすなんてヘマはしないわ」

 「君達も迷ったのかい?」
 言い合う二人の前にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がやって来ていた。
「……違うと言いたい所だけど、その通りよ」
「エース達はどうして此処に?」
 エースの緑の瞳は先客であるシャーレットを見ていた。
「綺麗な鎖を拾ってね、何処かのレディーの落し物かと思って届けようとしている途中さ」
「残念だけど、あたしたちじゃないの」
「ふむ、どうやらお迎えの方がいるみたいですね」
「は?」
 シャーレットが不思議そうにメシエを見返した時だった。
 「皆さん、こんにちは」
 雪原の上に白髪の青年が立っていた。
「誰だ?」
 エースの問いに青年は笑みを作って返す。
「僕は、ハンス・グリムス」
「ハンス?」
「そう、僕はハンス。お兄さんとお姉さんは地球人だよね?」
 頷き、ハンスは尋ねるように掌を差し出した。ハンスはエースとシャーレットのみを見ていた。
「ええ、そうよ」
 シャーレットの答えにハンスは満足そうに相槌を打つ。
「よかった、違っていたらどうしようかと思ってました」
「へえ、だから?」
「彼女を救って欲しいんだ」
 ハンスは4人に聞こえるように話を切り出した。
「彼女?」
「ずっと氷の中に閉じ込められているんだ」

「……良いだろう」
 エースはハンスの話を聞き終えると直ぐに返事をした。
「本当かい?」
 分かりやすい笑顔をハンスは作った。
「ああ、案内してくれるか?」
「分かった……と言いたい所だけど。ちょっと直ぐに僕は動けなくてね」
「何?」
 黙って聞いていたメシエもさすがに口を挟んでしまう。
「場所を教えるから其処へ行ってくれるかな?僕も後で行くから」
「……おい、エース」
 エースの顔をメシエが見るが、気にする様子も無い。
「構わないよ、場所を教えてくれるかい?」
「ありがとう、お兄さん。場所は西の森を抜けた先、真直ぐ歩いていけば小さな洞窟がある。そこに彼女は居るよ」
 
 「良いのか、エース?」
 雪の降る森の中をエース達は抜けていく。
「女性を助けるのは紳士の務め。事情は解らないけど、女性を助けてって話を無視する訳にもいかないからね。ところで――」
 くるりと振り返り、後を歩くシャーレット達を見つめた。
「君達はどうして来たんだい?」
 困った顔でエースはシャーレット達を見ていた。
「助けて欲しいって言ってんのに、無視するなんて出来ないでしょ?」
 ハンスとの会話を思い出し、眉間に皺を作り自分にうんざりした顔でシャーレットは答えた。
「ええ、そういう事よ」
「そういう訳だから、あたし達も行くわよ」

 「……出てきたらどうかな?もうエースさん達は居ませんよ」
 ハンスは小さな茂みを見ていた。
「フハハハ、良く見破ったな!」
 ガサガサと枝葉を散らして、ドクター・ハデス(どくたー・はです)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が茂みから飛び出した。
「お前がハンスか?」
「はい。僕がハンス・グリムスです。お兄さん達は?」
「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」
「お兄さん達は――」
「分かっている、話は聞いていた」
 ハンスの話を勝手に打切り、自らの話を始めた。
「ククク、よかろう、ハンスよ!我らオリュンポスが、雪人形を操る者によって氷に閉じ込められたという、お前の大事な女性を助けだすのに協力してやろう!」
「はぁ……」
 ハンスは内心苦い顔をしていた。ハズレに出会ってしまったと。
「ああ、そうだ。お前は何も心配しなくて良い!黒幕は既に分かっている。キロスという男だ!」
「キロス?」
「赤髪長髪の男だ、もう直ぐこちらに来るだろう」
「……そうですか」
 ハンスは誰だろうという顔をしたが、ハデスは気付きもしなかった。
「フハハハ!ハンスよ、お前の目的のために、我らオリュンポスが力を貸そう!」
「ええと……御願いします……」
 何か違う気がするが、ハンスはそのままの流れで御願いをしてしまった。
「ククク、我らオリュンポスが居るからには、大船に乗った気でいるがいい!すぐに黒幕を探し出し、退治してくれるわ!」

 「引き込まれた……というので……しょうか……?」
 みのりは真っ白な雪に覆われた雪原を見回した。
「みのり、気をつけてください。他の学園生がいるとしても、ここは別の世界なのですから」
 ジェフェリアは辺りを注意深く見回していた。
「……」
「ジェフェリアは心配し過ぎだ。俺が付いてるからな!」

 「……他の連中はどうしたんだ?」
 海は吹雪く雪原を見回した。
「どうやら、飛ばされる場所は固定されていないみたいだね」
 気付くと北都達は柚達のすぐ近くに立っていた。
「ふふ、二人は仲が良いみたいだね……」
 北都の視線は二人の手に注がれていた。
 「いつまで繋いでるの?」
 三月がしれっとそれを指摘した。
「べ、別に」
 頬を紅潮させて柚は慌てて手を振り解く。
 運の悪いことに、慌てて手を振ったせいで、転びそうになり海に再び手を掴まれ抱き起こされた。
「大丈夫か……」
「柚さん……」
 心配顔の海とは対照的に、口に手を当て北都が笑いを堪えていた。

 「今日は来客の多い日だね……」
 誰も人の気配を感じていなかった。気付いた時にはマリリン・フリート(まりりん・ふりーと)達の数メートル手前に白髪の青年は立っていた。
「あんた、誰よ?」
 マリリンは指をハンスに突きつけていた。
「僕は、ハンス・グリムス」
「ハンス?」
「はい」
 名前を呼ばれるとハンスは丁寧に頭を下げた。

 (なんだあのイケメンは?)
「なあ、ちょっと聞きたいんだが?」
 手を上げていたのは某だった。ジッとハンスを見ていたようだ。
「……香菜は何処にいる?」
「?」
 言っている意味が良く分からないと表情に出ている。
「すいません、お兄さんが言っている意味が良く分からないんだけど」
 キロスが声を上げた。
「香菜は何処にいるって聞いてんだ!」
 剣を抜き、今にも斬りかかりそうな勢いだ。
「落ち着け、キロス!」
 慌てて、某がキロスを抱き抑える。
「うるせぇ!」

 二人の様子を眺めていたハンスが口を開いた。
「……お兄さんがキロスさんか」
 一通りキロスの顔を眺めると、満足したようだ。何かが納得いったみたいだった。
「お兄さん達が言っている事は良く分かりませんが、もしかしたら、村の誰かが知っているかも知れません。聞いてみると良いと思いますよ」
「村だと……?」
 某は呆気に取られた顔でハンスを見た。
「はい、お兄さん達の前の方に見えませんか?」
 目を凝らすと数百メーター先に村があった。
「どうなってる……」
 某達の反応を満足そうに眺めると、ハンスは再びお辞儀をした。
「ようこそ、雪の村スフラメントへ」
「スフラメント?」
「ええ、雪の村と言ってもただの寒村ですが。ああ……いえ、ギャグでは無いですからね」
「ふふっ、寒村……冬ならではですね」
「……」
 ジョヴァンニ・ヘラー(じょう゛ぁんに・へらー)がクスリと笑ったが、無視した。
「村には人も居ますし、ゆっくりしていって下さい」
 マリリン一行はそうして雪の村スフラメントへと足を踏み入れていった。

 「ふふふ、上手くいったよ。和輝!」
 子供のようにはしゃぐ声が聞こえてくる。佐野 和輝(さの・かずき)は『精神感応』でアニス・パラス(あにす・ぱらす)からの返答を聞いていた。
「良くやった。次は村の中へ進入するぞ」
「らじゃ!」
 和輝からの『精神感応』が切れると、アニスは村へと近づいていく。

 「……ここか」
 吹雪く雪原の中で和輝は辺りを見回していた。さっきまで歩いていた街道の景色から一変していた。遠くの方に集落のようなモノが見えるが、まるで見覚えが無い。
「アニス、ここが何処か分かるか?」
 白のローブを羽織ったアニスはキョトンとした顔で和輝を見上げた。
「アニス、知らないよ」
「だよな。スノー、お前はどうだ?」
「私も見たことはありません」
 アニスの手を引き、スノー・クライム(すのー・くらいむ)も頷いた。
「間違いないか……」

 不意にアニスはビクリと肩を震わせた。
「どうした、アニス?」
 怯えた目で雪原の向こうをジッと見つめている。
 「あれ、見つかったみたいですね」
 声が聞こえた。いつの間にか和輝は銃を抜き、引き金に指を掛けていた。
「おっと、銃を下ろしてもらえませんか?そんなので撃たれたら、死んでしまうからね」
「……直ぐに術を解け」
「……ふぅ。分かりました……」
 白髪の青年が和輝達の目の前に立っていた。
「やあ、さっきはどうも」
 何事も無かった様ににこやかに青年は笑う。
「……」
「お兄さん、地球人だよね?」
「……そうだと言ったら?」
「彼女を助けて欲しいんだ」
「断る」
 間を置かずに和輝は即答した。
「すいません、良く聞こえませんでした。もう一度言って貰えますか?」
「断ると言ったんだ」
「はっきり言いますね」
 和輝の態度は一向に変わる様子は無かった。
「では……こういうのはどうかな?僕の手伝いをして貰えるなら、持っている『面白い情報』をあげるよ」
「言ってみろ……」
 ハンスの動きを仔細に観察する。下らない動きをすれば、叩き潰すつもりだった。
「――というのは知っているかな?」
 隣のアニスが和輝の左足元に頬を付けるような形で抱きついていた。
「……面白そうな話だな」
「それでは……宜しく御願いするね。お兄さん」

 「キロスー!」
「何だ?」
 ルカの呼びかけに、俺は忙しいという顔でキロスは答えた。
「……この寒いのにキロスはその軽装なの?」
「何だ、悪いか?」
「寒くない?」
「別に大したことはない」
「んー……ルカのアイシクルリング1個貸すよ!寒さ20%カットだからね」
「要らん」
「後で後悔しても知らないよーっと。ルカは海と一緒に動くから何か有ったら携帯で――」
 携帯の画面を何度も確認し、ルカは携帯をぶんぶんと振り回すが一本もアンテナが立たない。
「あれ?圏外?とするとここは異世界なのかな」
「そんなことはどうでも良い」
「ルカ、あまり邪魔をしてやるな」
 ルカの腕をダリルが引っ張っていく。
「海達は村の人に聞いて回るそうだ。俺達も行くぞ」
「またねー、キロスー。何か分かったら攻撃魔法とかを空へ放って合図って事でするからねー!」

 村の中にはパラパラと人がおり、家の屋根に積もった雪をと下に落としている。
「いらっしゃい」
 村の入り口近くにいた若い女性が挨拶をしてくれた。
「こんにちは、お姉さん」
 完璧な笑顔で北都は返す。
「ふふ、何もないところだけど。ゆっくりしていってね」
 北都の笑顔に満足した女性は何かの作業へと戻っていった。
「ふぅ、ところでソーマ?」
 今後の予定を決めようとしたが、そこにソーマの姿は無かった。
「……あれ、ソーマ?」
 先ほどまで隣を歩いていたソーマを探すが、辺りに気配は無い。
「ソーマさんなら先ほどフラフラとあっちの方へ歩いていきましたけど?」
 加夜がどうやら迷子になるソーマを見ていたらしい。指先は家屋の反対側の方へと向いていた。
「……うん。ソーマの迷子は何時もの事なので、放置しておいて問題ありません。何かあれば連絡してくるだろうから、加夜さん達も気にせずに調査を御願いします」
「はぁ……大丈夫でしょうか?」