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リアクション
「さあ次はどこに行こうネ!」
「ちょっとロレンツォ。少し落ち着きなさいってば!」
「次なる街が待っている限り、私は超特急ではせ参りますヨ!」
【小型飛空艇】を使い、各地の宣伝に励んでいるのはロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)、アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)の二人。
陽気なラテンのノリの音楽を空から奏でがなりながら、ニルヴァーナ大陸で開拓に励んでいる別の人々へ『大開拓祭』のことを伝え周っていた。
「街発見。現場へ急行するヨ!」
「ちょっとちょっと! スピード、落として! というか落ち着いて!」
落下にも似たスピードで街へ急行する。何とか墜落せず街へたどり着いたロレンツォとアリアンナ。
早速、事前に用意していたビラを手に持ち酒場へ向った。
「さあ、みんな! 『大開拓祭』がもうすぐ開催ヨ! このビッグウェーブに乗り遅れちゃだめヨー!」
「え、えっと」
「すいません。彼ちょっとテンション振り切れちゃってて……『中継基地』ってご存知ですか?」
見かねたアリアンナが酒場の受付娘に話し始める。
「え、ええ」
「今度、『大開拓祭』っていう大規模なお祭りをするんです。私たちはその宣伝をしていて、
このビラを酒場や街の掲示板みたいなところに張り出させて欲しいんです」
「そうだったんですか。ええ、同じニルヴァーナ大陸を開拓する者としてご協力しますよ」
「ありがとうございます。……それでですね、『開拓地別目標の雄叫び大会』っていうのも計画してまして」
「『中継基地』は今もなお大発展をとげてるネ! もっと他の街と繋がるためによりよい街づくりに専念してるヨー!」
「のように、開拓における目標や抱負なんかを叫ぼうって言う簡単な大会です。
もちろんそれだけでなく、互いの発展のための意見交換の場としても活用しようと考えているんです」
テンション振り切れっぱなしのロレンツォをうまく使い説明したおかげもあり、この街の住人たちは必ず行くと約束をしてくれた。
無事宣伝を終えた二人は愛機に乗って、別れの挨拶を言う。
「それではみなさん、お待ちしておりまーす!」
「念には念をネ! そーれ!」
そういってロレンツォはビラをばら撒きながら次の街へと発進。
「はっはー! いいぞー! だけどほどほどになー! 資源は有限だぜぇ!」
「必ず行くからなー!」
「お待ちしてるヨー!」
「……いい人たちでよかったけど、次は気をつけて」
「さあ、次へレッツゴー!」
「少しは話を聞きなさいっ!」
その後ラテンのノリの中にげんこつ音が少しだけ空に響いたのだった。
各地を回るロレンツォたちから舞い戻り『中継基地』。
そこには白衣を着て係りの人に詰め寄っていた。
その正体は謎の天才科学者であり、世界制服を企んでいて秘密結社オリュンポスの幹部らしき、本名高天原 御雷的な人物。
「フハハハ! このドクター・ハデス(どくたー・はです)は考え付いてしまったのだよ。この祭りを混沌に導く恐ろしきイベントを!」
「それではこちらのイベント用紙に記載を……」
いつも通りのハデスと、ぶれない冷静さで対応にあたる係りの人とのやりとりをご覧頂こう。
「名付けて、『大開拓祭征服イベント』だ! 内容だが、まず! 参加者が正義側と悪側に分かれる」
「ふむふむ」
「具体的にはエントリー時に『正義』か『悪』か表明し『制圧カード』を受け取る。
そして『大開拓祭』開催中における出店の利用やイベントの参加によりスタンプがもらえる!」
「なるほどなるほど」
「だが、ただ集めるだけではお子様のお遊戯とかわらん。そこで! スタンプ総数が多かった側に賞品がもらえるとするのだ!」
「わーおもしろそうだね!」
「そうですね。あ、美羽さん。先ほどはジュースありがとうございました」
「いえいえー」
「どうだ? このひどく危険で混沌とした企画! だが実行すれば祭りに参加する者も、気合を入れて出店や企画に参加するであろうギャンブル案!」
いつの間にか加わっていた美羽に気づかずハデスは自分の案を係りの人に、やりきった顔で伝えた。
「でも賞品はどうするの?」
「クックック、二つ名、つまり称号を配布する。これで『悪』が勝てばこの『大開拓祭』は悪にそまるという寸法だ! フハハハ!」
「なっるほどー。うん、他のところで遊んでる時も参加できていいかも!」
「そうだろうそうだろう!」
「賞品については一応検討してみますが、案の方はそのまま採用しますね。ありがとうございましたー、それでは次の方どうぞー」
「私も次のとこへレッツゴー」
すんなりと決まってしまい、ぽつねんと残されるハデス。
「……いや、確かに企画が通ったのはいいのだが。なんというか。もう少し、『この企画は危険すぎる!』的なリアクションがだな……」
そんなさびしそうなハデスの独り言は祭りの準備の喧騒にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
「これはこれは、既にお祭り騒ぎでありますな!」
「そのようね。まさかこんな形で【創世運輸】が役に立つとは思ってもみなかったわ」
自身が立ち上げた【創世運輸】マーク付きのトラックから降りてきたのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とその相棒コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の二人。
今回は色とりどりのニルヴァーナ特産品と依頼された資材をもってきたのだ。
「祭りが自分を呼んでいるでありますな!」
「その前に頼まれた資材やらを各所に届けないと」
「……なぜ創設者である自分まで手伝わなくてはならないのでありますか?」
「しょうがないじゃない。思った以上に依頼が多くて人手が足りないんだから」
「すんませんねぇ。それじゃ資材はそこに置いておくんであとたのんます!」
トラックの運ちゃんはそう言って次なる場所へと走っていった。
「自分はトレーダーであってトラッカーじゃないでありますよ」
「まあまあ、ちゃちゃっとやっちゃってその後でトレーダーとして活躍しましょうよ」
「仕方ないでありますなぁ……さっさと済ますであります。コルセアはこれと、それと、あれをお願いであります」
「オッケー」
二人で手分けして依頼主へ資材を渡しにいく。量が量だけにかなり時間を取られたが、無事に依頼完了。
依頼主からも多数の喜びの声があがり、祭りの準備にもよりいっそう箔がつくだろう。そしてここからが吹雪タイムである。
「よ、ようやく終わったであります。……この疲れ、商売でふっとばすでありますよ!」
「はいはい」
レジャーシートの上にズラっと特産品を置いた吹雪とコルセアはその場で即興の特産品コーナーを作る。
「さあ! ニルヴァーナ各所から集めてきた名品、珍品、特産品でありますよ。じゃんじゃん買ってくでありますよ!」
「お値段交渉も承っているからね。……完売したら出店の準備も手伝うのよ?」
「ねえねえ、これどっから手に入れてきたの?」
「これはニルヴァーナの秘境と言われているある場所から独自ルートで仕入れた」
「ああ嘘だから。馴染みのところからお安くわけてもらったの。でも品質はお墨付きよ」
「そうなんだー。みんなー! このお店、面白いものがいっぱいだよー!」
楽しいものレーダーに判のして寄ってきた美羽が大きな声で客引きをする。ものの数分で吹雪たちの周りは人だらけになった。
「それじゃー頑張ってねっ」
「あっ、ありがとうね。こら吹雪もお礼を……!」
「これは秘境中の秘境の魔境から……」
商売人の血が騒いだ吹雪はコルセアにも止められず、特産品コーナーはカオス通りとなってしまった。
しかし売上は上々。気分も上々のままに二人は出店の準備の手伝いもこなすのであった。