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四枚の贋作

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四枚の贋作

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第6章 犯人はお前だ!

 所かわって、現実世界では。

 なななが、関係者を集め一堂に会していた。
 そのなかでひとり。妙に脂汗をかいている人物がいる。
 美術館の、館長である。

「あやしいなぁ」
 ルカルカが教導団のデータを確認しながら、彼に近づく。
「ねえ。館長さん。怪しい人物は見かけなかった? 変なものを持ってたはずだけど」
 両手を肩幅くらいに広げ、掌を向かい合わせるようにしながら、ルカはつづける。
「このくらいのやつ」
「そ、その女王器を持った奴なら! トイレの方に駆け込んで……」
「あれぇ。どうして、女王器ってわかったの。言ってないのに」
 ルカがにやりと笑う。
 その追求に、館長の発汗が激しくなった。
「い、いや……。なんとなくですよ。こんなことができるのは、女王器くらいかなぁって。あはは……」
 しかし、明らかな動揺ぶりから、彼が犯人であることに疑いの余地はなさそうだ。

 ヴォルフラムが、厳しい口調で告げた。
「どうせ犯人は、『売れない芸術家』といったところでしょう。他者が生み出した美を貶めることで、自分が高まったと、錯覚してしまうような。嫉妬に身を焦がしただけの、哀れな道化です」
「ち、違う! 私はただ…………あっ」
 叫んだ館長が、右手を差し出したまま固まってしまう。
 事実上の自白であった。
 悲しげな顔でうなだれる館長に、ヴォルフラムが冷静に尋ねた。
「お聞きしましょうか。あなたの動機を」

「……パラミタに地球の芸術を伝えたい。私はその思いだけで、いままでやってきました。この展覧会は、私が館長として築いてきたものの、すべてだったのです」
「では何故。自ら壊すような真似を?」
「絵が、集まらなかったのです。四枚の名画を運んでいたトラックが、事故に遭遇し、届かなくなりました。その上、トラックを運転していたのは、私の息子だったのです。パニックになった私は、冷静な判断ができませんでした。頭では悪いことと知りながらも、私は女王器の封印を、解いてしまったのです……」

 館長が唇を強く噛み締めたとき。
 四枚の贋作に入っていた、みんなが戻ってきた。
「うーん。館長さんは、悪気があったわけじゃないみたいだね」
 ルカルカが、腕を組みながら言った。
「反省してるなら、許してあげないこともないのよ」
「ほ、本当ですか?」
 すがるような目を向ける館長に、ルカは笑って応える。

「もちろん。おかみにもお慈悲は有るのよ!」
「ルカ。時代劇の見すぎだぞ」
「なによもうっ。コードってツッコミ属性!? ほら、なななもなんとか言ってやって!」
 頬をふくらませたルカが、なななを肘で小突いた。
「よぉし、ビシッと決めてあげる!」
 話を振られたなななは、館長に指を突きつけて、啖呵を切った。

「市中引き回しの上、打ち首獄門! ひったてい!!」
「えーっ。許してあげないの?」
「いや、許すけどね。ただ一度、言ってみたかっただけ」
「やれやれ」
 肩をすくめるルカのとなりでは。
 アゾートがちょこんと立ち、うなだれる館長を見上げていた。

「あとは、アゾート次第だね。どうかな?」
 ルカの問いかけに、彼女はぼそっと答える。
「……ボクも、許してあげる」
「ああ! ありがとうございます!」
「ただし。賢者の石をくれたら、だけどね」
「そ、そんなぁ……」
 あまりにも無茶な要求に、館長の顔が青ざめていく。
 血の気が引いた彼の姿を見ながら、アゾートはおかしそうに言った。
「……冗談だよ」
 彼女の表情には、まだ、モナ・リザの笑みが浮かんでいた。



 ――と、そこへ。
「館長!」
 従業員のひとりが、慌てたようすで駆けつけてきた。
「どうした?」
「息子さんの容態ですが、奇跡的に無傷だったそうです!」
「そうか。それは良かった……」
 ホッとする館長に、更なる朗報が届く。

「四枚の名画も、傷ひとつないそうです! いま、別のトラックでこちらへ向かわせています!」