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【第四話】海と火砲と機動兵器

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【第四話】海と火砲と機動兵器

リアクション

 同日 某時刻 某所
 
「白竜が無表情で無機質なのは情報科として行動する時の通常パターン。気にしないで大丈夫」
 とある場所に身柄を移されたイリーナに世 羅儀(せい・らぎ)は笑顔で話しかけた。
「今回の襲撃は何かに利用され仕組まれている。パイロットが命を落とす事は許されない。イリーナさんの力が必要なんだ」
 洗脳はなかなか解けないものと注意し、イリーナの様子を観察、精神面の変化を見落とさないようにする――そう、羅儀は意識していた。
 叶 白竜(よう・ぱいろん)は『偽りの大敵事件』に関して今までの全情報の開示を決断し、準備を指示した。
 教導団とそれ以外の生徒との情報格差をなくし、と情報の連携を行い、より調査の進展を計るのが狙いだ。
 だが、その一方、情報を開示したことで情報提供者のイリーナへの危険が増えることを警戒した白竜。
 彼は金団長にイリーナの身柄の移動の許可を願い、それが受け入れられた為、彼女の身柄をとある場所に移すことになったのだ。
 それに際し、白竜と羅儀は移送についての計画を立てた。
 影武者を警備する動きでイリーナを一時的に別の場所に移すと見せかける。
 最終的に極めて限られた者だけが知る場所でイリーナを保護する。
 そして、沙 鈴(しゃ・りん)の提案によってイリーナの身柄はここ――ツァンダのクロカス家の縁の病院へと移されたのだ。
 鈴たちはエッシェンバッハ派がイリーナの口を封じる為にヒットマンを送り込んでくる事態はもちろん、九校連の方もそれを送り込んでくる危険性を懸念していた。
 もちろん、後者のことは口には出さないが。
「今の所、この病室に近付いている者はいないわ」
「何かあればすぐに知らせるからの」
 見張りに立つ綺羅 瑠璃(きら・るー)秦 良玉(しん・りょうぎょく)が言うと、白竜たちが頷く。
 そして白竜がまずイリーナに二枚の写真を見せた。
 理王から送られてきたその写真。
 一文字理沙と岡崎軍曹の写真だ。
「これらの人物に心当たりは?」
 問われ、イリーナはしばらく写真を見つめる。
「こちらの男性は知りません……。でも、この女性は見たことがあります……」
 イリーナを急かさぬよう、あくまでゆっくりと白竜は問いかける。
「彼……結城来里人に同行していた若い男……その人物と一緒にいたのを一度、見たことがあります」
「その若い男とは? 特徴か何かはありましたか?」
「誰かはわかりません。ただ……」
「ただ……?」
「オレンジ色の髪の毛をしていました。その特徴は、覚えています……」
 無表情ではあるが、穏やかにゆっくり話す白竜。
「では、次の質問に移ります。あなたが結城来里人と接触した回数や場所、時期といったものを教えてください」
「彼とはパワードスーツ工場の事件が起こる前に数回。場所はその時によって違いました。たとえば――」
 イリーナは様々な場所を列挙している。
 列挙された場所は見事なまでにバラバラだった。
「わたくしからも質問、いいかしら?」
 白竜の質問に答え終えたイリーナに鈴が問いかける。
「ええ。どうぞ」
「では、一つ。わたくしが気になることとしては、イリーナ殿はどのような意図で鏖殺寺院を名乗っているのか? ということです。鏖殺寺院の系譜の中で、自ら鏖殺寺院を称する者は、明確な意図がある場合とそうでない場合に極端ですわ。イリーナ殿やエッシェンバッハ派はその辺りどうだったのかと?」
 それに対してはイリーナは思ったよりも速く答えた。
「私も、そして来里人も、まず自分達が鏖殺寺院の一派であること、そして、今のシャンバラにおいて体制側である九校連に戦いを挑む者として鏖殺寺院を名乗っていたわ」
「なるほど。感謝しますわ」
 するとイリーナは申し訳なさそうな、そして、どこか悲しげな顔をして言う。
「私は敵側の人間なのに……私の為にここまでしてもらって……」
 それにはまず羅儀が言葉をかける。
「イリーナさんは、今はオレたちの味方だ。なら、味方を守るのは当然なら、そうする為に力を尽くすのも当然のことだろう」
 羅儀に続いて鈴も言う。
「ええ。イリーナ殿はわたくし達が肉体的にも精神的にもお守り致しますわ」
 二人からの言葉に続いて白竜、そして瑠璃と良玉も頷いてみせる。
「みなさん……ありがとう……」
 感極まったのか、イリーナは涙を流し始める。
 羅儀と鈴がそっと肩を叩き、イリーナを励ます。
 その間、白竜は一旦病室の外へと出た。
 白竜たちが開示した情報をイーリャが無事に閲覧できたという情報が、その本人から先程入ったのだ。
 そして、彼女からの提案で諜報部に武器の流通経路を洗ってもらうよう、白竜は手配を始めたのだった。