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【第四話】海と火砲と機動兵器

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【第四話】海と火砲と機動兵器

リアクション

 数分前 海京沖合 海上
 
「随分とサービスがいいのね」
 ガネットに乗った“シュピンネ“。
 そのコクピットで彩羽はUSBメモリを手に呟いた。
 万が一にも無線の傍受や発信源の特定を行われることを警戒し、無線を使わずとも指示を出せるようにとスミスから出撃前に渡されたものだ。
「九校連も強力な機体を投入してきたでござるな。こちらもシュピンネの初お披露目でござる。油断せぬよう気を引き締めるでござるよ」
 サブパイロットシートでスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)が言う。
 それに頷き、彩羽はUSBメモリをコクピットにあるスロットへと差し込んだ。
 内部にあったのは映像ファイルのようだ。
 手早くそれを開くと、映像が再生させる。
 画面に映ったのはスミスだ。
『貴方には実戦の中で説明した方が良いかと思いまして。このような形を取らせて頂きました』
 そう前置きすると、スミスは機体に搭載された武装についての解説を始めた。
「なるほど。それは面白そうね――」
 説明の通りに彩羽がコンソールを操作すると、“シュピンネ”の両肩に装備された紡錘形に近い球体の大型パーツが展開する。
 展開した装甲の中からは、まるで投網のようにネットが放出される。
『“シュピンネ”の根幹を成す装備であるこのネットはパラミタで産出される材料を用い、数世代先の技術で精製された材質を用いています。弾性および靭性は従来の材質を凌駕していますが、それ以上に特筆すべきはその性質です』
 コクピットではモニターの中でスミスが語り続ける。
『エネルギーを流し込むことによりこの糸は硬化し、特定の形状を維持します。即ち、糸から棒のような状態になるわけです』
 スミスの言う通り、エネルギーを流し込まれた投網は硬化し、広がったまま固定されていた。
 その形を言い表す言葉は投網よりも、もっと相応しいものがある。
 ――蜘蛛の巣。
 今、“シュピンネ”の両肩に張り出しているのは、まさにそれだった。
『広げた状態で固定したネットはレーダーのアンテナとして機能します。また、固定を解除すれば捕縛用のネットとしても使用可能ですので。では彩羽さん、後は貴方の腕次第です――』
 映像を見ながら彩羽は満足げに微笑んだ。
「なるほど。そういうことだったのね。電子戦特化機なのにレーダーが見当たらないなんておかしいとは思ってたのよ」
 そのまま彩羽はコンソールを叩く。
 すると展開式のキーボードが彩羽の前にとび出す。
“シュピンネ”を受領した時から、彩羽は驚きを禁じえなかった。
 この機体に搭載されたコンピュータ。
 その性能たるや凄まじいものだった。
 きっと、このコンピュータもグリューヴルムヒェンシリーズと同様に数世代先の技術で作られているのだろう。
 同じコンピュータ同士でも、世代の違いが性能に大きな違いをもたらす――それをよく知る一人である彩羽には、これが何を意味するか、嫌というほどわかっていたのだった。
 彩羽の仕掛けた電子戦によって、天御柱学院を守るべく迎撃に出たイコンは次々にエラーがもとでシステムダウンしていく。
 それだけではない、彩羽の目についた十機のジェファルコンはコントロールを乗っ取られ、彩羽に操られるまま友軍や天御柱学院を攻撃している。
「天学の理念にはまったくもって賛同できないけど、それはそれとして、天学のジェファルコンは間違いなく傑作機。なら、それを利用しない手はないわね」
 彩羽が呟くと、通信で“鳥”の声が入る。
『ったく、スミスの奴はトンデモねえモンを造っちまったみたいだな。いや、パソコン嬢ちゃんが凄えのか……なんにせよ、無茶苦茶な機体だぜ』
『ええ。何にせよ、これで僕たちは海京を間もなく制圧できます』
“鳥”に続き、“鼬”の声も聞こえてくる。
『こんな手ェ使わなくても“カノーネ”の圧倒的な火力をこれから見せつけてやろうってのによォ』
 ミリタリージャケットの青年の言葉に呼応するかのように、天御柱学院イコン部隊の迎撃を切り抜けたガネットに乗った濃緑色の機体が大挙して海京に押し寄せている。
 天御柱学院のイコン部隊を前に巻き返しを図りつつある“ヴルカーン”部隊は、搭載された重火器を惜しげもなく撃ちまくっている。
 本領を発揮し始めた“ヴルカーン”の圧倒的な火力。
 それによって行われる物量に任せた広範囲への破壊力の行使を前に、天御柱学院イコン部隊もじょじょに押されつつあるようだった。
 イコン部隊を押し返しつつ、先ほどとは打って変わって攻勢に出た“ヴルカーン”部隊。
 濃緑色の機体たちは持てる火力を惜しげもなく天御柱学院イコン部隊、そして海京にぶつけていた。
 どうやら、天御柱学院のイコン部隊は迫り来るミサイルを撃墜するのに手一杯になりつつあるようだ。
 ここぞとばかりに“ヴルカーン”部隊はミサイルをバラ撒き続ける。
『まァ、嬢チャンの機体のおかげでタダでさえ速い制圧が更に速くなるって――ンだとォ!?』
 彼の言葉は途中で驚きの声に変わる。
 なんと、突如として濃緑色の十五機のうち一機が爆発したのだ。
『自爆装置の誤作動なのかよッ!?』
 焦った声を上げる“鳥”。
『ンなわけあるか! コイツぁ……砲撃だッ!』
『しかし……僕の機体のレーダーではこの周辺に僕達以外の反応はありません……。だとすれば長距離からの砲撃、それもこんな距離からで、なおかつ“カノーネ”を一撃で大破させるほどのものとなれば、戦艦でもおいそれとできないはず――彩羽さん、“シュピンネ”のレーダーでは何か捉えられていますか?』
“鼬”から問いかけられるも、彩羽は首を振る。
「いいえ。“シュピンネ”のレーダーにも察知されないとなると、ステルスの類じゃなくて本当にこの辺にはいないってことね……」
 恐る恐る探知の範囲を広げてみる彩羽。
 すると一個の巨大な反応が観測される。
「あったわ……サイズからして戦艦――まさか迅竜……でも、迅竜にこんな武装があったかしら……」
 友軍に通信しながら彩羽はある事実に気付いて戦慄するのだった。
「仮にあったとして戦艦の砲塔で、こんな針の穴を通すような砲撃……いえ、これはもう砲撃というより狙撃ね。そんなことをやってのけるなんて、一体どんな射手だというの……!」