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第3章 「極寒! 氷漬けのブルー」の極寒

「おいおい。このプラントで戦うの、俺だけかよ!」
 C棟の前で、愚痴をこぼしたのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)である。
「エクスも来るって言ってたのに。あいつ、ドタキャンしやがったぞ。……まあ。こんなところ、俺ひとりで十分だけどな!」
 パートナーの不実に苛立ちながら、唯斗は自らのイコン魂剛に乗り込み、プラントへ突入していく。


 氷河を再現したC棟は、縦50メートル、横80メートル程度の広さがあった。天井は低いが、地下は数十メートルの深さまで掘られ、冷たい水で満たされている。
 水面には分厚い氷がいくつも浮かび、その中のひとつに、ジュゴンの姿をした召喚獣・ブリザードが寝転んでいた。
 ブリザードの大きさは全長5メートル強。大型のイコンである魂剛と比べると、力の差は歴然であるように見える。
「ソッコー終わらせてやるぜ!」
 唯斗はアンチビームソードを両手に持ち、斬りかかっていく。足元の氷塊が砕けるほどの猛烈なダッシュ。
 アンチビームソードの切っ先が、ブリザードを斬り上げた。
 しかし、浅い。致命傷に至らなかった氷獣は、すぐに水のなかへと潜っていく。
 水中の移動属性がない魂剛は、たちまち不利になった。

 しばらく睨み合いがつづいた。
 ブリザードには、地上へ出てくる気配はない。
「ふんっ。小癪な真似をしやがって……」
 唯斗が、ちらりとプラントの奥に目をやった。そこにはあるのは、氷漬けになったハリボテの巨大ロボット。中にはブルーが捕らわれているはずだ。
 こうしている間にも、冷気が機晶姫の命を蝕んでいく。
「なあに、心配いらないさ。待ってろよ……。今、助けてやっからな」
 そして唯斗は、ビームサーベルに持ち替えた。
 水中のブリザードを見下ろしながら叫ぶ。
「こんな施設ごと、一刀両断にしてやるよ!」
 最大出力の【デュランダル】。氷塊は瞬く間に分断され、激しい水しぶきが舞う。
 水圧が、深くまで潜っていたブリザードを襲った。

 驚いた氷獣は、慌てて地上へと這い出してくる。どこにも逃げ場はないと悟ったのか。その表情は、絶望で染められていた。
 ドーン!
 ドーン!
 この時、建物の外から二発の爆音が轟いた。A棟、そしてB棟の方向だ。
「こいつは粋なはからいだ。さしずめ、俺の勝利を祝福する花火ってところだな」
 にやりと笑う唯斗。
 魂剛を接近させ、ブリザードを蹴りあげた。宙に浮かんだ敵の体めがけて、もういちど最大出力のデュランダルを見舞う。
 ブリザードは分断され、血の雨が降った。ふたつの肉塊が、人工の海へと沈んでいく。
 敵の鮮血が止んだころ。
 裂けた天井から、日の光が差し込んできた。

                                          ☆ ☆ ☆

「おーし。もう大丈夫だ」
 魂剛から降り、救出した『アンミツ・スクォーツ』を癒しながら、唯斗は言った。爆弾は巨大ロボごと水のなかへ沈めたので、爆発の心配はないだろう。
「あ、ありがとう……」
「お安いご用さ」
 すました顔で応えた唯斗だが、すぐに彼の表情は険しくなる。
「しまった! 女秘書を捕まえねーと!」
 アンミツを抱えたまま、唯斗は走りだした。地面に残る足あとを追いかける。
「まだそんなに遠くには行って……うわっ」
 建物の角を曲がった唯斗の視界に、飛び込んできたのは。
 糸で縛られた女秘書の姿。
 そして、メルヴィアであった。
「サラマンダーを倒したあと、すぐに駆けつけて正解だった」
 肩で息をしながら、メルヴィアは糸をたぐり寄せる。
「それにしても……。ずいぶん派手にやったもんだな」
 天井の割れたC棟を見上げながら、メルヴィアがつぶやいた。
 唯斗は、バツが悪そうに頭をかく。
「いやぁ。敵が小細工をしたもんでねぇ。カッとなってつい……」
「召喚獣を倒したんだ。問題はなかろう」
 メルヴィアの一言で、唯斗はホッと胸をなでおろす。
 だが、そのあとで呟いた彼女の言葉を、唯斗は聞き逃さなかった。
「あそこは、ぬいぐるみを作るプラントだったのに……。残念だなぁ」