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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■幕間:アニマルパーティー

 かくして動物解放戦線が始まった。
「大自然の怒りを思い知るがいい!!」
「もとい私の力を思い知るがいいわ!」
 ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が猿の檻の前で叫んだ。
 風里も調子を合わせて声を上げた。
 意味が通じているのだろうか、檻の中の猿たちもキイキイと騒ぎ始める。
「むう、すでに猿の怪人を用意していた結社があろうとはな!」
 ハデスがジョージを見てうんうんと頷いた。
 感慨深げな様子から察するに名も知らぬ同志を想像しているようだ。
「野生は生物本来の持てる力なのじゃ。それをこのように縛り付けてなんとするのか!」
 熱弁を振るうジョージを隣に見据えながら風里は「そうねー」と生返事を返す。
「よっと」
 風里が檻の鍵を力任せに引き千切る。
 強化人間ならではの荒業だった。
「……すでに幹部の風格を感じさせているな!」
「壊すのって楽しいわ」
 どことなく偏った思想というか、考えを感じる人たちである。
 開いた扉から猿たちが外へ飛び出す。
 ジョージの周りに猿が集まり、雄叫びを上げた。
 その光景だけを見ればサル山のボスだ。
「オオオオォォォ――」
 叫び、腕を振り上げ、そして――
 パァンッ! と銃声が鳴り響いた。
 ビクッとジョージは身体を軽く震わせると固まったように動かなくなった。
「園内で騒ぎを起こしている連中を捕まえてくれと依頼されて来てみたら……」
「悪さをしたくなるって気持ちは分からなくもないんだけどなあ……」
 姿を現したのは桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)だ。桐ケ谷の後ろにはエリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)の姿もある。そして彼らから少し距離を置いたところで笠置 生駒(かさぎ・いこま)が銃を構えてこちらを見ていた。
 先ほどの発砲音は彼女のものだろう。
「ふはははは! この程度で俺が敗北するはずがない。ククク、さあ、風里よ、お前に貸した部下へ実際に命令を出してみるがいい!」
 ハデスの声に風里は頷く。
 彼女の両隣りに控えていた戦闘員らしき服を着込んだ男たちに向かって言った。
「焼き払え――」
「えっ?」
 意外な言葉に戦闘員たちの動きが止まった。
 ハデスが大仰に頷き、戦闘員たちにライターを手渡した。
「こんなこともあろうか……とは思ってなかったから無改造品だ」
 つまりはただのライターである。
 何とも言い難い叫び声と共に戦闘員たちが桐ケ谷たちに襲い掛かった。
 手にはしっかりとライターが握られている。それが武器なのだろう。
「シリウス、エリス、任せた」
 桐ケ谷は言うと素早い身のこなしで風里に接近した。
 風里は彼の動きの出だしを見て警戒する、が遅い。
 腕を振り、接近を防ごうとするが、桐ケ谷の身体に触れることすらできない。
 背後に回り込み口を開いた。
「お前な、何やってるんだ。契約者の力っていうのはこういうイヤガラセの類をするためのものじゃないぞ?」
 桐ケ谷は拳を風里の頭に振り下ろした。
 ゴツン、と音が聞こえてきそうなくらいに綺麗なゲンコツであった。
「〜〜〜っ!?」
 あまりの痛みに風里が頭をおさえてしゃがみこんだ。
 よほど痛かったらしい。
 風里が頭を上げると戦闘員たちがシリウスたちによって倒されるのが見えた。
 実力の違いを見せつけられている気分である。
「私、そういう上から目線は嫌いなのよ……」
 風里は言うと横目で桐ケ谷の姿を視認する。
 スッ、としゃがんだ状態で回し蹴りを行った。足を刈りにいく。
 だが蹴りの軌道に鞘が突き立てられた。
 簡単に攻撃が防がれる。実力が違いすぎるのだ。
「どうしてお前の攻撃が俺に届かないか解るか? 実力の差だけ? 違うな」
「このっ!」
 蹴りが駄目ならば、と接近しての打突。
 どうせ躱される、それを見越しての一撃だ。
 桐ケ谷が拳を刀で止めた。直後――
「燃えろ――」
 拳から放たれた火が刀を伝う。
「――まだわからないか」
 風里を蹴り飛ばし、刀を大きく振るい、火を消した。
 その流れは軽やかだ。
(経験の差がありすぎるわ……)
 風里は思うと息を吐いた。
 手加減はされている、がダメージが全くないわけじゃない。
 痛みがじわじわと身体の自由を奪うのがわかる。
「お前は自分がしたいからと好き勝手にやってる。だから無理だと思ったらそこで諦めて終わりだ。俺はお前に迷惑を掛けられてる人のために戦っている
 だから絶対に譲れない。つまり……」
 桐ケ谷は風里を見据えた。
「自分のためなのか、誰かのためなのか。この違いが絶対的な差を生んでるんだよ。さらに言わせてもらえば、自分は正しいことをしているという自覚がないのに、本来の実力が出せるものか」
 風里の視界の中、桐ケ谷の腕が動くのが見えた。
 そこで彼女の意識は途切れた――。

                                   ■

 気を失い、倒れる風里を見てハデスは言った。
「東雲風里がやられてしまったか……だが我が秘密結社オリュンポスが敗北したわけではない。次こそ目にものみせてやろう!」
 言いたいだけ言い、ハデスは颯爽と逃げ出した。
「追わなくていいのかよ?」
「奴の逃げた方角、事態を収めるべく行動してる仕事仲間たちがいるからな。俺たちの担当はこっちの区画だ……」
 ジョージの首根っこをひきずって帰ろうとしている笠置を見送りながら彼は告げる。
「エリスとシリウスは風里を連れて行ってくれ。そのうち目を覚ます」
「任せて」
「あいよ!」
 シリウスが風里を背負うと落ちないようにエリスが支えた。
 二人は動物園を後にする。
 一人その場に残った桐ケ谷は逃げ出した猿たちの確保に動いた。

                                   ■

「く、クマが出たぞおおぉーっ!」
 動物たちを檻から逃がしていた悪の秘密結社、もとい胴部解放戦線の活動家たちが叫んだ。彼らの視線の先にはパラミタホッキョクグマの姿がある。本来、この動物園にいるはずのない動物の姿に彼らはパニックに陥っていた。
「あと何匹いるのかなー?」
 アリスの腕の中、一匹のわたげうさぎの姿があった。
 彼女の後を辿るように、逃げ出したウサギたちが群れを成して列を作っていた。
「あとで不満のあった動物たちのために設備投資しようかなぁ」
「良いと思うわよ。元々この人たちも動物が大好きだからこんなことしたみたいだし」
 及川の提案にミリアが賛同する。
 彼女たちの腕の中にはカルガモがいた。ぐぁぐぁと鳴いている。
 アリスと同じように彼女たちの後ろにはカルガモが列を作っていた。
 もはやサーカスに近い何かを感じる。
「かーわいいー!」
「ねー!」
 詩亜と玲亜がカルガモとウサギの列を見ながら言った。
 彼女たちは楽しそうに逃げ出した動物の保護を進める。
 作業を進めること一刻ほど草葉の陰から白衣の男が飛び出してきた。
「貴様ら! この俺の目の前でウサギ怪人(予定)を攫っていくなどということを許すと――」
「はい、兄さん見つけましたよ」
 ガシッとハデスの肩を掴む。
 そして怯える川村姉妹に高天原は笑みを浮かべた。
「兄さんがご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません。兄さんは私が責任をもって改心させるので許してください」
「何が改心だ! 改心させるべきは俺の邪魔をするやつら……ぐふぅっ!?」
 高天原の鋭い一撃がハデスの腹部にめり込んだ。
 重い一撃に、彼はうめき声をあげるとピクリとも動かなくなった。
「それじゃあ私たちは失礼しますね!」
 彼女は言うとハデスを引きずってそのままいずこかへと去っていく。