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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■幕間:雪葬

 「せいっ! やっ! たあっ!!」
 ザクッ、ザクッと雪にスコップを突き立てては持ち上げ、近くのトラックに載せていく。必死に手を動かしている優里に対して風里はゆったりとした動作で雪を運んでいた。佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)も風里と同じようにゆっくりと、そして時にすばやく腕を動かして雪を運んでいく。
「力任せにやってるとすぐへばっちゃうわよ」
「そうですよぉ。ただ力を入れるだけでは見た目に比べて効率も良くないですし、疲れたり後で筋肉痛や腰痛になったりするです」
 風里とルーシェリアが言うとおり、作業を始めて一時間もしないうちに優里は身体の痛みと疲れを感じていた。スコップを雪に突き刺して二人に向き直る。
「もうなりましたよ〜」
 言うとその場に倒れこんだ。
 ぼふっ、という音が聞こえてきそうなくらいに綺麗に身体が雪に沈む。
「必要なところには強めな力で、そうでない部分には軽めの力でこなしていけばいいのですぅ。必要以上の無駄な力を使うことなく除雪をこなしていければ、その経験が色んなことに応用できるです」
「どこが必要でどこが必要じゃないのかわからないですよ」
「持ち上げるときは力を入れて下ろすときは抜けばいいんじゃない?」
 至極まともな答えが返ってきた。
 くすくすとルーシェリアは笑う。
「無理に力を入れないというのも大切ですよぉ」
「そういうものですか」
「そういうものですよ」
 ルーシェリアの助言を聞いて、もうちょい頑張ってみるかなあと優里が身体を起こそうとしたとき、ふと影落ちた。空を見れば黒い塊が自分のほうへと落ちてくるのが見える。

 ドサドサドサ、と大量の雪が落ちた。
「ゆ、優里さんが生き埋めに!?」
 近くで作業をしていたリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が慌ててこちらに近づいてくる。彼女に続いて桐条 隆元(きりじょう・たかもと)も歩み寄ってきた。
「見事に埋まっておるな」
 彼の視線の先には雪の山が出来上がっていた。
 ちょうど優里が寝転がっていた場所だ。
「ああ、すみません。注意はしていたつもりだったのですが」
 屋根の上、雪を下ろしていたブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が下の騒ぎを聞きつけて詫びた。だがその声は彼女たちには届かない。
「風里さんそれはだ、だめです!」
「そうですよぉ。落ち着いてください」
 ブリジットが見下ろすと、眼下で風里がスコップを振り上げていた。
 それをルーシェリアとリースが取り押さえている。
「は、早く助けないと優里が凍え死んでしまうわ!」
「それを突き立てたら凍え死ぬ前にし、失血死しちゃいますよ!?」
 離して―、と喚く風里を二人掛かりで押さえつける。
 その様子を眺めていた桐条が口を開いた。
「仕方があるまい。わしが助け出そう」
「ワタシもお手伝いします」
 屋根から降りてきたブリジットがゆっくりと雪山に近づく。
 雪の中に手を入れ探る。
「見つけました」
 ずるり、と雪から人の手が出てきた。
 それを桐条が掴んだ。
「東雲弟は無事のようだな――っと、これは休ませんと危ういかもしれんな」
 助け出された優里は唇を真っ青にして震えていた。