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二ルミナスの休日

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二ルミナスの休日

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魔女

「よかった……あの子少しずつだけど村に馴染めてきてるわね」
 昶とともに温泉へと入っているユニコーンの様子を遠くからアルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)は見てそう言う。
「……会いに、……行かないん、ですか?」
 少しだけ寂しそうな表情をするアルマーに菊花 みのり(きくばな・みのり)はそう言う。
「他の契約者の人達がいるとちょっと……ね。勘違いでもきつい言葉を言ってしまったのは確かだから」
 ユニコーンの周りに誰もいなくなってから少しだけ話して、そして離れようとアルマーは言う。
「ふん……勘違いね。どうでもいいが、アルマーに嘘の情報言った奴はどんな奴だったんだ?」
 周りの警戒に当たっていた時に嘘の情報をもってきた奴は現れたらしいので自分は会っていないが、とグレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)は去るまでの間の話の種に聞く。
「それが、よく覚えてないの。女の人だってのは覚えているんだけど……」
 顔や話し方などぼやけてしまっているとアルマーは言う。
「ぼやけてねぇ……みのりはどうなんだ?」
「ワタシも、顔……とかは、覚えてない……です。ただ……あれはよくないもので……、そして――」
「――みのり?」
 話す途中で止まったみのりをグレンは不思議に思う。
「……ユニコーンが、一人になりました。……挨拶に、……行きましょう」
 とみのりは言う。
(あれは……よくないものです。……それでいて、きっと、……正しい)
「俺とみのりはここで待ってるから。アルマー早く挨拶済ませてこいよ」
「ええ、行ってくるわ」
 アルマーがユニコーンに近づいていくのを見ながらみのりは思う。アルマーが挨拶を終えたらすぐに村をさろうと。
(怖くはない……けど、……あれは、覚悟もなしに……会うのは……悲しすぎる……から)
 理由はわからない。でもみのりはそう感じていた。
「みのり? どうかしたのか?」
 グレンの心配そうな顔。
「何が……正しくて、何が……間違ってるのか。……いつまで正しくて、……いつから間違ってるのか。それが……きっと……」
 そう言ってみのりは森のほうを見つめた。


「ったく、前村長のやつ一つも止めようとしなかったな」
 森の中。旅道具を手にローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)は愚痴る。思い出すのは先程の前村長との会話だ。
「来る者拒まず去る者追わず。……やりたいことをやれ……か」
 もう少しうさんくさいような言い方をしていたが要約するとそんなことを言っていた。村を去ると言ったローグに対してだ。
(流石に今のまま村にいるわけにはいかないからな)
 ローグはとある呪いにかかり暴走事件を起こしていた。今は発動こそしてないが呪いの力は今もローグの中にあるのは確かだった。
「てわけで立つ鳥跡を濁さず……だな」
 責任を取るためにコレ以上罪を重ねないためにローグは村を出る。

『悲しいわ悲しいわ。せっかく種をうえたのに』

 村とは反対方向に歩き出したローグの後ろからそんな声が聞こえてくる。

『困ったわ困ったわ。せめてあのイレギュラーだけは殺して欲しかったのに』

 振り向くローグ。その先には目深のフードをかぶった存在があった。声と体型からして女だというのは予測できたが顔は見えない。
「……もしかしなくても、俺に呪いをかけたのはお前か?」
『そうなるのかしら』
 そう答える女にローグは本当だろうかと思う。今自分が女から感じている力は大きくない。強さ的なものを全くといっていいほど感じないのだ。不気味さはあるが恐怖はく、本当に自分を操ったのだろうかと疑問だった。
「お前は、人を操る呪いが使えるのか?」
『いいえいいえ。今の私に出来るのは相性のいい相手を眠っている間暴走させることだけ。一番相性の良かったあなたでも成功するかどうかは五分五分だったわ』
 ローグの質問に隠すでもなく女は素直に答える。
「……俺に何のようだ?」
『あなたの言う呪いを返してもらおうと思って。いなくなってしまう相手に力を割いても仕方ないもの』
「随分な言い草だな」
 そう答えながらローグは思う。この女は間違いなくニルミナスの敵だ。ここで見逃せば間違い無く二ルミナスの災いになる。そして今の自分なら確実に目の前にいる女を殺せる自信があった。そして、殺せば後悔する予感も。
『はい。返してもらったわ』
 女の言葉に自分の中にあった呪いのような感覚がなくなったのを感じる。
「……これで最後だ。……お前は何者なんだ?」
 殺すか殺さないか。迷っていたローグが口にしたのは今更ながらのこと。
『粛正の魔女ミナホ。それが私の名前』
「……それが、本当にお前の名前なのか?」
『ええ。口さがない人たちは私のことを滅びの魔女だとか歪みの災禍なんて呼ぶけれど。本当にそう呼ばれていた人たちに比べて私はきっと弱いし正しいのに』
 心外だと。そういった感情を見せて粛正の魔女ミナホと名乗る女は言う。
「そっちじゃない。『ミナホ』それが本当にお前の名前なのか?」
『悲しいわ悲しいわ。それは確かに私の名前なのに。どうして疑われるのかしら』
「……お前がどうこうじゃない。知り合いの名前とかぶってるんだよ」
 いろいろな考えを破棄してローグはそう言う。
『困ったわ困ったわ。それは確かに可哀想。私と同じ名前なんて』
 自分のことなのに他人ごとのように女は言う。
『なら、こうしましょう。私は確かにミナホだけれど、あなた達には粛正の魔女ミナと名乗りましょう』
「……それはどうも」
 全然嬉しくはないが。
『それじゃさようなら。あなたは賢かったわ。村を捨てる選択をした』
 そう言ってミナは姿を消す。
『だって、あの村は――」
 その先の言葉は風にかき消され、ミナの気配も消える。
「……薄気味悪い女だ」
 一つため息を付いてローグはそう言う。
「……流石にこれは前村長あたりに伝えないといけないか」
 村を出て行くのはそれを済ませてからだ。日付が変わるまでには村を出たいとローグは思う。
「粛正の魔女ミナ……ね」
 村の行く末にどう関わっていくのか、それが心配だった。