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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■幕間:武道大会ソロ部門−猪川VS東−


 猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は焦っていた。
 見れば対戦相手の東 朱鷺(あずま・とき)は試合が始まってから一歩もその場から動いていない。
 時折、手を動かして二体の狼に指示を出している。ただそれだけで猪川は攻め手を失っていた。
「ガアゥッ!!」
 牙が迫る。
 それを手にした剣で防いだ。
 反対側からもう一匹の狼が迫る。
「そう簡単にやられないぜ!」
 剣を蹴りあげる。衝撃で咬みついてきた狼は吹き飛ばされた。
 反対側から迫る狼は拳を合わせて吹き飛ばす。
 落ちてくる剣を掴み、東の元へと駆け出した。
「ふむ……」
 彼女は猪川の行動を見つめながら指を動かした。
 彼と彼女の間に大百足が割って入りこむ。
「押し切る!」
 百足に刃が迫る。
 ガキン、と音がなり攻撃は防がれた。
 だがそこで止まらない。猪川の背から一対の光の翼が出現すると大百足を吹き飛ばした。
 その様子を見て東が目を細める。
(――ふむ、身体能力の向上と飛翔能力の追加ですか)
 見れば猪川の身体が少し浮いている。
 東は変化の一つ一つを冷静に観察していた。
 まだ彼と東の間には距離が空いている。猪川は距離を詰めるべく次の一手に出た。
「よっと!」
 手にした剣を東目掛けて投擲した。
 彼女はその一撃を横に半歩動くことで躱す。
 距離を詰めようとする彼に対して東は何かを呟いた。
 だが何を言っているかはわからない。
「――え?」
 瞬間、身体が重くなり思うように動けなくなった。
 痛みが身体の節々に生まれる。
 その隙に二体の狼と一体の百足が彼に追いついた。
 そこで勝負はついていたのだろう。
 東に攻撃を行う前に邪魔が入る展開がこの後も続き、多勢に無勢といった様相を呈してしまっていた。
 何度か距離を詰め切りそうな展開はあったものの、その数は徐々に減っていった。
「……はあ、はあ……さ、さすがに疲れたぜ……」
 体力の限界なのだろう。
 猪川からは疲労が窺えた。
「まだ続けますか?」
「いや……やめておくわ。結構自信あったんだけど……上には上がいるなあ」
 ふう、と呼吸を整えながら猪川は苦笑した。
 緊張の糸が途切れたのだろう。
 彼はその場に両手を広げて寝転がった。
「あー……きつかった」
「なかなか良い太刀筋でしたよ」
 東は近づくと顔を覗き込みながら告げた。