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【若社長奮闘記】幻の鳥を追え!

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【若社長奮闘記】幻の鳥を追え!

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★第四話「望むのはただそれだけ」★


「頑張って。後もう少しですよ」
 山を登り始めて数日。いくら鍛えられているとはいえ、いつもとはまるで違う環境に疲れが見え始めていた。
 それでもの声に、言葉になんとか足を動かし、一行は山頂にたどり着いた。

 空は快晴。
 というよりも、雲が下に見える。残念ながら鳥の姿は見えなかったが、眼下に見下ろせる一面が雪や氷に覆われた世界は、この山を登ったものにしか味わえないもの。
 もともと「たまには山頂で歌ってみたいな」とロケ隊に参加した響にしてみれば、十分すぎるほどの成果だった。
 いや、響きだけでなく、ジヴォートにとっても……持ってきていたカメラでその景色を治めていた。
 雪と同じ白い息を吐き出せば、頭の中に何かが浮かぶ。

「あ、何かいい歌詞が浮かんだ気がする。

『真っ白な世界の中
 ただ静かな鼓動
 トクン トクン 時を刻んでく
 おっかけた視線の先に
 君が微笑んでるのが見えて
 ちょっと
 ハートのリズムが上がる』

 う〜ん。もうちょっと練るかな」

 響が頭をあやませていると、突如強い風が吹いた。ビョオオオっという吹雪の音がする。
 しかし、雪は降っていない。空は晴れたまま。

「あっ」

 声を上げたのは誰だったろう。みなが釣られて顔を上げると、光り輝く何かがいた。
 ビョオオオオっ。
 吹雪の音が相変わらず。いや、その何かが近づくほど大きくなる。
「まさか、この音は――」
 エオリアが気づいてその音を拾う。そう。この音は、その何かの鳴き声。

 透き通った氷でつくられた鳥の像。それが動いている。羽を動かし、風に乗り、何よりも太陽の光を浴びてその光を麓の村へと注いでいた。
「なるほど。
 まるで白銀の月のような色だね。たった今、空から降りて来たよう。
 吹雪の中をじっと耐え、つかの間の春を夢見る。
 風が止み、雲から顔を出す太陽に、君は何を想うのかな。
 白銀の鳥よ。黄金色の太陽に君は何を想うのか。
『お腹減った』かな。」

 しばし言葉を失っていた中、響がぽつりと歌うように呟く。氷の鳥は、歌声に耳を傾けるように目を瞑った。

(何と神々しい。吹雪に対応するため、体は丸く余り飛ばないか。雷鳥ににているな)
「丸々と肥って美味しそうだけど、高カロリーな木の実とかあるのかな」
 心の中で感想を呟くに鳥を眺める直実の横で弥十郎がそう呟いて周囲を捜す。彼の関心は未知の食材の方が強いらしい。
 雪に触れたとき、何か雪とは違う感触にあたってソレを引き出す。白色の丸く硬い……何かの実のようだった。
「ビョオオオオっ」
 氷の鳥がソレを見つけて勢いよく飛んでくる。

「氷の鳥!」
「ほ、ほんとうに氷みたいなんだな」
 アニキ・コブンらはソレを見て、リカインたちにさんざん『説得』させられたのも忘れて興奮した。
 狩人の間で幻と言われる鳥。ソレが目の前にいる。興奮するなと言うほうが酷で、何よりも人間の欲はそう簡単には消え去ったりしない。
 悠然と空を飛んでいた氷の鳥の目が鋭く、そして赤くなる。悪意を感じ取ったのか。一度方向転換した。
 再びこちらを向いたとき。鳥の目は敵を見る目に変わっていた。

「チッ。黙っていろ!」
 すぐさま宵一がアニキらに何もさせじと叫び、戦う術を防ぐ。彼の横を飛び出たもふもふ――リイムが涙ながらにアニキたちにすがりつく。
「だ、駄目でふ。珍しいとか高値だからとかで捕まえちゃ、駄目なのでふ」
 つぶらな瞳から流れ落ちる涙。それはなんとも罪悪感に駆られるもので……一瞬動きを止めてしまった。
 それはつまり、逃げる時間をもなくしたということだ。
「どうやら、まだ説得足りなかったようね」
「あはは。そうみたいだね。今度はルカも手伝おうかな」

「落ち着いてください、氷の鳥さん。私たちはあなたを傷つけるつもりはありません」
「そのとおりだ。落ち着け。アレのことは気にするな」
 フレンディスアウレウスは氷の鳥に呼びかけ、全身から圧を放つ。
 その身を傷つけぬため、目に、腹に、足に、指に。全身に力を込めて見詰め合う。
 だが相手もこの山の主とまで呼ばれる鳥だ。しばしの間にらみ合いが続く。

「ビョオオオオオオっ」

 目が赤から、もとの白とも青ともいえない色へと戻る。
 太陽の光を吸収するその身は、中で光を幾重にも反射させて蓄え、周囲へと放出する。
 光の1つがジヴォートの近くに突き刺さる。恐る恐る手を伸ばすと、ソレは酷く温かい光で、光を受けた植物が雪の中から頭を上げた。真っ白なつぼみが開き、白い華を咲かせ、そしてあっという間に朽ちて実がなる。

「ビョオオオオっ」

 氷の鳥がジヴォートの近くを滑空する。白い実を嘴でつかみ、そしてちらりとジヴォートらの方を見た――気がするが、一瞬のことだったので気のせいだったかもしれない。
 氷の鳥は再び空高く舞い上がり、旋回する。
 ジヴォートはやや呆然としながらもなんとかその姿をカメラに収めた。
「これは凄い、な」
 隣に来たエースも似たような顔をしていたが、目に、心に焼き付けようとしているようだった。
「ジヴォート。はい、これ使って」
「あ、ありがとう」
 ルカルカは双眼鏡で黙って観察し(双眼鏡をジヴォートにも貸し)、ダリルは撮影していた。
 惜しむらくは、撮影用に持ってきていたカメラたちが使えないため、画質が落ちると言う点だが、それでもこの目で見て、そしてはっきりとその姿を映した。
 間違いなく偉業である。
 だがジヴォートはそれがすごいこととは思わなかった。カメラを持つ手に力が入る。
 彼はただ――。

 ふいにジヴォートが呟く。
「この映像見て、動物嫌いが治ると良いんだけど」
「ふ〜ん。友達の動物嫌いを直すために撮影に来たの?」
 ルカルカがややわざとらしく。そして大きめの声で聞き返す。ジヴォートはハッと気づいたように口を閉じ、それから申し訳なさそうに身を縮める。
「いや、その。みんなに見せたいってのも嘘じゃなくてだな」
「うんうん、みんな分かってるよ。ね、ベアトリーチェ」
「ええ。……それにきっと、お友達にも伝わりますよ」
「そうかな……そうだといいな」
「じゃあ伝わらなかったら、伝わるまでいろんな映像を届けよう。ルカも手伝うよ。次はどこに行こうか」
「えっと、そうだな。海にもたくさん生き物がいるし、海も気になるんだよな」
「ああそれはいいね。いろんな生き物がいるし、できればまた俺も参加させてもらいたいな」
「海ですか。たくさんの生物がいる場所ですと、とても綺麗でしょうね」
「……いい加減、懲りるということを覚えて欲しいんだが」
「諦めろ飛都。周りもこうだからな。無理だ」
「あ、いいねぇ。いい食材が見つかりそう」
「いい歌詞が思いつくかも」
「水泳は身体を鍛えるにはもってこいだな」
「海ですか。水着を用意しなければいけませんね。ジヴォート様、選んでいただけますでしょうか、以上」
「お、いいんじゃね。選んでもらえば〜?」
「は、はぁっ? 洋孝まで何言って」
「ふふふ(エリス。頑張りなさい)」
「……海を舐めると痛い目を見るぞ。海の恐ろしさを教え込んでやろう」
「海でふか? イルカさんやクジラさん会えるでふか?」
「そういうのんびりしたところならいいけどな」
「あら、海? それはいいわねぇ」
「……セレン。完全に遊びまくろうとしているでしょ」
「海、か(フレイとデートとか……)」
「僕も行きますよ、ご主人様(エロ吸血鬼の思惑通りにはさせません)」
「はい。ジヴォートさん。また行かれる際は、私たちが護衛をお受けします。大船に乗ったつもりでいてください」
「海の生き物か。たしかに気になるな」
「主がいくのでしたら私も」
「何を言っているのですか。暑いところなど、また身体を崩されたらどうするのですか」
「来たくない人は来なくてもいいんですよ〜」
「……行きたくないとは言ってませんよ、ポチの助さん?」
「うん。次はスープの分量間違えないよ」
「ウキーっ!」
『海。行って見たいっす』


※次が海になるとは限りませんのでご了承ください。


* * *


 こうしてロケは無事に終了した。
 新聞に氷の鳥、ついに発見の一面が載った。ドブーツはソレを読んでわずか口元を緩め、新聞を持ってきた天音の視線に気づいて咳払いした。
「それで、動物嫌いは治りましたか?」
「ふんっ……」
 笑い含みの声に鼻を鳴らし、胸ポケットから顔を出しているゆるスターのスピカを見て
「……まあ、近づくぐらいなら許してやらなくもない」
「だってさ、スピカ。行っておいで」
 天音の声を受けて『はい! 行ってきましゅ!』と言わんばかりにスピカは勢いよくドブーツと飛び掛った。
「うわっいきなり来るな」
「ほらほら、別に近づくのは良いんでしょ?」
「だからいきなりは止めろと」

 ギャーギャー騒いでいるドブーツらを、ドブーツの秘書とブルーズはやれやれと見ていたが、暴れた衝撃で新聞が机から落ちたのでブルーズはそれを拾い上げ、まばたきをした。
 そこにはなんとも不思議な見出しがあった。

雪男の正体は白鳥!?
雪男は実はお酒好き

 その雪男が何であったのか。あえて言うまい。