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【第四次架空大戦】ティル・ナ・ノーグ

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【第四次架空大戦】ティル・ナ・ノーグ

リアクション


07 勇者の不在


 一足先に帰還した技術陣が報告書を提出して、それを元に国軍の機体の回収が始められていた。そんな国軍者の様子を、綾瀬が監視している。
(勇者の力を国軍に組み込むとは……彼らは進歩していない……)
 綾瀬は実は一番初めに現れた勇者の中で国軍や鋼鉄に勇者の力の解析に協力したメンバーの一人だったが、解析が進み次第にその力が兵器に取り組まれるようになり、嫌気が差して一人姿を消したのだった。長い年月が経ち、彼らが過ちに気付き、勇者の力を良い方向で利用していると信じて戻ってきたのだが、そこで観たモノは更に発展した『戦闘兵器』と化した勇者の力だった
 怒りと憎しみと悲しみを抱きながら、綾瀬は国軍の基地に最新奥部に封印されている愛機を召喚する。

「深き虚無より来たりて、永久の嘆きを抱きながら、悲しみの底にて眠りたる、漆黒の翼。無垢なる黒、純粋なる闇、魔王にして神。七つの大罪にまみれし愚かなるもの――汝、サタナエル! 目覚め、我がもとに顕現せよ!! ……永き眠りから、今、目覚めなさい……『サタナエル!!』」
 綾瀬が呼びだすとサタナエルは地下からワープして、突如地上へと現れる。
 それは、闇を纏った羽を持つ、優美なフォルムを持つ機体。そしてその召喚の触媒たる魔神魔王 ベリアル(まおう・べりある)は鴉の姿から人型に戻って、楽しそうに告げる。
「サタナエルを使うなんて本当に久しぶりだね! これを動かすとなると、僕達もただでは済まないけど……楽しければそれで良いか」
 その様子は、本当に楽しそうで、一片の邪気もないだけに、かえって悍ましい笑いだった。
 そんな笑いを見せるベリアルをよそに、綾瀬は吸い込まれるようにサタナエルの中に消えて、次の瞬間にはコクピットに座している。

「全てを終わりにしましょう……勇者も、国軍も、ヘルガイアも、全てを無に帰して、私も無へと帰りましょう」

 コクピットの中でそうつぶやいた綾瀬は、大きく目を見開くと、上空へとサタナエルを飛翔させる。
 そしてそのまま、基地に狙いをつけて艦載用大型荷電粒子砲を発射する。
 一条の光線が、まるでゼウスの雷のごとく大気を切り裂き、基地へと降り注ぐ。
 その一撃で基地の半分が消失するが、幸いにも其処はすでに遺棄されたブロックで、人もいないしロボットも存在しない。
 無論それは綾瀬とて理解している。最初の一撃は警告のつもりで、わざと遺棄されたブロックに命中させたのだから。
 それから綾瀬はワープを使ってヘルガイアに通じるゲートの前に出現すると、艦載用大型荷電粒子砲をゲートの中に向けて発射する。
 それはゲートの中で待機していたヘルガイアの軍勢の一部を跡形もなく消滅させる。そして、その後方、あるいは周辺の直撃を受けずに生き残った部分において、爆発が発生する。
 エネルギーの余波が、その無秩序な爆発を引き起こしたのだ。
 その結果、ヘルガイアは混乱するとともに、頭に血が上った一部の兵士たちがめいめいに好き勝手に突撃をし始めた。
「ふふ……私の出番は、ひとまずこれでおしまい。あとはかってに潰し合うといいのですわ。生き残った方を、仕留めて差し上げましょう」
 綾瀬はそうつぶやくとサタナエルをワープさせて、街から遥か遠くに離れた山頂へと移動する。そして、木々の合間にサタナエルを隠して、しばしの休息に入るのだった。

「レーダーに感! ヘルガイアです!!」
 オペレーターの報告が基地内に響く。
 緊急発進がかかり、第一級待機のパイロットが呼集される。
「ったく、あの謎の機体……いや、データベースに該当あるな。……サタナエルか。ともかくヤツのせいでいきなり始まってしまいましたよ。各員、三級待機まで呼集! なお、非番以外は全員かき集めるつもりでかかってください!」
 ルースの指示で、オペレータールームが慌ただしくなる。
覇王・マクベスより司令室へ。こちらはいつでも行ける」
 洋からの通信に、司令室が色めき立つ。
 マクベスは勇者に近い性質と攻撃力を持つ特別機で、むしろ旧オリュンポス系技術と国軍の技術を融合した技術改修機でしかないと本人などは言っているが、それでもオリュンポス機を手こずらずに撃破するだけの戦闘能力を持っている機体である。それだけに司令室からのマクベスに対する期待は高かった。
「補給に関してですが、こちらは根回しが効いたようです。食料と医薬品に関しては、ほぼ要求どおりです。弾薬、燃料も問題なし。後続の輸送部隊も確保できています。つまり、いつでもこのままヘルガイアに侵攻できます」
 エリスからの補給についての報告を聞いた洋は満足そうに頷くと、洋孝に話を振った。
「ふむ、洋孝、改造の方は?」
「改造内容はいくつかあるよ。まずはミサイルを両肩に装備して誘爆防止のために追加シールドでコーティング、バルカンは頭部に追加装備。まあ、雑魚相手であればなんとかなるかな?
 問題は荷電粒子砲なんだけど、技術改修機に取り付けるよりは次世代の試作機向けに装備させるという理由で要請は却下。まあ、基本的には今までどおりの設計思想だね。砲台になって最後に斬る。一応現地改修型並みになっているけど」
「いいだろう。其処はこちらでなんとかする。兵器によって運用を変えるのは当然のことだからな。よし、覇王マクベス、出る! ゲート開け!」
 その言葉とともに、発進シークエンスが始まり、マクベスが出撃する。
「敵は雑兵が多数。幹部クラスは確認できませんわ」
「火器管制! 目標! 敵戦闘部隊! ミサイル、バルカンは順次発砲!」
 みとの報告を受けて洋が指示を出す。
「支援爆雷散布、後は何もできないから旗艦に戻るよー。とにかく無理はせず、戻ってくること!」
 アルバトロスで一緒に出撃した洋孝が、牽制のための爆雷をひと通り散布し終えて弾薬がなくなると、そのまま基地に戻る。
 その爆雷のおかげで敵の進攻を多少遅らせることができたため、洋はひたすらミサイルとバルカンを撃ち続けて雑魚を掃討する。メインウェポンである剣は威力が高いので装甲が厚い敵か幹部級を相手にするために温存しておく構えだった。

 そんな中で、ドクターキョウジが量産型ネフィリムを率いてゲートから飛び出してくる。それを感知したネフィリム三姉妹たちの中でエクスはすぐに立ち上がり、迎撃に出ようとする。
「ちょっと、待ちなって!」
 先走るエクスをセラフが静止する。
「一人で行ってどうなるのさ。敵はたくさんいるんだよ?」
「でも……責任を取らないと……」
 俯向きながらそういうエクスに、厭戦的な気分なディミーアが反論する。
「解放されたのよ、私たち。なら好きに生きていいじゃない! できることなんて何もないわよ!!」
「でもっ……!」
 二人がいがみ合おうとした瞬間、セラフが間に入る。
「落ち着きなって。たった三人の姉妹じゃない、ここで争ってどうするのよ」
「そうだけど……でも、ボクタチがしでかしたことは、あいつを倒して責任を取らないと!」
「気にすることはないわよ。私達はそんなふうに仕組まれてただけなんだから」
「だからこそ、ボク達の手であいつを倒さないと!」
 そんな感じで論議が堂々巡りになる基地の内部に、次第に負傷をして運ばれる将兵が増えてきた。
 体の一部を失ったり、血が止まらなかったりと、ひどい傷を受けているものもいるようで、血と消毒液の匂いが基地内に充満し始める。
「ひどい……」
 それを見て、ディミーアが目を背ける。
「ねえ、ボクたちは普通の人間とは違う。戦闘向けに作られた! 戦う力があるんだ。ちょっとやそっとじゃあんな怪我もしないし……あんな人達を増やさないためにも戦いたいよ!」
「でも……」
 今にも飛び出しそうなエクスをセラフがとどめつつ、またも間に入る。
「まあ、あれだ……エクスちゃん一人じゃ心配だし、一緒に戦ってみる? 危なくなったら戻ればいいんだし。とりあえずドクターキョウジだけでも何とかしようよ?」
「……うん」
 その言葉にディミーアがうなずき、三姉妹は基地を飛び出してドクターキョウジの場所へと一直線に飛んでいった。

「これはこれは……誰かと思ったら親を裏切った三姉妹か……お前たちのせいで僕は粛清目前だ!」
 姉妹を見つけたキョウジは、憎しみの表情を浮かべながら姉妹を罵る。
「ふん、いい気味だよ。ボクたちを弄んだ罰だ!」
「覚悟してよね、ドクター」
「あまり気乗りはしませんが……お覚悟を」
 三姉妹が戦闘態勢を取ると、キョウジは量産型ネフィリムをけしかける。
 だが、数が多くとも所詮はローコスト化した量産型でしかなかった。それは三姉妹の敵ではない。まさに鎧袖一触で蹴散らされる。
 そして、追い詰められたキョウジが光線銃を手にした時、流れ弾がキョウジの背中から心臓に直撃する。
 ついで偶然にもアンドロイドの機関部分を破壊するように三姉妹にも流れ弾が命中する。
 いささか悪趣味なデウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)。そのご都合主義的な舞台装置は、一体どんな結末を望んでいるのだろうか……